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ドイツ食品産業の今後の変化と課題
2019年5月27日
ドイツ IT・通信・ニューメディア産業連合会(BITKOM)は3月26日、「食品産業4.0」と題したドイツ食品産業のデジタル化の現状や課題などに関する調査を発表 した。調査は、BITKOMとドイツ食品飲料産業連盟(BVE)が従業員20人以上のドイツの食品製造企業304社を対象に実施したもの。デジタル化はドイツの食品産業の将来的な競争力を保つための重要なテーマとして位置付けられている。
ギャンブル ゲーム 無料大きく変化する食品業界
ギャンブル ゲーム 無料、食品産業は今後大きく変わることが予想されている。今回調査で、2030年までに製造企業側で実現されることについて聞いたところ(複数回答)、回答企業の68%が「ビッグデータやブロックチェーン技術の活用により、食品の原産地までの完全なトレーサビリティーが実現可能になる」と回答した(表1参照)。そのほかに実現することとしては、「注文を受けてからリアルタイムでの製造」(62%)、「スマート販売予測による余剰食品廃棄の完全防止」(58%)、「スマートパッケージで日持ちが確認できる」(46%)などが挙がった。
ビッグデータやブロックチェーンにより、食品の原産地までの完全なトレーサビリティーや情報検索が可能になる | 68 |
---|---|
注文を受けてからリアルタイムでの製造 | 62 |
スマート販売予測による余剰食品廃棄の完全防止 | 58 |
スマートパッケージで日持ちが確認できる | 46 |
食品の付加製造(3Dプリンティング) | 30 |
注:「広く普及する」および「普及する」の割合
出所:Bitkom Research
消費者側の変化については、顧客とのコミュニケーションや流通の透明性の向上、個別サービスの提供が可能になると予想される。回答者全員(100%)が「消費者が生産者とリアルタイムでコミュニケーションできるようになる」と回答(表2参照)。また、「消費者がデジタル形式で商品の流通過程をたどることができるようになる」と挙げた回答者も非常に多かった(94%)。「商品の最低受注単位が1(ロットサイズ1)となり、個人用に生産される」と回答した企業の割合の高さも注目に値する(65%)。
消費者が生産者とリアルタイムでコミュニケーションできる | 100 |
---|---|
消費者がデジタル形式で商品の流通過程をたどることができる | 94 |
生産者が消費者の行動を予測できる | 89 |
商品の最低受注単位が1(ロットサイズ1)となり、個人用に生産される | 65 |
生産者が消費者の自宅に商品を直接配送する | 54 |
消費者がウェブカメラにより生産現場を観察できる | 48 |
注:「広く普及する」および「普及する」と回答した割合
出所:Bitkom Research
デジタル化がもたらす商機を期待するも、多くの企業は導入に課題
ドイツの食品企業は、デジタル化を商機と捉えている。「脅威である」と答えた企業が14%であったのに対し、チャンスとする企業が84%を占めた。デジタル化のメリットとして、98%が「プロセスの改善とより高い生産効率」を挙げた(複数回答)。また、93%の企業が「商品・サービスの品質改善と持続可能性へのさらなる貢献」と回答したほか、「プロセスの透過性の向上」がメリットと回答した企業は90%を占めた。
こうしたメリットを享受すべく、新たな技術の導入を計画している食品企業も多い。既にデジタル技術を使用していると回答した企業は66%で、25%は今度の導入を計画していると回答した。既に使用されている技術で最も大きい割合を占めるのは、クラウド・コンピューティングとロボットで、それぞれ47%(導入予定:15%)、38%(同27%)となっている(複数回答、表3参照)。これに、ビッグデータ(22%、導入予定:13%)や、モノのインターネット(IoT)(18%、導入予定:14%)が続く。しかし、ブロックチェーンを既に使用している企業は3%、導入を予定している企業は4%とわずかだった。「ブロックチェーンなどの技術が今後10年で食品産業をリードすると考える企業は、今、同技術の導入に着手する必要がある」と、BITKOMのベルンハルト・ローレーダー最高経営責任者(CEO)は指摘する。
デジタル技術 |
既に導入 している |
今後導入 する予定 |
---|---|---|
クラウド・コンピューティング | 47 | 15 |
ロボット | 38 | 27 |
ビッグデータ | 22 | 13 |
モノのインターネット(IoT) | 18 | 14 |
スマートディバイス | 9 | 15 |
人工知能(AI) | 8 | 15 |
ブロックチェーン | 3 | 4 |
出所:Bitkom Research
ドイツの多くの食品企業がデジタル化に当たって課題を抱えている(70%)ことも明らかとなった。食品産業のデジタル化の最も大きい障壁として、88%の企業は「従業員のデジタルリテラシーの不足」を挙げている(複数回答、表4参照)。また、「高い投資コスト」(80%)や「運用経験不足(不安定化)」(77%)、「データなどの情報盗用リスク(データセキュリティー)」(70%)なども導入の障壁として挙がった。
従業員のデジタルリテラシーの不足 | 88 |
---|---|
高い投資コスト | 80 |
運用経験不足(不安定化) | 77 |
データなどの情報盗用リスク(データセキュリティー) | 70 |
不十分なインターネット環境 | 69 |
高度な複雑性 | 59 |
エラー・停止などの障害リスク | 54 |
出所:Bitkom Research
一方、デジタル化の推進体制をみても、デジタル化に取り組む独立した専門チームのある企業は7%のみであり、IT関係部門の中にデジタル化に取り組むチームがある企業も22%にすぎない。
デジタル化を進めるための提携相手として、回答者の91%は専門コンサルティングやデジタル化支援の専門のサービス提供者を活用すると回答(複数回答)、最も大きい割合を占めている。サプライチェーンの中の他の企業や経済団体などとの提携が続くが、割合は比較的少ない(それぞれ29%、24%)。
ギャンブル ゲーム 無料、競争力強化に成功する事例も
食品産業でのデジタル技術の導入は、他の多くの産業分野に比べて比較的遅れており、近年ようやくデジタル技術の使用が始まったばかりだ。こうした中、他社に先駆けてデジタル化に取り組んだ企業では、既に顕著な成果が見え始めている。
1912年に設立された家族企業ハインリヒ・キュールマン(Heinrich Kühlmann)は、高価格帯のサラダなど新鮮で便利かつこだわりのある商品を製造し、大手ディスカウント「アルディ(Aldi)」や大手スーパー「エデカ(EDEKA)」、卸売り大手「メトロ(METRO)」などのほか、ヨーロッパ全土の飲食専門業者に納入している。同社も専門の技術サービス提供者との連携を通じて、デジタル化を推進する企業の1社だ。ビジネスが拡大する中、新たな企業資源計画システム(ERPシステム、注)が必要となったため、食品産業専用のソリューションを提供するソフトウエアの専門企業で、マイクロソフトのパートナーでもあるモードゥス・コンサルト(MODUS Consult)社のソリューションを導入した。
システムの導入により、ハインリヒ・キュールマンはデータ保護などの面で高いセキュリティーを確保しながら、生産・納入プロセスを透明性の高いものに改善し、概算計画や詳細計画の効率化を図った。また、受注・生産・納入の効率化も達成された。具体的には、商品を自動受注すると、生産リストを自動的に作成し、このリストに沿って受注が処理され、出庫の際に商品を自動的に仕分けることが可能になった。さらに、これまで、必要なデータはそのたびに収集し、整理・分析しなくてはならなかったのに対し、この自動注文管理システムによって、全てのデータ分析に迅速にアクセスができるようになり、自動の品質管理も可能となった。特に、人手と人件費がかかる充填プロセスでは、デジタル化による効率化の効果が特に高く、人件費を10%削減できたという。
- 注:
- ERP(enterprise resource planning)システムは、財務・人事・生産・受注・在庫・販売・物流などの企業の基幹業務を統合的に管理し、経営の効率化を図るソフトウエア。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・デュッセルドルフ事務所
ベアナデット・マイヤー - 2017年よりジェトロ・デュッセルドルフ事務所で調査および農水事業を担当。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・デュッセルドルフ事務所
矢舘 実典(やだて みつのり) - 2013年福島県庁入庁。2017年4月よりジェトロへ出向。企画部地方創生推進課を経て2017年10月よりジェトロ・デュッセルドルフ事務所にてドイツへの食品輸出支援等に従事。