米自動車環境規制の見直し、新たな21 トランプ値と統一21 トランプに注目
連邦とカリフォルニア州間の調整がひとつのカギに

2021年6月29日

交通・輸送部門から放出される温室効果ガス(GHG)のうち、米国の排出量は世界最大だ。その規模は、中国を大きく上回る。一方でバイデン政権は、2050年のカーボンニュートラルと2030年のGHGネット排出量の50~52%削減(2005年比)を掲げる。これらを目標に、環境政策や電気自動車(EV)市場で世界の主導権を握りたい政権にとって、自動車からの排出量削減は喫緊の課題になる。交通・輸送部門から排出されるGHGの8割以上が自動車だからだ。

そうした中、現政権はトランプ前政権下で緩和されたGHG排出規制の見直しを進める。結果次第では現行の21 トランプ値よりも厳しいものになるほか、前政権下で取り下げられていたカリフォルニア州(以下、加州)に対する連邦規制の適用除外が再認される可能性が高い。歴史的に、環境規制では同州が全米を牽引してきた経緯もある。今回の見直しに当たっても、連邦政府・同州間の調整に注目が集まる。

図1:交通・輸送部門における国・地域別GHG排出量(2018年)
排出量が最も多いのは米国で排出量は1.76ギガトン、2位は中国で917.0メガトン、3位はEUで807.2メガトン、4位はインドで305.3メガトン、5位はロシアで258.9メガトン、6位は日本で204.6メガトン、7位はブラジルで191.7メガトン、8位はインドネシアで154.0メガトン、9位はイランで139.2メガトン、10位は韓国で101.7メガトンとなった。

出所: Climate Watch

2018年に世界で排出された温室効果ガス(GHG)のうち、交通・輸送部門が占める割合は16.9%。部門別では、発電部門(31.9%)に続く規模を占める。交通・輸送部門の排出量を国別にみると、米国は1.76ギガトンと同部門の世界の排出量の約2割だ。2番目に多い中国(917メガトン)の2倍近くに達している(図1参照)。

また、米国の交通・輸送部門の8割以上を自動車(乗用車、小・中・大型トラック)の排出が占めている(図2参照)。バイデン政権は、2050年のカーボンニュートラルと2030年のGHGネット排出量の50~52%削減(2005年比)を目標に掲げる。前政権からの巻き返しを図り、環境対策や電気自動車(EV)市場で世界の主導権を握りたい意向もある。その現政権にとって、自動車からのGHG排出量の早期削減は喫緊の課題である。

図2:米国における分野別GHG排出量の割合 (2018年)
排出量が多い順にみると、交通・輸送部門が28%、次いで発電部門が27%、工業部門が22%、商業及び住宅部門が12%、農業部門が10%、その他部門が1%となった。また交通・輸送部門の中では乗用車および小型トラックが59%、中型および大型トラックが23%、航空機が9%、鉄道並びに船舶・ボートがそれぞれ2%ずつ、その他が5%となった。

出所:米環境保護庁

そうした中で、バイデン大統領は政権発足当初から、より厳しい自動車の排ガス規制の制定に取り組んできた。政権発足初日の1月20日には、「SAFE規制」や「One National Program」(注1、米連邦政府が排ガス、燃費基準の新規則を発表、ブラック関連ブラック ジャック カード ゲーム)などについて、「一時停止や改定、取り消し」を含む見直しを指示する大統領令に署名した。現在、それら規制の所管省庁である環境保護庁(EPA)と運輸省(DOT)が見直し作業を進めている。その結果次第では、これまでの水準を超える厳しい21 トランプ含む、新たな規制が制定される可能性がある。また、これまで一貫して厳しい基準を採用してきた加州とその準拠州であるセクション177州(注2)に対し、現在無効となっている加州独自のGHG排出規制「低排出車(LEV)規制」と、一定比率の無排出ガス車(ZEV)の販売を義務付ける「ZEV規制」の制定を再び認める可能性が高い。実現すれば、自動車メーカーや関連企業の電動化事業計画に大きな影響を与えることになる。

加州が牽引する米国の排出ガス規制

自動車の燃費・排ガス規制における加州と連邦の関係を見てみる。加州は、排ガスによるスモッグなど、米国の中でも早期から大気汚染による影響を受けてきた。このことから、環境規制の分野では一貫して先進的な政策を実施。連邦の規制導入を牽引する役割を果たしてきた。1966年には健康に悪影響を及ぼす炭化水素と一酸化炭素を対象に、全米で初めての自動車排ガス規制を制定した。その後も健康被害の原因となる大気汚染物質(クライテリア大気汚染物質、注3)を対象として規制を拡大。1990年に上述のLEV規制として改定した。他方、地球温暖化の要因であるGHGに関しては、2002年に「パブリー法(加州議会法案1493号)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(対象は2009~2016年製車)が成立。これは、全米初の自動車からのGHG排出規制だった。さらに、2012年には排気量を年平均4.7%削減するという厳しい21 トランプを含む改定LEV規制(LEV III規制、対象は2017~2025年製車)を制定した。LEV III規制には、2021年5月時点で加州を含む14州とワシントンDCが準拠(表1参照)。それら州・地域の新車販売台数は全米の約4割を占めている。なお、2019年11月のSAFE規制の施行に伴って現在、LEV III規制のうちGHG排出21 トランプ(注4)に関しては、ZEV規制とともに無効となっている。

表1:州別の環境規制など採用状況(-は未採用を表す)
州(注) 対象となる車両の製造年 2035年までにライトヴィークルの全新車のZEV化に賛同する州
(◯が賛同する州)
全米におけるライトヴィークル販売台数シェア
(2018年時点、単位:%)
現職知事の所属政党
カリフォルニア州LEV規制 カリフォルニア州ZEV規制
基本大気汚染物質規制 GHG排出規制
カリフォルニア 1992 2009 1990 11.9 民主党
ニューヨーク 1993 2009 1993 6.0 民主党
マサチューセッツ 1995 2009 1995 2.1 共和党
バーモント 2000 2009 2000 0.3 共和党
メイン 2001 2009 2001 0.4 民主党
ペンシルベニア 2001 2009 3.9 民主党
コネチカット 2008 2009 2008 1.0 民主党
ロードアイランド 2008 2009 2008 0.3 民主党
ワシントン 2009 2009 対象となる車両の
製造年は不明
1.8 民主党
オレゴン 2009 2009 2009 1.0 民主党
ニュージャージー 2009 2009 2009 3.5 民主党
メリーランド 2011 2011 2011 2.0 共和党
デラウェア 2014 2014 0.3 民主党
コロラド 2022 2022 2023 1.6 民主党
ハワイ 0.5 民主党
ノースカロライナ 2.8 民主党
ニューメキシコ 0.5 民主党
該当州数 14 14 12 12 _ _

注:表内州以外では、ワシントンDCがLEV規制、ZEV規制を採用。
出所:カリフォルニア州大気資源局(CARB)、自動車イノベーション協会(AAI)発表データからジェトロ作成

一方、排ガス規制をめぐる連邦政府の方針は、政権政党ごとに異なってきた。民主党のクリントン政権下では、1990年代後半からGHGの有害性について議論された。しかし、共和党のブッシュ(子)政権では、環境政策が企業活動にマイナスなどとして規制化には至らなかった。民主党オバマ政権下の2010年、ようやく連邦初の燃費・GHG排出規制「フェーズ1」(対象は2012~2016年製の乗用車と小型トラック)が制定された。

2012年制定の2017~2025年製車を対象とする「フェーズ2」では、GHGの年平均削減率を4.9%とし、2025年製車のGHG排出量を1マイル当たり163グラム、燃費を1ガロン当たり54.5マイルとする厳しい21 トランプが制定された(表2参照)。しかし、共和党トランプ政権下のSAFE規制では、2021~2026年製車を対象に、GHG年平均削減率約1.7%、2026年製車のGHG排出量202グラム、燃費40.4マイルに大きく緩和。民主党の現政権下で、厳格化に向けて見直されているところだ。

また、連邦政府は、気候変動枠組み条約締約国会議で採択された京都議定書やパリ協定といった国際協定から離脱を繰り返してきた。そのような中、加州は米国のパリ協定離脱後に他州とともに「米国気候同盟」を結成。独自にパリ協定順守を約束するなど、対外的にも環境政策を推進する立場を貫いている。EPAのマイケル・リーガン長官はバイデン政権によるSAFE規制の見直しに当たり、「私は州の法的な主導権を固く信じていることを明確にしてきた」(関連カード ゲーム ブラック ジャック)と述べ、加州の上乗せ規制を認める意向を示している。バイデン政権は厳しい規制を独自に敷く加州に裁量権を担保することで、同州をモデルケースとして世界的な水準の環境政策を推し進めたい意向と考えられる。

表2:加州「LEVⅢ」、連邦政府「フェーズ2」「SAFE」の達成目標比較(車別:乗用車と 小型トラック・中型乗用車の合算値)(単位:g/mi)(-は値なし)
加州/連邦 加州 連邦
規制 LEVIII フェーズ2 SAFE
目標値/削減率 目標値 削減率
(前年比)
目標値 削減率
(前年比)
目標値 削減率
(前年比)
2017 243 243
2018 233 4.12% 232 4.53%
2019 224 3.86% 222 4.31%
2020 215 4.02% 213 4.05%
2021 201 6.51% 199 6.57% 220
2022 192 4.48% 190 4.52% 216 1.82%
2023 183 4.69% 180 5.26% 213 1.39%
2024 174 4.92% 171 5.00% 209 1.88%
2025 166 4.60% 163 4.68% 206 1.44%
2026 202 1.94%

注:LEVIIIの目標値は中間評価時に発表された予想排出量。
出所:米政府官報、カリフォルニア州大気資源局(CARB)からジェトロ作成

メーカーは統一21 トランプを切望

加州の排ガス規制のこれまでの取り組みと、その裁量権をめぐるトランプ・バイデン両政権の違いについては、前述のとおりだ。一方で自動車業界は、燃費・排ガス21 トランプ値の全米一元化を求めている。その根底には、二重規制によるコスト増を回避したいという業界側の思惑がある。SAFE規制をめぐって加州が連邦政府を提訴した裁判では、トヨタなど複数のメーカーが連邦を支持するかたちで参加した(2019年11月7日付ビジネス短信参照)。自動車イノベーション協会のジョン・ボゼーラ会長兼最高経営責任者(CEO)はその背景として「企業は必ずしも連邦政府による21 トランプ値の緩和を支持しているわけではなく、あくまで連邦による21 トランプの一元化を求めている」と説明した(「ワシントン・ポスト」紙電子版2019年10月28日)。また、ゼネラルモーターズ(GM)のメアリー・バーラ会長兼CEOは、大統領選挙後の2020年11月23日、環境団体に宛てた書簡の中で「GMとバイデン次期大統領、加州の間でEV普及に向けた目標は一致している」とし、全米で統一した21 トランプの制定に向けて一致団結する姿勢を示した(2020年11月25日付ビジネス短信参照)。

今回の見直しの中で、バイデン政権が全米統一21 トランプを採択するかはまだ明らかではない。他方で、加州のギャビン・ニューサム知事が2020年9月に発表した知事令を連邦の指標として踏襲するよう求める声が上がっている。その知事令では、2035年までに乗用車・小型トラックの全ての新車をZEVとする販売目標が示された(2020年10月2日付ビジネス短信参照)。なお中・大型トラックに関しては、2021年1月の知事令で2045年までのZEV化とされた。また、2月には、知事令の具体化として、詳細な車種を特定するとともに、販売だけでなく運行側の規制についても新たに制定されることが明らかになった(2021年4月8日付ビジネス短信参照)。これらは、世界的にも厳しい目標だ。例えばEUでは、2050年までにほぼ全ての乗用車やバンのZEV化することが提言され、その水準を上回っている。上院で環境規制を所管する環境公共事業委員会のトム・カーパー委員長(民主党、デラウェア州)は、リーガンEPA長官に送った書簡の中で「米国がZEVの導入につながる強固な政策を確立しなければ、自動車産業の雇用と業界でのリーダーシップを他国に奪われる危険性がある」とし、加州目標に沿った21 トランプ値を策定するよう求めている(政治専門誌「ザ・ヒル」5月3日)。さらに、加州目標に合意する12州の知事もバイデン大統領に対し、米国の産業と世界での競争力維持のために、同州の目標のような厳しい排ガス規制の連邦での採用を呼びかける共同書簡PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(605.01KB)を提出している。メーカーでは、既にGMが加州同様、2035年までの全新車ZEV化を掲げている。

プリンストン大学の政策提言を目的としたプロジェクト「ネットゼロ・アメリカ」によると、2050年のカーボンニュートラルを達成するためには、同年までに全米を走行する自動車3億台をEV化する必要があるという(2020年12月25日)。科学雑誌「ネイチャー・クライメート・チェンジ」は同様に90%のZEV化を前提としている(2020年9月28日)。これらを前提に、平均12年といわれる走行車両年数に照らすと、2030年代中盤にはほぼ全ての新車のEV化が要件になることも推定される。こうした試算に照らしても、連邦が加州目標を21 トランプ値策定の目安とする可能性は十分に高いと考えられる。

新たな21 トランプ値に関しては、「クリーンカーズ枠組み協定」(2020年8月21日付ビジネス短信参照)が参照されるとの見方もある。この協定は、SAFE規制発効後もGHG削減とEV移行の加速化に向け一貫して取り組むことを目的に、2026年製車までを対象にフォード、ホンダ、フォルクスワーゲン、BMW、ボルボの5社が加州との間で合意したものである。毎年のGHG削減率をSAFE規制より厳しく、LEVIIIより緩い年平均3.7%に定め、セクション177州も適用範囲になる。加州大気資源局(CARB)の広報担当デービッド・クリガーン氏は、ジェトロのeメールでの質問に対し「より厳格なオバマ政権下でのGHG排出21 トランプは、加州21 トランプに合致するものだった。(同協定は)その厳しい21 トランプを自動車メーカーが達成できるよう、一定の猶予期間を提供するものだ」(2021年5月12日)と回答した。新たな21 トランプが制定されるまでの間、LEV IIIに代わる21 トランプ値としても位置付けられていることが、ここから読み取れる。

全米での連邦と加州の統一21 トランプは、二重規制によるリスクを回避したいオバマ政権の下で、加州が2010年に制定された連邦規制「フェーズ1」に適合した車両を加州21 トランプに適合したとみなす「みなし準拠(deemed to comply)」を定め、さらに、2012年の加州LEV IIIの21 トランプ値を連邦「フェーズ2」とほぼ同じ水準に設定したことで実現していた(表2参照)。加州を切り捨てるかたちで21 トランプの一元化を成立させたトランプ政権とは異なる対応ということになる。バイデン政権下では、2050年のカーボンフリーとその手段であるZEV化の推進という、より具体的な目標達成のため、オバマ政権と同様に、加州やメーカー、環境団体など関係機関の利害を取り込みながらの複雑な調整が行われるとみられる。加州では2021年末を期限に、現行のLEV III以降の新たな21 トランプ値を策定中で、その中で連邦21 トランプとのすり合わせが行われることも予想される。連邦と加州の今後の対話に注目したい。


注1:
トランプ前政権は、21 トランプ緩和。また、それまで州・地方自治体には、連邦基準順守の適用を除外することで上乗せ規制を認めていたところ、適用除外を認めないとしていた。2021年1月20日の大統領令は、これらの取り下げを含め、見直しを指示したもの。
SAFE車両規制は、全米統一21 トランプの制定を含む「SAFE1」(2019年9月27日制定、2019年11月26日施行)と、燃費・GHG排出21 トランプ値の緩和を含む「SAFE2」(制定日:2020年4月30日、施行日:2020年6月29日)とで構成される。
このうち、SAFE1がOne National Programと題される。ここでは、21 トランプ設定の権限を連邦政府に一元化することなどが規定された。
注2:
大気浄化法(CAA)177条(セクション177)では、同法209条により一定条件の下で加州に認められている連邦規制に対する適用除外を同州以外の州が採用することを認めている。2021年5月現在、加州に加え、13州とワシントンDCが加州LEVを採用(セクション177LEV州)、同様に11州とワシントンDCが加州ZEVを採用(セクション177ZEV州)している。
注3:
自動車の排出ガス規制の対象となる物質には、窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HCs)、粒子状物質(PM)などのクライテリア(基本)大気汚染物質と、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、亜酸化窒素(N2O)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、パーフルオロカーボン(PFCs)、六フッ素化硫黄(SF6)を含む温室効果ガス(GHG)があり、連邦政府ではGHGとそれ以外で規制が分かれている。
注4:
LEV IIIのうち、クライテリア(基本)大気汚染物質に関する加州の適用免除は有効。

変更履歴
文章中に誤りがありましたので、次のように訂正いたしました。(2021年8月4日)
13段落目
(誤)LEVIIIより緩い年平均2.7%に定め
(正)LEVIIIより緩い年平均3.7%に定め
21 トランプ
執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所 リサーチャー
大原 典子(おおはら のりこ)
民間企業勤務を経て2013年よりジェトロ・ニューヨーク勤務。自動車産業を柱に米国の産業調査を担当。