ブラック クイーン ブラック ジャック(ロシア)
ロシア・スタートアップ企業事例(2)

2019年10月18日

日本をはじめとする世界各国では、21世紀型教育として、科学、技術、工学、数学の4分野に重点を置く「STEM教育」に注目が集まっている。そこから一歩踏み込み、ロボット教育についても、日本でその重要性が徐々に認知されるようになってきている。ロシアでも「教育の質向上」に向け、ロボット教育に取り組むスタートアップ企業がみられる。そのうちの1つが、サンクトペテルブルクとフィンランドに拠点を有するロッボ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますだ。創業者のパベル・フロロフ氏と、最高執行責任者(COO)のイリヤ・ディネルシュタイン氏に話を聞いた(2019年7月5日)。

質問:
企業概要について。
答え:
当社は2000年に創業したロボット製作に関する教育システム作成と、それのフランチャイズ展開に従事している。従業員は70人。拠点はモスクワ、サンクトペテルブルクのほか、フィンランドに構えている。
ブラック クイーン ブラック ジャック
ロッボ創業者パベル・フロロフ氏(左)と
COOのイリヤ・ディネルシュタイン氏(ジェトロ撮影)
当社はロボット製作キットと教育・学習プログラムを開発・提供している。例えば、「ロボキット」(写真参照)と呼ばれるロボット製作キットは、対象年齢5~15歳で、5つの簡単な磁気マウントセンサーとLEDライトを備えた製品だ。子供たちがロボットをプログラミングし、センサーを変えて組み合わることで、複雑な技術を作ることができる。加えて、当社製品を活用したロボット教育カリキュラムの作成・展開も行っている。

ロボット製作キット「ロッボキット」(ジェトロ撮影)
当社の製品・サービスによって、小中学生がプログラムミングなしに、ロボットプログラムがどのように構成されているかを理解することができる。ロボット教育は多くの学校で行われているが、十分な教え方ができていないなどの問題を抱えており、質の高いアプローチが求められている。当社の製品・サービスはこういったニーズに応えることができるものだ。
質問:
売り上げや市場動向はどうか。
答え:
現在の売上高は年間で数百万ユーロだ。子供向けの教育分野が主なターゲット。売り上げの80%はロシア国内で、ブラック クイーン ブラック ジャックは20%。ブラック クイーン ブラック ジャックではフィンランド、ドイツ、イタリア、タイ、英国、米国、スペイン、ベトナムで販売。フィンランドでは既に55カ所の学校に導入されている。輸出を通じてブラック クイーン ブラック ジャック展開を図っていく。
市場動向については、「STEM教育」への注目が高まる中、ロボット教育導入を試みる学校が増えていることを背景に、マーケットは拡大している。他社製のロボットは機能が限定的なため、子供が飽きてしまい、製品に関心を失ったらそこで製品の活用余地はなくなってしまう。他方、当社製のロボットキットは12段階に分かれ、さまざまなかたちに応用・格上げしていくことが可能なため、興味や関心が3年間は続くというデータがある。
質問:
ビジネスモデルと強みについて。
答え:
当社のビジネスモデルは大きく2つある。1つ目は学校や公共施設を対象とし、ブラック クイーン ブラック ジャック提供する「ロボクラス」事業だ。このビジネスには、ハードウエア、ソフトウエア、カリキュラム・教育材料の3つが含まれる。顧客数は200社ほど存在する。
2つ目は、ロボット工学とプログラミングに関する学校(クラブ)のフランチャイズ事業「ロボクラブ」だ。教育ビジネスに携わっているビジネスマンに販売し、その後、消費者に展開するものだ。これには、ハードウエア、ソフトウエア、カリキュラム、ビジネスモデル・ブランディング・マーケティングシステムの4つの分野が含まれる。フランチャイジーは100社程度だ。
当社製品の強みはオープンソースであること。他のロボット分野の企業は自社製品を特許で守っている。特許で保護した場合、ユーザーによる活用・応用が限定されるが、当社製品はユーザーが自由に加工・応用することができる。このように、工夫する余地をユーザーに与えることはイノベーション教育に重要と考えている。また、他社製品に比べ、価格が15~20%程度安いこともある。
質問:
生産・品質管理体制は。
答え:
生産はロシアとフィンランドの両方で行っている。チップ部品などは主にフィンランドで生産し、ロシアで箱詰めする。外国向けにはフィンランド製で展開している一方、ロシア向けはロシア製としている。
生産台数は年間5万個で、委託生産の形態をとっている。販売が伸びて50万個に拡大した場合、新工場が必要となる。当社はグローバル企業を目指していることから、フィンランド以外では、中国、香港などでの製造も検討している。生産コストが安いためだ。品質管理についてはフィンランドスタンタードで行っており、CEマーキングも取得している。
質問:
資金調達の実績は。
答え:
これまでに受領した投資額は300万ユーロ。科学技術分野小規模企業発展協力基金(イノベーション協力基金)、工業商務省、サンクトペテルブルク市、グーグルからグラント(助成金)をもらっている。
質問:
リスク管理はどのようにしているか。
答え:
当社が心掛けている主な点は、a. 複数の通貨建てで販売すること(為替リスク対策)、b. 生産拠点を持たないこと(マクロ経済変動対策)、c フランチャイズ契約に基づくライセンス料での展開だ。取引リスク管理については、全額前払いのポリシーを採用している。国家調達の場合は後払いにならざるを得ないが、パートナー経由で参加するためリスクはない。国家調達への参画自体は増えている状況だ。販売はパートナーのほかディストリビューター経由がある。
知財権侵害対策について、ハードウエア、ソフトウエアはオープンソースのため特許保護などは行っていない。その代わり、著作権、商標権などでリスクを管理している。フランチャイズ契約では、営業上の秘密について非常に厳しいルールを設定している。
質問:
今後の展開と日本への進出計画は。
答え:
今後の計画は、a. パートナーネットワークを強化し、ロボクラスのフランチャズ展開を拡大すること、b. ロシアとフィンランドに研究開発拠点を大学に開設すること、c.製品を日本を含む世界中で作ることだ。
研究開発では、コンピュータビジョン分野、人工知能(AI)ロボット分野に注力している。この分野のオリンピックが行われるからだ。また、人体の電気信号でロボットをコントロールできるような技術をいま開発している。さらに、デジタルファブリケーションにも取り組んでおり、3Dプリンターや仮想現実(VR)を教育・エンジニアリング分野に応用する予定だ。
日本での展開に関心を持っている。福岡市が2019年5月に開催したピッチコンテストに参加し、ロシアの参加者の中で優勝した。日本への進出戦略としては、日本の学校への導入に向け、まずは日本に代理店を設置することが重要と考えている。日本語、ロシア語、英語を理解する日本在住のマネジャーも必要だ。日本での駐在員事務所設立に関心があるが、まずは顧客を獲得することが重要だ。日本は「閉鎖的な国」というアドバイスを良くもらうので、専門家のアドバイスを得て、展望を切り開いていくことが大切と考えている。
執筆者紹介
ブラック クイーン ブラック ジャック調査部欧州ロシアCIS課 リサーチ・マネージャー
齋藤 寛(さいとう ひろし)
2007年、ジェトロ入構。ブラック クイーン ブラック ジャック調査部欧州ロシアCIS課、ジェトロ神戸、ジェトロ・モスクワ事務所を経て、2019年2月から現職。編著「ロシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2012年7月発行)を上梓。