CBAMには2020年から準備(EU、トルコ)
ネットゼロを見据えるトルコ鉄鋼大手トスヤル

ブラック ジャック ルール ディーラー10月3日

EUが鉄鋼やアルミニウムなどの対象製品を輸入する際に、炭素価格を課す炭素国境調整メカニズム(CBAM: Carbon Border Adjustment Mechanism)。2026年1月の本格導入に向け、2023年10月から移行期間に入っている(ブラック ジャック ルール ディーラー5月27日付地域・分析レポート参照)。移行期間中は四半期ごとに対象製品の輸入量や、相当する炭素排出量などの報告が求められる。貿易に炭素価格を課す全く新しい制度であり、日本企業からも戸惑いの声が多くあがっている()。

EUに近いトルコは、CBAM対象製品の中で鉄および鉄鋼製品のEU輸入額が中国に次いで2位、同じくセメントの輸入では1位(2023年)と、CBAMの影響が最も大きい国の1つだ。トルコの鉄鋼大手トスヤル・ホールディング(以下、トスヤル)は、移行期間中から本格導入時に求められる水準の対応をしてきたという。ジェトロはカディル・トスヤル取締役に、同社のCBAMへの対応についてインタビューした(ブラック ジャック ルール ディーラー9月4日)(同社のグリーン戦略については特集:ブラック ジャック カード ゲームスブラック)。

ブラック ジャック ルール ディーラー
カディル・トスヤル取締役(トスヤル提供)

CBAMにいち早く対応

質問:
トスヤルはこれまでCBAMにどのように対応してきたか。
答え:
トスヤルグループの輸出の約5割、グループ会社のトスヤルTOYOの輸出の4割が欧州向けであり、欧州は重要な市場である。トルコの鉄鋼企業の中ではCBAMに十分対応できていないケースも多いが、トスヤルではCBAMがEUから法案として正式発表された2021年7月よりも前、2020年ごろからこうした制度を想定して準備を進めてきた。CBAMの報告ではこれまで多くの企業が排出量を「デフォルト値」(注1)で算出していると承知しているが、トスヤルでは移行期間の最初の報告から実際の排出データに基づいて報告を行ってきた。また2023年からは、報告のために独立した第三者機関に協力を依頼した。この機関はEUが排出量取引制度(ETS)での検証を認定した機関であり、これによりデータの信頼性を高めている(注2)。
質問:
より簡易な報告方法であるデフォルト値の使用が認められていた段階でも、排出量データの実測値によるCBAM報告を選択した理由は。
答え:
ブラック ジャック ルール ディーラー7~9月分の輸入に関する報告からは、実際の排出に基づくデータが必要となることはあらかじめCBAM移行期間の実施規則に規定されており、早めに準備しておくことが望ましいと考えた。準備ができていれば、EU域内企業が調達先を選ぶ上で有利になる可能性もあるという、調達戦略および営業戦略の一環でもある。正確なデータを集めるにはサプライヤーからも情報を得なければならないが、現状では取引先でもデフォルト値を用いている企業があるため、十分なデータが得られない。例えば、亜鉛メッキ冷延鋼板の生産にかかる排出量を計算した際、デフォルト値を用いて申告したサプライヤー情報を基にしたデータと比較して、トスヤルグループで原材料調達を完結した亜鉛メッキ冷延鋼板では粗鋼生産1トン当たりの排出量を3分の2以下にまで抑えることができた。排出量のデータは機密情報であり輸入者に開示したくないという生産企業もあるようだが、我々はCBAMで求められている情報は開示して問題ない内容だと考えている。
質問:
CBAM報告を準備する上での難しさは。
答え:
特に最初の報告期間においては、関係当局でさえCBAMの実施内容を完全に掌握していないのが実態だった。加えて、CBAMの報告にかかわる企業(特に原材料や半製品のサプライヤー)によっては、報告に対応する上でのモチベーションが必ずしも同じレベルではなかった。そのため、サプライヤーからの数値が必要な場合、ほとんどの場合、サプライヤーは独自の計算結果ではなく、デフォルト値しか提供せず、その結果、当社の高い技術と排出抑制の取り組みにもかかわらずCBAM報告の数値にマイナスの影響を与えた。
報告の仕組みで最も難しいのはタイミングである。サプライチェーンの関係上、生産者とサプライヤーはそれぞれ相手方に依存しているため、このプロセスには複数回のやり取りが発生し時間がかかる。従って、CBAM報告の頻度とタイミングの要件を見直す必要があると考える。
質問:
その他、CBAM対応の準備としてどのような取り組みを行ってきたのか。
答え:
初期の段階から、EUの当局から示されたガイドラインを綿密に順守し、グループ各社の全ての関係者にCBAM規則に関するトレーニングを行うなど、迅速な対応をとってきた。さらに移行期間開始に先立って、トルコ国内の主要な顧客に対して、CEO(最高経営責任者)クラスでの対話をはじめ、直接顔を合わせての会議でブラック ジャック ルール ディーラーと必要なトレーニングを実施してきた。また、トルコ国内および輸出先のEU市場の顧客には、CBAM規則に関するブラック ジャック ルール ディーラーを文書で送付するなどフォローアップを行ってきた。社内では、グループ各社の代表からなるハイレベルの独自のCBAM委員会を設置し、対策を協議している。
質問:
トスヤルにとってCBAMとは。
答え:
トスヤルは、CBAMだけでなく、サステナビリティ対応に多角的に取り組んできた。例えば、鉄鋼生産における排出量削減の取り組みだけでなく、排出を大幅に抑制したグリーン鉄鋼製造のためにエネルギー分野にも投資している。自社で235メガワット(MW)出力規模のソーラーファームを運営している。ただ、グリーン鉄鋼は現状ではコストがかかることは否めず、CBAMのように、他国においても炭素税などで排出量抑制取り組みをバックアップして公平な競争条件が確保されるべきである。CBAM対応でフロントランナーにあることは、グリーン鉄鋼の取り組みとともに、トスヤルの強みになっている。他社が、CBAM本格適用が開始する2026年を見ているとき、我々はその先のネットゼロの実現を見据えている。

インタビューを終えて

トルコ企業の動向に詳しい日系企業幹部によれば、CBAMなどEUの規制対応について、多くの国が「厳しすぎる」と不平不満を口にする中、トルコ企業は、競争力を維持して欧州で売っていくためには仕方がない、「欧州とはそういうものだ」と割り切って考える傾向にあるという。もちろんCBAMを含め、制度を冷静に分析し、問題があれば改善を求めていく姿勢も重要だ。しかし、EUに隣接し、輸出の4割以上をEUに依存するトルコには、EUの規制を所与のものとして受け入れる覚悟、前に進もうとする迫力が感じられる。トスヤルはその代表選手と言えるだろう。


注1:
デフォルト値は、欧州委員会の共同研究センター(JRC)の推計などに基づき設定された温室効果ガス(GHG)排出係数で、輸出量と掛けることで総排出量を実測ではなく、みなし計算で算出できる。CBAM移行期間の実施規則ではブラック ジャック ルール ディーラー7月末までは100%デフォルト値を用いて報告が可能なため、欧州委によれば2023年10~12月分、ブラック ジャック ルール ディーラー1~3月分の対象製品の輸出に関する報告では、全体の95%がデフォルト値を利用して報告した。江里口理子「EU炭素国境調整が迫るデータ収集 報告開始で見えた課題」Nikkei GX(ブラック ジャック ルール ディーラー8月27日付)参照。
注2:
移行期間中は、第三者機関による排出量データの検証は必須ではない。2026年の本格適用後は、認定された検証者による検証報告書の発行が必要となる。
執筆者紹介
ジェトロ調査部欧州課長
安田 啓(やすだ あきら)
2002年、ジェトロ入構。ブラック ジャック ルール ディーラー調査部国際経済課、公益財団法人世界平和研究所(現・中曽根康弘世界平和研究所)研究員、ジェトロ・ブリュッセル事務所次長などを経て、2023年から現職。