林業を中心に温室効果ガス削減へ
ブラック ジャック ルール ディーラー

2024年11月28日

本レポートでは、カンボジアの脱炭素市場の動向を前編と後編に分けて報告する。前編では、主にカンボジアの温室効果ガス(GHG)削減目標とそれに向けた主要分野(林業、農業、工業)での取り組みおよびプロジェクト進行の状況、民間事業者が直面する課題を概説する。後編では、カンボジアで開設準備が進む世界初のSecurity Token Offering(STO)を活用したカーボンクレジット取引所開設の動きや今後の展望についてまとめる。

脱炭素化目標は林業・土地利用が牽引

カンボジア政府は、2020年に国連に提出した「国が決定する貢献(NDC)」の中で、2030年までに対策を実施しなかった場合と比べて〔Business as Usual(BAU)比、基準年:2016年〕GHG排出量を42%削減する目標を定めた。また、2021年12月発行の「カーボンニュートラルに向けた長期戦略(LTS4CN:The Long-Term Strategy for Carbon Neutrality)」では、2050年までにGHG排出量実質ゼロを目指している(表参照)。削減目標が掲げられている分野は、農業、エネルギー、林業・その他土地利用(FOLU:Forestry and Other Land Use)、工業プロセス・製品の使用(IPPU:Industrial Processes and Product Use)、廃棄物の5つで、それぞれに想定される実行方法が検討されている。

表:カンボジアの温室効果ガス排出量シナリオ(単位:二酸化炭素換算トン)(△はマイナス値)
分野 BAU2016
排出量
BAU2030
排出量
NDC2030排出量 NDC2030
による排出量増減
BAU2050 排出量 LTS4CN2050
排出量
LTS4CN2050
による排出量増減
農業 21.2 27.1 20.9 △ 6.2 34.9 19.3 △ 15.6
エネルギー 15.1 34.4 20.7 △ 13.7 82.7 28.2 △ 54.3
林業・その他土地利用 76.3 76.3 38.2 △ 38.1 21.2 △ 50.2 △ 71.4
工業プロセス・製品の使用 9.9 13.9 8 △ 5.9 10.7 1.6 △ 9.1
廃棄物 2.7 3.3 2.7 △ 0.6 6.5 1.2 △ 5.3
合計 125.2 155 90.5 △ 64.5 156 0.3 △ 155.6

注:LTS4CN2050排出削減量は、LTS4CN2050排出量とBAU2050排出量の差し引きと必ずしも一致しない(小数点以下の若干のズレが生じる)が、LTS4CN2050での公表値を記載している。
出所:「Cambodia’s Updated Nationally Determined Contribution(NDC)2020」、「The Long-Term Strategy for Carbon Neutrality (LTS4CN)(2021年12月)」を基にブラック ジャック ルール ディーラー作成

特に、FOLUの分野では、後述するとおり複数プロジェクトが先行して進んでおり、LTS4CN では2031年にGHG排出量実質ゼロを達成する計画となっている。その他の農業、エネルギー、IPPU、廃棄物の各分野でも削減を行いながら、2031年以降もFOLUが全体の排出量削減を牽引するかたちで、2050年のネットゼロの達成を目指す。

カンボジアが脱炭素化に向けた目標を達成するためには、官民ともに技術、プロジェクト、人材育成、周知・啓発などへの投資が必要となる。前述のLTS4CNでは、他国からの技術や資金的な支援も目標達成のための重要な要素になると記載されている。外資との共創や投資誘致による炭素排出削減プロジェクトの遂行は、2050年に112億ドルの利益を生むと試算されており、カンボジアにおける当該年度のGDP構成比の7.5%を占める見込みだ。

温室効果ガス排出削減の目標で主要分野として掲げられる林業、農業、工業について、次の通り主要プロジェクト進行や脱炭素に向けた産業の取り組みを概観する。

林業:森林保護プロジェクトが進行中、植林の展開にも期待

森林関連プロジェクトは、カンボジアでGHG排出量実質ゼロを達成する上で、重要な役割を担う分野だ。カンボジアの森林は農林水産省(MAFF)と環境省(MOE)の管轄下にあり、森林面積900万ヘクタールのうち743万ヘクタールは保護区に指定されている。環境省のチュオップ・パリス長官によると、743万ヘクタールのうち300万ヘクタールで、森林保護により炭素排出量を削減(吸収)し、その分をカーボンクレジットにするなど、事業化の見込みがあるという。現時点(2024年8月)で承認済みの15のプロジェクトがあり、実施地域はカンボジアの北東エリア、北西エリア、西部のカルダモンエリアの3カ所が中心だ。

このうち、すでに動き始めているのは、非営利組織(NPO)のWildlife Conservation Society(WCS)やWildlife Alliance(WA)、また三井物産が実施するプロジェクトで、それぞれ、森林・野生動物保護活動から得られるカーボンクレジットの販売を行っている。その中でも規模が大きいのが、WAのプロジェクトで、カルダモン山を中心とした周辺地域で約170万ヘクタールの森林を保護・管理し、カーボンクレジットの販売を開始している。WA担当者によると、「クレジットの販売は、米国に拠点を構えるエバーランドが引き受け、販売先は主にアマゾンやディズニーなどの欧米企業が中心。収入の83%は地域住民の教育や自立支援に充てられ、その見返りとして違法伐採や密漁をやめることを地域住民にお願いしている」と話す。カンボジアは豊富な森林資源を持つ国だが、過去には急激に進む森林伐採やその森林地帯に住む動植物が絶滅の危機に瀕するなど、厳しい状況に置かれた経緯がある。1965年にはカンボジア国土に占める森林の割合(ゴム、パームヤシ農園を除く)は73.0%だったのに対し、2010年には57.1%に、2014年には46.9%まで大きく減少した。内戦後の復興に際し、森林を切り崩して農業を主とした商業用地に変換させたことや、地元住民などが森林を伐採して国内外に販売して生計を立てるなどしていたことが原因とされる。そのため、先のWAの森林保護の取り組みでは、現在でも現地住民が、自らの生活を守るため、環境省のレンジャー部隊に対し拳銃で応戦してくることもあるという(2024年7月9日ヒアリング)。GHG排出量削減のためにも、まずは継続的に森林伐採を防ぐ取り組みが必要となる。

農業:カーボンクレジットビジネスへの理解が浸透中、プロジェクトに前向きな企業も

コメの生産が多いカンボジアでは、間断灌水(AWD:Alternative Wetting and Drying、注1)の導入によるGHG排出量削減など、稲作用地を活用したカーボンクレジット創出への期待が高い。2022年時点のカンボジア農業用地は約558万ヘクタールで、その6割にあたる340万ヘクタールが稲作地だ(カンボジアコメ業協会)。そのうち、灌漑設備が整っているのは3割程度の100万ヘクタール前後だ。しかし、本稿執筆時点では、稲作においてカーボンクレジットプロジェクトとして承認された実績はない。

ブラック ジャック ルール ディーラーがコメ業協会や農協へのヒアリングを行ったところ、2023年時点ではカーボンクレジットに興味を示したものの、理解が不十分な関係者も多く、現実的に農家の協力がどの程度得られるのか懸念される状況だった。この点、カンボジアを代表する農協のCambodia Agriculture Cooperative Cooperation(CACC、注2)の代表であるメイ・カリアン氏も、長きにわたる地元農家に対する輸出支援の経験から、カーボンクレジット創出には相当な覚悟と忍耐がいると慎重な姿勢を見せた。カンボジアでは、1ヘクタールの農地に対して1~2人の農民が作業しており、プロジェクトを動かすにあたり、協業(説得)する農民の数が多い。

しかし、2024年に入り、状況は少しずつ変化を見せている。CACCだけでなく、先進的な取り組みを行う農業団体や大規模農家を中心に自主的な勉強会が開催されるなど、カーボンクレジット創出プロジェクトへの関心が関係者間で広がりを見せている。CACCは、小規模ながら有機肥料の生産を試験的に開始している。AWDの実施に向け、一部機材を試験的に導入の上、実証調査を進めようとしている農家も出始めている。日本勢でも、カンボジアで2024年4月に国際農林水産業研究センター(JIRCAS)、科学技術振興機構(JST)、国際協力機構(JICA)がクボタ、グリーンカーボンなどの民間企業と協力してGHG削減技術の開発と実装を目的とした共同研究を開始するなど、脱炭素化へ動き出している。

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有機肥料試作の様子(CACC代表メイ・カリアン氏提供)

工業:縫製・製靴業を中心に対応方法を模索中

最後に、工業における取り組みを見てみよう。カンボジアでは、GDP構成比の11%程度を縫製関係業(縫製業、製靴業、旅行用かばんなど)が占め、主要産業となっている。海外の主要ブランドの商品もカンボジアで製造しており、現地企業(サプライヤー)が、海外バイヤーから生産プロセスにおける脱炭素化を要求されるケースも見られる。このような場合、現地企業による脱炭素に向けた取り組みとして、屋根置き太陽光パネルを工場に設置し、導入前後の電気料金の差額を示すことで、脱炭素化に取り組んでいることをバイヤー側に説明しているケースが見られる。

ただし、留意すべき点として、屋根置き太陽光パネルの使用許可を定めた省令(注3)では、同パネルの設置により政府が設定する公定料金〔13.7セント/キロワット時(kWh)〕より安価に発電できた場合は、その差額を政府に支払うことが規定されている。差額の算出方法はいまだに政府から発表されていないため、差額支払いは運用開始に至っていないが、算定基準の内容によっては、太陽光パネル導入によって、むしろコスト増大を引き起こす可能性もある。

このような制度的な不透明感がある中でも、脱炭素の手段として太陽光パネル導入に踏み切る企業が出始めているのが実情だ。その理由として、カンボジア製靴業協会(CFA)のベン・カオ事務局長は、「脱炭素を実現する有益な方法について、屋根置き太陽光パネル以外の情報がカンボジアでは限定される。太陽光パネル以外でも脱炭素化に貢献できるソリューションの共有を求めている」と話す。

なお、2023年のカンボジアにおける発電容量のうち、57.3%にあたる2,277メガワット(MW)が再生可能エネルギーとなっているが、その多くは水力発電が占めている。関係者によると、2024年中にはグリーン電力証書発行に関する制度が発表される予定だ。


注1:
AWDは間水の調整を通じて、水を張る期間と土壌を乾燥させる期間を繰り返すことにより、土壌内部の嫌気的な環境を減少させ、メタンガスの発生を抑制する方法。
注2:
CACCには、約150の農家が加盟。そのほとんどの農家は、地場大手のコメ生産・流通企業のアムルーライスにオーガニック米を納品している。同社はCACCと協力し、カンボジアで質の高いオーガニック米を作るために農家へ丁寧な教育と品質チェックを実施し、欧州への輸出に成功した。
注3:
2023年4月26日付の鉱工業・エネルギー省(MME)の省令No.0159 RTh.ThKTh.BrK。

ブラック ジャック ルール ディーラー

  1. 林業を中心に温室効果ガス削減へ
  2. カーボンクレジット取引創出へ
執筆者紹介
ブラック ジャック ルール ディーラー・プノンペン事務所長(執筆当時)
春田 麻里沙(はるた まりさ)
2006年、ブラック ジャック ルール ディーラー入構。貿易投資相談センター人材開発支援課、ブラック ジャック ルール ディーラー神戸、ブラック ジャック ルール ディーラー・ジャカルタ事務所、市場開拓・展示事業部海外市場開拓課、プノンペン事務所を経て、2024年8月からデジタルマーケティング部プラットフォームビジネス課で勤務。