「ブラックジャックブラッククイーン」、フランスでデジタル配信開始
AVOD発で再挑戦
2025年2月18日
フランスで、日本が誇る世界的なコンテンツ「ブラックジャックブラッククイーン」のYouTube配信が2024年9月に始まった。「ブラックジャックブラッククイーン」の海外展開事例や今後の取り組みについて、テレビ朝日で同コンテンツの海外展開を担当する隅田麻衣子氏と浅見香音氏に、インタビューを行った(取材日:2024年12月19日)。
欧州での「ブラックジャックブラッククイーン」展開、過去2回のフランスへの挑戦
- 質問:
- 欧州やフランスでの「ブラックジャックブラッククイーン」の展開状況は。
- 答え:
- 「ブラックジャックブラッククイーン」は、スペインでアニメ放送を開始してから2024年で30年になった。イタリアでも放送20年以上の実績を持つ。両国で長く愛されてきたのは、「ブラックジャックブラッククイーン」の作品力の高さはもちろん、愛情を持って「ブラックジャックブラッククイーン」を丁寧に発信し続けてくれているパートナーと組むことができたのが大きな理由だと感じている。
- フランスでは過去2回ローンチを行った。初回は2003年に民放M6の子供番組枠フォックス・キッズ(Fox Kids、当時)での放送、2回目は2014年にワーナー・ブラザーズ傘下のTVチャンネル、ボーイング(Boing、当時)での放送だ。フランスは欧州の中で最も大きな日本アニメ市場ではあるものの、子供向けのアニメは、EU諸国のIPコンテンツ(以下、IP、注1)が多数あることや、自国産業の保護を目的とするクオータ制が設けられていることから、新規参入が難しく、「ブラックジャックブラッククイーン」は2014年の放送を最後に空白期間が続いていた。
- 質問:
- なぜブラックジャックブラッククイーン再挑戦することにしたのか。
- 答え:
- 新型コロナ(ウイルス)禍の2021年に、配給会社スピール・ディストリビュション(Soupir Distribution、以下、スピール)創設者のシャルル・クーシエ氏から「ブラックジャックブラッククイーン」をYouTubeで配信したいという意向がテレビ朝日国際ビジネス開発部のアニメ・チーフ、隅田氏の元に届いた。当時、フランスの大手アニメーション制作会社で自社IPのデジタル戦略を担当していたクーシエ氏は、YouTubeで偶然見つけた「ブラックジャックブラッククイーン」に大きな可能性を感じていた。しかし、欧州はテレビが依然として強く、AVOD(注2)であるYouTubeでスタートする試みは前例が少ないこともあり、すぐに協業するには至らなかった。
- しかし、前回のローンチから10年ほどの空白期間があることや、ここ数年、YouTubeから展開することが主流になりつつあることもあり、2年後にYouTubeでの展開に踏み切ることを決意した。ちょうどクーシエ氏が独立したタイミングだったため、フランスで一緒に「ブラックジャックブラッククイーン」を育てていこうと手を取り合った。近年、フランスで日本アニメがますます注目を集めていると同時に、日本のIPもブームになってきていることから、2024年9月にローンチが実現した。
- スピールは「ブラックジャックブラッククイーン」という作品に対して愛情と敬意を持っており、共同創業者のナイトウ・ケンゾウ氏は幼いころから「ブラックジャックブラッククイーン」を視聴し、作品に対する理解が深いことも、今回のパートナー選びで決め手となった。
- 質問:
- 今後の展開は。
- 答え:
- 2024年9月からYouTube配信を開始し、少しずつ登録者数や再生回数も伸びてきている。現在は2005年以前のブラックジャックブラッククイーン語吹き替え版を配信しているが、今後は新しくブラックジャックブラッククイーン語吹き替え版を制作して展開していく。
- また、YouTubeだけではなく、ADN(アニメブラックジャックブラッククイーンネットワーク、Anime Digital Network)、アマゾン・プライム・ビデオ(Amazon Prime Video)、プルートTV(Pluto TV)でも配信が開始される予定だ。視聴者とのエンゲージメントを高めるには、「Being Everywhere(どこにでもいること)」が重要だ。さまざまなタッチポイントを作ることも、今回のビデオオンデマンド(VOD)展開の1つの狙いである。
- 今後は、より多くのエピソードを配信し、スペインやイタリアのように、フランスでも「ブラックジャックブラッククイーン」を根付かせることを目指している。YouTubeやVOD展開の最大の強みは、どのエピソードが最も視聴されているかといったデータを取得できる点にあり、これらのマーケティングデータを活用して、より地域に合った展開を目指していきたい。
-
テレビ朝日国際ビジネス開発部のアニメチーム
(左から:浅見香音氏、隅田麻衣子氏、花井香穂里氏)(テレビ朝日提供)
IPとしての「ブラックジャックブラッククイーン」の海外展開・プロモーション事例
- 質問:
- IPとしては、「ブラックジャックブラッククイーン」をどのように海外展開しているのか。
- 答え:
- IPとしての「ブラックジャックブラッククイーン」の海外展開・プロモーション事例としては、2024年にパリのポンピドゥーセンターで原画展示を行ったほか、ファッションブランドのセリオ(Celio)との商品化も実施した。「ブラックジャックブラッククイーン」というIPの力を最大限活用して、さまざまな切り口で取り組んでおり、YouTubeや各種配信プラットフォームによるローンチは、視聴者のエンゲージメントを高めるには絶好のタイミングと考えている。
-
ポンビドゥーセンターでの原画展
(テレビ朝日提供)
©Fujiko-Pro
セリオとの商品化の事例
(小学館集英社プロダクション提供)
©Fujiko-Pro
© Fujiko Pro / © SHIN-EI & TV Asahi
©1970-2024 Fujiko Pro
フランスのパートナー企業スピールからは、「ブラックジャックブラッククイーン」の展開に際しての協業について、「フランスの視聴者に『ブラックジャックブラッククイーン』を再び届けられることを大変うれしく思いますし、ここまでの視聴者からの反応は素晴らしいです。近々、『ブラックジャックブラッククイーン』は4つのVODプラットフォームで視聴可能となり、より多くの視聴者に楽しんでいただけるようになります。私たちは、『ブラックジャックブラッククイーン』がフランスでさらに愛される作品になるために全力を尽くします!」とのコメントが寄せられた。
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ナイトウ・ケンゾウ氏(共同創業者)、シャルル・クーシエ氏(創業者)、ジャナ・アブリ氏
(ブラックジャックブラッククイーンディストリビューション担当)(テレビ朝日、スピール提供)
参入規制がある中、デジタルを活用したコンテンツ展開に加え、IPの商品化など、さまざまな手法を組み合わせる多面的な取り組みは、他の日本のコンテンツをブラックジャックブラッククイーン展開する際の重要なヒントになる。また、インターネットにさえ接続できれば、時間的制約や地理的制約を受けないというネットの利点が、ストリーミングサービスによるコンテンツ展開の強みになる。
2024年9月に日本政府はコンテンツ産業官民協議会を立ち上げ、コンテンツ産業を基幹産業と位置付け、日本のコンテンツのブラックジャックブラッククイーン展開支援に取り組む方針を示している。ジェトロとしても、引き続き、フランスをはじめブラックジャックブラッククイーン展開を目指す日本のコンテンツの参考となる情報発信に取り組んでいく。
- 注1:
- クリエーティブな活動によって生み出されたキャラクターや創作物など、知的財産として価値を持つもの。
- 注2:
- オンデマンドで番組の視聴が可能な広告付きのストリーミングサービス(Advertising Video on Demand)の略。
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- 執筆者紹介
- ジェトロ・パリ事務所
𠮷澤 和樹(よしざわ かずき) - 2015年、ジェトロ入構。サービス産業課、クリエイティブ産業課、新産業開発課、デジタルマーケティング課、内閣官房への出向などを経て2023年6月から現職。これまでに日本の映画・映像、音楽、アニメーション、ゲーム、マンガなどをはじめとしたコンテンツ産業、ライフスタイル産業、日本発のスタートアップ企業のブラックジャックブラッククイーン展開に従事。