2020年貿易収支は509億4,108万ドルの黒字、輸入額の大幅減少が要因(ブラジル)
コロナと対中強硬ムードの中でも高まった中国の存在感

2021年5月25日

ブラジル経済省は2021年1月4日、2020年通年の貿易収支(国際収支ベース)を発表した。2020年は、新型コロナウイルス感染拡大により、ブラジル経済も大きな打撃を受けた。コロナ禍で2020年の実質GDP成長率はマイナス4.1%と減退し、低金利政策や大規模財政出動の影響もあって、通貨も歴史的なレアル安が進んだ。本レポートでは、貿易収支の結果を通して、2020年のブラジルを振り返る。

2021年1月4日のブラジル経済省の発表によると、2020年の貿易は21 トランプ(FOB)が6.9%減の2,098億7,838万ドル、輸入(FOB)が10.4%減の1,589億3,729万ドルで、貿易収支は509億4,108万ドルの黒字となった。貿易収支の黒字幅は統計を取り始めた1989年以降3番目に高い数値となった(図1参照)。これは、新型コロナの影響で21 トランプ入ともに減少した中にあって、21 トランプが、大豆はじめ農産物21 トランプの堅調に支えられ、輸入ほど大きく減少しなかったためだ。一方、輸入は、内需と生産活動の低迷で、消費財、資本財ともに大幅に減少した。

図1:貿易収支の推移 (単位:100万ドル)
2014年から2020年までの21 トランプの貿易収支について表したグラフ。2020年は509億4,108万ドルと黒字。

出所:経済省より21 トランプ作成

通貨安と米中摩擦効果で一次産品21 トランプが増加

21 トランプを主要品目別にみると、21 トランプ全体の13.6%を占める大豆(前年比9.5%増)をはじめ、サトウキビ(64.6%増)、牛肉(18.2%増)、コーヒー豆(8.7%増)などの農畜産物の21 トランプが大幅に増加した。また、全体の11.6%を占める鉄鉱石も19.9%増加した。一方、新型コロナの影響による原油価格の大幅下落や世界的な需要の低下で、原油(18.9%減)、燃料油(9.9%減)は減少した。化学パルプは、新型コロナに伴う外出規制でトイレットペーパーなどの需要が増え、国内での「紙」需要が急速に高まったことが影響し(2021年3月4日付ビジネス短信参照)、生産量は増加したが、21 トランプは20.5%減少した。また、好調だった農産物の中でも、トウモロコシについては、豊作だったことに加えレアル安で21 トランプが促進されやすい状況であったものの、国内の畜産農家からのトウモロコシ需要が非常に高かったことで21 トランプ額は19.8%減少した。主要21 トランプ品目のトウモロコシが減少したため、農畜産物21 トランプ全体では前年比で減少した(表1参照)。

表1:ブラジルの主要品目別21 トランプ(通関ベース)

21 トランプ(FOB)(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目名 2019年 2020年
金額 金額 構成比 伸び率
大豆 26,072 28,561 13.6% 9.5
鉄鉱石 20,237 24,259 11.6% 19.9
原油 24,200 19,614 9.3% △ 18.9
サトウキビ 4,482 7,379 3.5% 64.6
牛肉 5,635 6,663 3.2% 18.2
大豆油かす 5,855 5,909 2.8% 0.9
トウモロコシ 7,212 5,786 2.8% △ 19.8
化学パルプ 7,010 5,571 2.7% △ 20.5
コーヒー豆 4,575 4,974 2.4% 8.7
燃料油 4,850 4,371 2.1% △ 9.9
合計(その他含む) 225,383 209,878 100.0% △ 6.9

出所:ブラジル経済省貿易統計(COMEX STAT)より21 トランプにて作成

トウモロコシを除くと、農畜産物21 トランプの堅調が目立ったが、その理由として、ブラジル応用経済研究所(IPEA)は3月31日付のプレスリリースで次の点を挙げている。

  • 歴史的なレアル安(図2参照)による価格競争力の向上。
  • 米中摩擦を背景とした中国による輸入先のブラジルへの切り替え。
  • 天候要因による豊作。
図2:為替相場(米ドルに対するレアル)の推移
2018年1月から2021年3月末までの推移。2018年は1ドル3.27レアルであったものが、2021年3月末時点では1ドル5.79レアルとレアル安が進んでいる。

出所:ブラジル中央銀行

ブラジルは世界1位の大豆生産国であり、2019-2020年も世界の大豆生産全体の37.4%をブラジルが生産した。主たる21 トランプ先は中国だ。中国の大豆輸入先の国別シェア(金額)をみると、2019年はブラジルが52.8%、米国が35.1%であったが、2020年はブラジルが63.1%に拡大し、米国が26.9%に縮小した(2021年2月10日付ビジネス短信参照)。前年比18.2%増加した牛肉の21 トランプも、50.3%が中国向けの21 トランプであった。コーヒー豆については、2020年は天候が良く生産量が30.0%増加したことに加え、通貨安による価格競争力の向上も相まって21 トランプが増加した。

21 トランプを地域別にみると、ヨーロッパ(10.6%減)、北米(22.3%減)、南米(18.9%減)を中心に、多くの地域で減少する中、アジア(中東除く)は6.5%増で、うちASEANは19.7%増となった(表2参照)。アジア向け21 トランプが増加した要因は、21 トランプ全体の32.3%を占める中国向けが7.0%増加したためだ(表3参照)。ASEAN向け21 トランプの内訳をみると、シンガポール向け(27.4%増)やマレーシア向け(13.3%増)が特に増加した。なお、日本は24.0%減であった。

表2:ブラジルの地域別21 トランプ入(通関ベース)(単位:100万ドル,%)(△はマイナス値)
国名 21 トランプ(FOB) 輸入(FOB)
2019年 2020年 伸び率 2019年 2020年 伸び率
アジア(中東除く) 93,231 99,253 6.5 59,126 55,766 △5.7
階層レベル2の項目ASEAN 11,848 14,183 19.7 7,586 6,991 △7.8
ヨーロッパ 42,502 38,005 △10.6 41,559 35,462 △14.7
北米 37,996 29,541 △22.3 36,551 29,086 △20.4
南米 27,952 22,659 △18.9 20,657 16,615 △19.6
合計(その他含む) 225,383 209,878 △6.9 177,348 158,937 △10.4

出所:ブラジル経済省貿易統計(COMEX STAT)より21 トランプにて作成

表3:ブラジルの主要国・地域別21 トランプ入(通関ベース)

21 トランプ(FOB)(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国名 2019年 2020年
金額 金額 構成比 伸び率
中国 63,358 67,788 32.3% 7.0
米国 29,716 21,482 10.2% △ 27.7
アルゼンチン 9,791 8,489 4.0% △ 13.3
オランダ 10,126 7,383 3.5% △ 27.1
カナダ 3,382 4,230 2.0% 25.1
日本 5,432 4,127 2.0% △ 24.0
ドイツ 4,731 4,124 2.0% △ 12.8
スペイン 4,043 4,057 1.9% 0.4
チリ 5,163 3,850 1.8% △ 25.4
メキシコ 4,898 3,829 1.8% △ 21.8
韓国 3,450 3,762 1.8% 9.1
シンガポール 2,881 3,671 1.7% 27.4
マレーシア 2,828 3,203 1.5% 13.3
イタリア 3,149 3,055 1.5% △ 3.0
インド 2,777 2,885 1.4% 3.9
合計(その他含む) 225,383 209,878 100.0% △ 6.9
輸入(FOB) (単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国名 2019年 2020年
金額 金額 構成比 伸び率
中国 35,271 34,041 21.4% △ 3.5
米国 30,090 24,122 15.2% △ 19.8
ドイツ 10,280 8,598 5.4% △ 16.4
アルゼンチン 10,552 7,788 4.9% △ 26.2
韓国 4,706 4,088 2.6% △ 13.1
インド 4,258 3,947 2.5% △ 7.3
日本 4,094 3,713 2.3% △ 9.3
イタリア 4,041 3,453 2.2% △ 14.6
フランス 3,470 3,190 2.0% △ 8.1
メキシコ 4,197 3,157 2.0% △ 24.8
チリ 3,176 2,896 1.8% △ 8.8
ロシア 3,680 2,716 1.7% △ 26.2
スペイン 2,830 2,533 1.6% △ 10.5
ベトナム 2,523 2,303 1.4% △ 8.7
英国 2,327 2,176 1.4% △ 6.5
合計(その他含む) 177,348 158,937 100.0% △ 10.4

出所:ブラジル経済省貿易統計(COMEX STAT)より21 トランプにて作成

内需減退で中間財と消費財の輸入が大幅減

輸入を主要品目別にみると、資本財(輸送機器除く)が24.0%増加したことにより資本財全体でも16.7%の増加となった。新型コロナの影響が軽微であった農業セクターなどの機械輸入が堅調だったためだ。しかし、中間財(10.1%減)、消費財(14.4%減)、燃料及び潤滑油(39.6%減)は減少した(表4参照)。

表4:ブラジルの主要品目別輸入(通関ベース)

輸入(FOB)(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目名 2019年 2020年
金額 金額 構成比 伸び率
資本財 25,227 29,435 18.5% 16.7
階層レベル2の項目資本財(輸送機器除く) 21,113 26,181 16.5% 24.0
階層レベル2の項目工業用輸送機器 4,114 3,254 2.0% △ 20.9
中間財 106,693 95,883 60.3% △ 10.1
階層レベル2の項目工業用資材(加工品) 67,274 61,472 38.7% △ 8.6
階層レベル2の項目資本財部品および付属品(輸送機器用部品除く) 21,061 20,122 12.7% △ 4.5
階層レベル2の項目輸送機器用部品 11,329 7,580 4.8% △ 33.1
階層レベル2の項目工業用資材(原料) 3,166 2,433 1.5% △ 23.2
消費財 24,630 21,076 13.3% △ 14.4
階層レベル2の項目非耐久および半耐久消費財 19,238 17,576 11.1% △ 8.6
階層レベル2の項目耐久消費財 5,392 3,500 2.2% △ 35.1
燃料及び潤滑油 20,670 12,484 7.9% △ 39.6
合計(その他含む) 177,348 158,937 100.0% △ 10.4

出所:ブラジル経済省貿易統計(COMEX STAT)より21 トランプにて作成

中間財と消費財の輸入が減少した要因は、コロナ禍による内需の減退だ。2020年の実質GDP成長率を需要項目別にみると、民間最終消費支出は5.5%のマイナスだった。特に、第2四半期(4~6月)は前年同期比12.2%減と大きく落ち込んだ。政府による現金支給などの支援もあり、年後半にかけて消費は回復傾向を示したものの、消費財輸入を回復させるまでには戻らなかった。特に、価格の高い耐久消費財の輸入は35.1%も減少した。また、総固定資本形成(投資)も、第2四半期に前年同期比13.9%のマイナスを記録した。感染防止のための各種活動規制の影響で、多くの企業が操業の停止や縮小に追いこまれたためだ。その影響で、中間財や一部の資本財に対する輸入需要は大幅に減少した。

輸入を地域別にみると、アジア(中東を除く)が5.7%減、ヨーロッパが14.7%減、北米が20.4%減、南米が19.6%減とすべての地域で減少した。また、輸入を主要国別にみると、最大の輸入相手である中国(総輸入額の約2割)が3.5%減にとどまったが、輸入額第2位の米国は19.8%減と大幅に減少した(表2、3参照)。

21 トランプ面で年々拡大する中国の存在感

国別の21 トランプ入の構成比をみても分かるが、ブラジルにおける中国の影響度は大きい。2020年のブラジルと中国の貿易額は1,000億ドルを超えた。ブラジルの主要21 トランプ品目のうち、21 トランプ構成比の13.6 %を占める大豆は、の21 トランプ先の73.2%が中国だ。また、牛肉も21 トランプ額全体の50.3%が中国である。米国も21 トランプで10.2%、輸入で15.2%と構成比は低くはないが、これまでの中国と米国の21 トランプ入額の推移をみてみると、中国と米国の差が年々拡大していることが分かる(図3、4参照)。中国と米国向け21 トランプ額の推移をみると、2009年に21 トランプ額で中国が初めて米国を抜いてから、2020年まで連続して中国が米国を上回っており、両国間の21 トランプ額の差は開き続けている。さらに、過去5年のブラジルと中国の貿易額をみると年々増加傾向にある(図5参照)。

対中強硬路線を敷いた米国のトランプ前大統領を半ば信奉し、自らも中国に対し批判的な態度を示していたボルソナーロ大統領。2020年10月19日には、貿易・経済協力協定(ATEC)が米伯間で調印された(2020年10月21日付ビジネス短信参照)。そうした中にあっても、貿易面における中国の存在感は低下するどころか、むしろ高まったというのが現実だ。新型コロナ禍が続く中、ブラジルは新興国の中ではそれなりにワクチン接種が進んでいるが(注)、その約8割は中国シノバック社製のものだ。2021年中には、ブラジルで高速通信規格5Gの入札が実施される見込みだが、中国の華為技術(ファーウェイ)の参加認否が話題に上っている。トランプ前政権はブラジル政府にファーウェイ排除を働きかけてきたが、ブラジル国内の大手通信キャリアはそれに反対。トランプ政権が終了しバイデン政権となった現在も米国政府のファーウェイ参加に消極的な姿勢は変わっていないが、新型コロナ感染拡大で中国からのワクチンの提供に頼っていることから、ブラジル政府内ではファーウェイ参加容認へと議論が傾いている。ポストコロナ時代におけるブラジルと中国、そして米国との関係に今後も注目したい。

図3 :中国・米国の21 トランプ推移 (単位:100万ドル)
2008年時点では21 トランプが165億2000万ドル、米国が274億1111万ドルと米国が上回っていたものの、2020年は21 トランプが677億8800万ドル、米国が214億8200万ドルと、21 トランプが大きく上回っている。

出所:ブラジル経済省貿易統計(COMEX STAT)より21 トランプにて作成

図4:中国・米国の輸入推移 (単位:100万ドル)
2011年時点では、21 トランプが327億8600万ドル、米国が339億7300万ドルと米国が上回っていたが、2020年時点では21 トランプが340億4100万ドル、米国が241億2200万ドルと21 トランプが米国を大きく上回っている。

出所:ブラジル経済省貿易統計(COMEX STAT)より21 トランプにて作成

図5:過去5年間の中国との貿易額の推移 (単位:10億ドル)
2016年は580億ドル、2017年は750億ドル、2018年は990億ドル、2019年は990億ドル、21 トランプは1020億ドルと年々増加している。

出所:ブラジル経済省貿易統計(COMEX STAT)より21 トランプにて作成

21 トランプ
執筆者紹介
21 トランプ海外調査部米州課中南米班
髙氏 朋佳(たかうじ ともか)
2020年、21 トランプ入構。2020年4月から現職。