注目度高まる北米グリーン市場、その最前線はクリーンテック領域で存在感を強めるマサチューセッツ州(米国)
2023年9月27日
米国のボストンを中心としたマサチューセッツ州は、マサチューセッツ工科大学(MIT)やハーバード大学など世界トップクラスの大学・研究機関が集積し、世界最大規模のバイオテック・クラスター都市(特集:北米イノベーション・エコシステム 注目の8エリアブラック)として知られているが、クリーンテック領域においても全米有数の地域としての存在感を強めている。本稿では、同州のブラック ジャック 勝率概要や同分野の成長を支える起業環境などを紹介する。
「全米エネルギー効率ランキング(2022年)」で2位に選出
米国エネルギー効率経済評議会(ACEEE)が2022年12月に発表した、全米50州およびコロンビア特別区(首都ワシントンDC)をエネルギー効率化推進政策などの導入状況によって格付けしたランキング「2022 STATE ENERGY EFFICIENCY SCORECARD」で、マサチューセッツ州はカリフォルニア州に次いで、全米2位となった(表1参照)。同州は、世界最大規模のバイオテック・クラスター都市としてのみならず、エネルギー関連分野の州政府の取り組みでも全米でトップクラスの評価を受けている。
ACEEEは、エネルギー効率に関する政策、プログラム、テクノロジー、投資および行動を促進する米国の非営利組織であり、前述のランキングでは、各州のエネルギー関連当局が公開したデータを基に、6つの政策分野で評価し、総合順位を決めている。6分野は、公共事業、運輸政策、建築物のエネルギー効率化政策、エネルギー関連の州政府の取り組み、産業のエネルギー効率化政策、家電製品のエネルギー効率基準、に分かれ、これら項目の点数の合計で総合順位が決められている。
順位 | 州名 |
公共事業 (満点:15点) |
運輸政策 (満点:13点) |
建築物のエネルギー効率化政策 (満点:12点) |
エネルギー関連の州政府の取り組み(満点:4.5点) |
産業のエネルギー効率化政策 (満点:2.5点) |
家電製品のエネルギー効率基準 (満点:3点) |
総合得点 (満点:50点) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | カリフォルニア | 15 | 12 | 10 | 4.5 | 2.5 | 3 | 47 |
2 | マサチューセッツ | 14 | 11.5 | 10.5 | 4.5 | 2.5 | 1.5 | 44.5 |
3 | ニューヨーク | 11.5 | 11.5 | 8.5 | 4.5 | 2.5 | 0.5 | 39 |
4 | バーモント | 11 | 9 | 9 | 4 | 1 | 2.5 | 36.5 |
5 | メイン | 10 | 8.5 | 8.5 | 4.5 | 2.5 | 1.5 | 35.5 |
6 | ワシントンDC | 8 | 11 | 8.5 | 3 | 2.5 | 2 | 35 |
7 | ロードアイランド | 12.5 | 7.5 | 6 | 4.5 | 1.5 | 1 | 33 |
8 | メリーランド | 9.5 | 10 | 8 | 4 | 0.5 | 1 | 33 |
9 | コネチカット | 9 | 10 | 7 | 4 | 2.5 | 0 | 32.5 |
10 | ミネソタ | 12 | 8 | 6.5 | 3 | 2.5 | 0 | 32 |
出所:米国エネルギー効率経済評議会「2022 STATE ENERGY EFFICIENCY SCORECARD」を基にブラック ジャック 勝率作成
ブラック ジャック 勝率州内総生産は55%増加
クリーン・エネルギー分野のスタートアップを支援する同州の経済開発機関のマサチューセッツ・クリーン・エネルギー・センター(MassCEC)によると、同州の2021年のブラック ジャック 勝率額は142億ドルで、州内総生産の約2.2%を占める。全産業に占める割合は少ないものの、2012年から2021年にかけて、ブラック ジャック 勝率は55%増加し(図参照)、同期間における州内総生産の伸び率(43%)を上回る成長を遂げている。
2022年に巨額な資金調達に成功したボストンのスタートアップをみると、最近は再生可能エネルギーに焦点を当てた、クリーンテック分野の企業が注目されている。ボストンのスタートアップ情報サイトのビルト・イン・ボストンによると、同都市に拠点を置く企業の中での最大の案件は、風力、太陽光、蓄電プロジェクトの開発と運営を専門とするロングロード・エネルギーによる5億ドルの資金調達だった(表2参照)。そのほか、再生可能エネルギーを蓄電し、従来のリチウムイオン電池と比べて低コストかつ長時間の電力供給が可能な鉄空気電池の開発を手掛けるフォーム・エネルギーも4億5,000万ドルの資金調達に成功している。
企業名 | 事業内容 |
金額 (億ドル) |
---|---|---|
ロングロード・エネルギー | 風力、太陽光、蓄電プロジェクトの開発と運営 | 5.0 |
フォーム・エネルギー | 鉄空気電池の開発 | 4.5 |
サークル | ブロックチェーンを利用した決済ツールの開発 | 4.0 |
アジリタス・エネルギー | クリーンエネルギーの開発 | 3.5 |
リトル・リーフ・ファームズ | グリーンハウス技術の開発 | 3.0 |
スターバースト | データ分析ツールの開発 | 2.5 |
ホームタップ | 自宅などの所有権を株式化した資金調達サービスの提供 | 2.4 |
オルナ・セラピューティクス | 環状RNA医薬品の開発 | 2.2 |
サルシファイ | ECプラットフォーム上の商品データ管理ツールの開発 | 2.0 |
シンプリセーフ | ホームセキュリティの開発 | 2.0 |
出所:ビルト・イン・ボストン資料を基にブラック ジャック 勝率作成
MITの組織的な支援構造が起業家の育成と輩出に貢献
ボストンのクリーンテック・エコシステムが発展している背景には、MITをはじめとする工科系の大学・大学院において、起業家の育成を目的としたイノベーション・エコシステムの組織的な支援構造が確立されていることが大きく貢献しているとみられる。例えば、MITには、起業家育成プログラムや起業活動を促進する様々なイニシアチブがあり、学生は在学時から学んだスキルを生かしやすい環境が整備されている。
ボストンのクリーンテック・エコシステムの発展に寄与するMITの取り組みの1つに、MITが2006年に設立した「MITエネルギー・イニシアチブ(MITEI)」がある。MITEIのミッションは、環境への影響を最小限に抑え、温室効果ガス(GHG)の排出を大幅に削減し、気候変動を緩和しながら、世界のエネルギー需要を効率的かつ安価に、そして持続的に満たすための低炭素・無炭素ソリューションを開発することにある。MITEIは、設立以来、MITのエネルギー研究、教育、アウトリーチの3つの柱を通じ、エネルギー産業が直面する多くの課題への対応を加速する触媒の役割を果たしてきた。研究面では、MIT全体の研究者と業界および政府関係者の連携を促進し、MITと会員企業・団体全体で数百の研究プロジェクトを支援している。教育面では、研究所のエネルギー教育活動を主導し、数千人の大学生や大学院生、博士研究員を指導しているほか、最新の研究開発や成果を教育に取り入れ、スポンサー付きの研究機会などを通じて学生の応用学習体験を促進している。アウトリーチ面では、学術界、産業界、政府部門を横断した対話の促進、エネルギー産業の現状に関する研究報告を通じた公共政策の周知に加え、学内でのイベントの主催・後援や教職員の外部イベントへの参加支援などを通じ、人々の情報交換を促進している。このように、MITはMITEIなどを活用した組織的な支援を通じて、次世代のクリーンテック分野の研究者、起業家、政策立案者を育成し、輩出している。
MITのこうした起業家の育成や輩出の取り組みの成果は、データにも表れている。スタートアップ関連データベースのピッチブックが発表している「起業家を輩出した大学のランキング」では、ベンチャーキャピタルによる出資を受けた起業家の卒業した教育機関が比較されており、MITは2022年の学部生および大学院生の起業家数でいずれも全米4位以内にランクインしている。学部生では、起業家数は1,065人、資金調達額は計459億ドルで全米4位、大学院生では、起業家数は2,459人、資金調達額は計909億ドルで全米3位になるなど、全米規模でみても数多くの起業家を生み出している。
グリーンタウン・ラボがクリーンテック領域の協業やイノベーションを促進
全米有数の大学・研究機関に加え、MIT卒業生によって創設された、北米最大級のクリーンテック分野のインキュベーター「グリーンタウン・ラボ」も、ボストンのクリーンテック・エコシステムを構成する支援機関として重要な役割を果たしている。同社は、2011年にMITの卒業生によるクリーンテック分野のスタートアップ4社が、自社製品の試作品を作るための安価なオフィススペースを探していたことをきっかけに設立された。その後、同地域でグリーンタウン・ラボの評価が徐々に高まり、入居企業が研究開発に集中できるオフィススペースとしての機能に、研究に必要な機材の共有やスタートアップ同士が支え合う機能が加わり、数年で50社以上の入居企業が集まるスタートアップコミュニティとして急速に発展した。2018年には、米国エネルギー省(DOE)傘下の再生可能エネルギー研究所(NREL)が主催する、米国における太陽光発電の製造の活性化およびイノベーション推進を目的としたコンテストで「American-Made Solar Prize」を受賞し、クリーンテック・スタートアップの支援および太陽光に焦点を当てたインキュベーターとしての実績が評価された。
同社が有する約10万平方フィート(約9,290平方メートル)の施設は、マサチューセッツ州サマービルの3つの建物にまたがる。同施設には2023年9月1日時点で125前後の会員企業が入居し、入居企業の交流を促進するコワーキングスペースのほか、高性能・高価な機材を備えた試作ラボや電子機器に特化したラボ、ウェットラボなどが提供されている。また、起業家や投資家、政策立案者などのさまざまなエコシステムの担い手が集うイベントが定期的に開催され、入居企業には自社技術を披露する機会が提供されている。こうした取り組みが、起業家に対する継続的な支援になっているとともに、協業を容易にして技術を持ち寄ることで、クリーンテック分野におけるイノベーションが促進される環境をつくり出すことに成功している。
こうしたグリーンタウン・ラボをはじめとした支援機関による取り組みの成果もあり、マサチューセッツ州の準公的機関のコモンウェルス・コーポレーションによると、同州における全雇用の40%以上がクリーン・エネルギーや情報技術(IT)、先端製造業などのイノベーション産業から生まれているとされており、マサチューセッツ州の労働力開発に大きな影響を与えている。
2050年までにGHG排出量ネット・ゼロ達成の目標を揚げる
マサチューセッツ州は、クリーン・エネルギーの拡大に力を入れる州の1つであり、州政府は脱炭素化に向けた取り組みを強化している。チャーリー・ベーカー元州知事は2022年12月21日、「2050年クリーン・エネルギー・気候計画(2050 CECP)」を発表した。同計画では、2050年までに州全体のGHG総排出量を1990年比で85%以上削減し、残りの排出量を炭素隔離によって相殺するとした。これらの目標を達成するための重点5分野が挙げられており、各分野の概要は以下のとおりだ。
- 運輸分野: 2035年までに州内で販売される全ての乗用車の新車、および中型車と大型車の新車の大半を電気自動車(EV)にシフトする。自動車の電動化の原動力として、自動車メーカーにゼロ・エミッション車の増産を義務付ける自動車排出ガス基準を導入する。また、新車市場でEVが優位に立ち始めたら、EV購入へのインセンティブから旧型の内燃機関車両引退へのインセンティブへの転換を計画している。
- 建築物分野:建築物からの排出を削減する戦略には、業績基準、財政支援、消費者への働きかけ、規制上の要件が含まれており、冷暖房によるGHG排出量は、住宅では1990年比で95%削減し、商業・工業用建物では同92%削減する。また、建築物からの排出量を段階的に削減するためのクリーン熱基準の策定、気候変動対策に特化したアクセラレーターの設立を通じた民間資本の誘致とクリーン・エネルギーへの転換に必要な先行資金の消費者への提供といった財政支援、住宅や自動車をゼロ・エミッション化するためのアップグレードや電化の選択肢を検討している消費者への働きかけ、州の建築基準法の更新などを通じ、建築物からのGHG排出を削減する。これらが計画通りに進めば、2050年までに州内の住宅の80%(280万戸以上)に電気ヒートポンプの冷暖房が導入され、商業施設の87%に電気または代替燃料による暖房が導入されることになる。
- 電力分野:2050年までに電力負荷を2020年の2.5倍に増やし、電力消費の97%をクリーンな再生可能なエネルギーで賄う。また、州政府は、連邦政府および地域のパートナーと協力し、洋上風力発電技術を最も効率的な方法で導入することに加えて、地域レベルでの送電をアップグレードし、配電システムを現代化する。
- 非エネルギー・工業分野:産業用エネルギーの52%を電化し、固形廃棄物処理を90%削減する。これには、産業プロセス部門におけるフッ素系ガスの段階的廃止、産業エネルギー部門における電化の促進とGHG排出を削減する代替燃料の使用、ガス供給システムにおけるガス漏れの削減が含まれる。
- 自然地や農畜産用地:継続的な炭素吸収能力を維持するため、2050年までに州内の土地と水域の少なくとも40%を恒久的に保全し、同州の重要な土地と生物の生息地の保護と整合性のある太陽光発電の設置ガイドラインを策定することに加え、森林伐採を制限するための追加的な規制の道筋を評価・設定することを目指す。
このように、マサチューセッツ州が果たすクリーン・エネルギー技術の開発と発展の役割の大きさは全米でも随一だ。同州にはイノベーション産業に従事する専門性の高い優秀な人材が多数集まり、クリーンテック分野の企業を支援するエコシステムが整備されており、日本企業にとっても目の離せない地域だ。
- 執筆者紹介
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ブラック ジャック 勝率・ニューヨーク事務所 調査部
樫葉 さくら(かしば さくら) - 2014年、英翻訳会社勤務を経てブラック ジャック 勝率入構。現在はニューヨークでのスタートアップ動向や米国の小売市場などをウォッチ。