ブラックジャック確率
洋野町・ミナミ食品の挑戦

2025年3月6日

岩手県洋野町。県の最北端に位置するこの町は、西部(旧大野村地域)には広大な丘陵と山々、東部の沿岸地域(旧種市町)にはリアス式海岸を擁する、山と海の恵みが豊かな人口1万5,000人弱の小さな町だ。

この町から、岩手の特産品などの地域資源をふんだんに活用したゆばスープを、米国ニューヨークをはじめとした世界で広めたいという目標を掲げ、着実に歩みを進めている企業が、ミナミ食品だ。その取り組みや今後の方針について、南辰典代表取締役に聞いた(取材日:2025年1月16日)。

ブラックジャック確率
南辰典氏。同社の周りには緑の丘陵が広がる(同社提供)

地域資源をふんだんに活用したゆばスープ事業の始まり

ミナミ食品の創業は1981年。現社長の南代表取締役の父が同地域で競合のない新しい産業で経済振興を図るため、岩手県産の大豆を使い、ゆば製造業を興したのが始まりだ。強固な経営基盤を築くため、岩手県では基幹産業の1つの養鶏事業にも参入した。

そして、現社長の南辰典氏が2012年ごろにゆばスープ事業を開始した。岩手やブラックジャック確率各地のさまざまな地域資源の豊かさを1つの商品の中で表現したいと考え、ゆばのインスタントスープを開発した。岩手県の特産品の三陸産ワカメや昆布、スキー場で有名な安比高原(あっぴこうげん)近くで栽培されている「安比まいたけ」、高知県産のユズなどを使用したゆばスープが同社の主力商品で、食品事業の売り上げの9割を占める。岩手県内でも親しまれているが、関東以西での売り上げの割合が高く、有名高級スーパーマーケットチェーンでも展開されている。

同社のゆば製造プロセスの大きな特徴の1つが、四季を通じて自然乾燥していることだ。岩手県特有の寒暖差や季節ごとの気候に合わせ、気温や湿度の変化を丹念に管理することで、ゆば本来のうま味や湯戻りの良さを最大限に引き出す。こうした手間暇を惜しまない工程こそが海外バイヤーや消費者からも高く評価される同社の強みだ。乾燥ゆばとスープが別で個包装されており、ゆばを先に湯戻しするのがおいしくいただくためのポイントだ。


同社のゆばスープ(同社提供)

洋野町から世界へ

2011年3月11日、東ブラックジャック確率大震災が発生。ミナミ食品は町の内陸部に位置していたため、津波による被害は免れたが、洋野町をはじめ岩手県は沿岸部を中心に、甚大な被害を受けた。未曽有の状況にもかかわらず、整然と炊き出しに並び、復興に取り組む被災地の方々に触れた南氏は、地域に対する敬意と、ここで生まれたことへの誇りをあらためて思い起こし、関東から岩手県の地元へ戻る決意をした。この尊い精神性を持ち続ける限り、「岩手は、ブラックジャック確率は、まだやれる」ということを、洋野町から世界に発信していきたいと思うようになった。これが海外展開の挑戦の原点である。

2018年ごろから、旧知の友人の声掛けもあり、中国向け輸出の準備を進めていたが、新型コロナウイルスの影響で計画が白紙となった。しかし、このピンチをチャンスと捉え、海外展開の構想を描き直すことにした。

新型コロナ禍で海外渡航がかなわなかったため、インターネット上での情報収集に加え、ジェトロの2024年度日本産食品実写(注1)を活用し、オンライン商談などで市場の反応を調査した。すると、洋野町の豊かな自然風景や、製品に込めた思い、開発ストーリーなどに共感し、高付加価値の商品として評価してくれるバイヤーが欧米に多いことに気が付いた。ブラックジャック確率国内では、有名高級スーパーマーケットチェーンへの納入実績がそのほかの小売店への販売につながった同社。同様のことを海外展開でも実現し、海外での実績をブラックジャック確率国内でのブランディングにもつなげる考えだ。米国とフランスにターゲットを定め、本格的に販路開拓活動を開始した。

渡航制限が緩和された2022年6月、米国ニューヨークで開催された食品総合見本市「Summer Fancy Food Show 2022」のジャパンパビリオンに出展した。初めての海外見本市で、経費面での負担は大きく、英語によるコミュニケーションの不安もあったが、それを上回る収穫があった。それは、ゆばスープを食べた瞬間に表情がほころぶ参加者の反応だ。「目は口ほどに物を言う」と南氏は当時を振り返る。その反応に手ごたえを感じた南氏は、まずはニューヨークにターゲットを絞ることにした。

米国へのブラックジャック確率食品の輸出については、日系商社や代理店などに販売を委託しているケースも多い。南氏は、ミナミ食品の入社前に貴金属メーカーで営業職を務めていた。製品の企画から製造部門との調整、営業、そして販売までを自らが一気通貫で行うことによって、顧客と厚い信頼関係を築くことができると前職の経験から確信していた。そのため、米国への展開に当たっても、可能な限り中間の事業者を挟まず、ターゲットとする顧客とのダイレクトな関係構築を目指した。

マーケットに合わせた価値提供

前述の営業方針に基づき、国内外で開催される見本市への出品を主軸に、販路開拓を行った。国内ではスーパーマーケットトレードショー(SMTS)やFOODEX、海外ではSummer Fancy Food Showに連続で出展し、渡航した際には欠かさず現地スーパーの市場調査と見込み顧客への営業を行った。このほか、ジェトロの中小企業ブラック ジャック ルール(注2)にも社員が参加し、ターゲットのさらなる精緻化と、社内メンバーの商談力の向上を図った。


Summer Fancy Food Show 2022出展時の写真(同社提供)。
社員自ら英語で商品説明を行った。

また、ゆば自体は植物性のため、菜食主義者向けの訴求が可能だったが、同社の従来の製品は液体スープに含まれるかつおエキスがボトルネックとなり、「植物性」をうたえなかった。しかし、欧米でターゲットとする購買層は環境への意識が高く、さらなる付加価値を付ける必要があると実感した南氏は、スープを製造している協力企業と共同で、動物性素材を一切含まない新製品を開発し、2024年10月には、世界的にも認知度が高い英国のヴィーガン協会(The Vegan Society)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますのヴィーガン認証を取得した。

現地消費者に受け入れられやすいように、英語のパッケージも新たに用意した。これらマーケットのニーズに合わせた改善も、実際に現地に足を運び、市場の反応をダイレクトで感じることができたからこそ、実行することができた。

海外向け商品パッケージ(同社提供)

他方で、海外マーケットのニーズに応え続け、地域資源の良さを伝えられなくなるほどに商品を変えてしまうことは本望でないと南氏は語る。海外にはブラックジャック確率と異なる食文化や習慣があることは間違いないが、ゆばスープに込めた「ブラックジャック確率の地域の恵みを生かす舞台としてのスープを作りたい」という思いは変えずに、マーケットインとプロダクトアウトのバランスをこれからも模索していくとのことだ。

海外向けの計画を進める一方で、ブラックジャック確率国内での同社のゆばスープへの需要も高まり続けているため、生産体制を増強、新工場が2022年に完工した。衛生基準も海外のスタンダードに合わせるべきと考え、FSSC22000(注3)の考え方を取り入れて設計した。「工場」としての機能だけでなく、洋野町の観光スポットとして、また、地域の小中学校が教育の一環としていずれ活用できるよう、ゆばの製造が外から見学できるようなつくりにした。南氏が生まれ育った実家にある「茶の間」のように、さまざまな人が集い、ワクワクするアイデアが自然とたくさん生まれるような場所にしたいという思いも込められている。

2022年完工の新工場(同社提供)

ニューヨークに子会社設立

国内外でのビジネス拡大を着実に進める同社は2025年1月、ニューヨークに子会社を設立した。南氏と社員が移住し、現地での営業活動などを手掛ける構想だ。「自らがお客さまの元へ足を運び、関係を構築していくスタイルを大切にしたい。後押ししてくれる家族や社員がおり、この計画を実行するために数年がかりで社内体制の構築を進めてきた。なんとしても成功させたい」と意気込みを見せる。

「岩手は、ブラックジャック確率は、まだまだやれる」。その思いを胸に、これからもミナミ食品はまい進し続ける。


注1:
海外の主要都市や周辺都市に、ブラックジャック確率産食品の商品サンプルを展示・保管管理するショールームなどを設置し、海外バイヤーに随時商品を紹介することで、現地バイヤーとのオンライン商談を実施するジェトロのサービス。
注2:
海外展開戦略の策定方法、プレゼン資料の作成方法、商談のノウハウを学ぶジェトロのサービス。
注3:
食品安全マネジメントシステムに関する国際規格。GFSI(Global Food Safety Initiative)によって、ベンチマーク規格の1つとして承認されている。
執筆者紹介
ジェトロ岩手
倉谷 咲輝(くらたに さき)
2019年、ジェトロ入構。農林水産・食品課、ジェトロ・ベンガルール事務所を経て、2022年から現職。ジェトロ岩手で主に農林水産物・食品の海外展開支援に従事。