日印連携の新たな可能性も
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2023年8月7日
マハーラーシュトラ、グジャラートの両州で用地収用が加速し、国家高速鉄道公社(National High Speed Rail Corporation Limited:NHSRCL)による、全区間のすべての土木工事の発注・契約が完了するなどの大きな進展がみられる中、日本の官民による具体的な諸活動も活発になってきた。
官民の日本関係者の動き
ムンバイ~アーメダバード高速鉄道(Mumbai - Ahmedabad High Speed Railway:MAHSR)を巡っては、これまでも日系大手商社の双日がインドのラーセン・アンド・トゥーブロ(Larsen & Toubro Limited)とコンソーシアムを組み、NHSRCLが実施する「サバルマティ総合車両基地パッケージD2」の建設工事(車両整備場、検査上屋、保守・点検施設および関連の建物の工事を含む、サバルマティ総合車両基地の設計・建設工事)を受注・契約したという発表(2022年12月28日付ビジネス短信参照)や、2023年5月8日にはインド住宅都市省(MoHUA)、鉄道省と国際協力機構(JICA)が、MAHSRの駅周辺地域を開発・管理するに当たり計画立案能力を向上するための開発計画支援で覚書を締結したという発表があった(2023年5月15日付ビジネス短信参照)。双日とインドのラーセン・アンド・トゥーブロが建設を担当するサバルマティ総合車両基地は、現状は整地が済んだ広大な造成地であるが、同プロジェクトに取り組む双日の担当チームは、アーメダバードに駐在員拠点を構築し始めている。
JICAはインド政府との間でMAHSR(第4期)の円借款貸し付け契約を締結
2023年3月29日に、JICAはインド政府との間で、4件の事業に関し総額4,268億1,400万円を限度とする円借款貸し付け契約(Loan Agreement: L/A)に調印した。調印された円借款貸し付け契約が対象とする4件の事業のうちの1つが、ムンバイ~アーメダバード間高速鉄道建設事業(第4期、借款金額:3,000億円)である。
海外鉄道技術協力協会が技術研修コースをスタート
NHSRCLは5月1日、MAHSRのGJ州内の「T-2パッケージ」「バピ~バドーダラの237キロメートル(km)区間」の「Jスラブ軌道システム」と呼ばれる、日本の新幹線でも採用される世界的にユニークな軌道システムの建設に関し、インド人現場責任者や技術者などに対して集中的な研修プログラムを開始した、と発表した。軌道建設工事では、訓練後に認定を受けた技術者や作業員を本線工事の現場に配置することが義務付けられているため、日本の高速鉄道システムの技術移転につながるものと期待されている。
軌道は高速鉄道の最も重要な構成要素であり、軌道の敷設技術には高い精度が要求される。研修プログラムは、国土交通省の要請を受けた海外鉄道技術協力協会(JARTS)が担当しており、日本国内で新幹線の施工経験を有する日本人技術者が講師として渡航、インドの現場責任者、技術者などに集中的なトレーニングを行い、所定のレベルに達した者に認証を行うものである。また、工事管理者、軌道スラブ製作技術者、RC(鉄筋コンクリート)道床建設技術者、スラブ軌道敷設技術者、CAM(コンピュータ支援製造)技術者、レール溶接技術者、分岐器敷設技術者など、15種類のコースが設定されている。約1,000人が受講予定で、スーラット車両基地に5本の訓練軌道と講習室を備えた教育訓練設備が設置されている。教育訓練は、すべて通訳を介して実施されている。
最初の教育訓練は4月25日に開始され(工事管理者コース)、6月末までに3つのコースが終了した。言語の壁、さらには日本とインドの技術面あるいは文化面の慣習の壁を越えたコミュニケーションは困難であるが、日本人講師・受講生とも積極的にプログラムに参画している。時には気温が40度を超える過酷な環境のもと、日本語・英語・時にはヒンディー語が飛び交う中で、技術移転が進められている。今後、講師としてスーラットなどに派遣される日本人技術者の数は20人以上となる見込みだ(JARTSへのブラック ジャック 賭け 方取材、6月23日)。
菅前首相がGJ州側起点のサバルマティ複合交通ハブを視察
7月4~6日の日程で、日印協会会長である菅義偉・前首相を団長とする100人規模の経済ミッションが訪印した。6日にはナレンドラ・モディ首相と会談し、投資・経済協力、鉄道、人的交流、技能開発パートナーシップなどの分野を含む、日印の「戦略的パートナーシップ」の深化について意見交換を行った。その前日の5日には、菅団長と一部の団員がアーメダバードを訪問し、MAHSRのGJ州側起点となるサバルマティ複合輸送ハブを視察している。同視察団には、ラジェンドラ・プラサドNHSRCL代表取締役社長をはじめ、日本の衆議院議員、在インド日本大使、外務省幹部、JICA、JR東日本の関係者などが同行した。視察後、菅団長は記者団に対し「高速鉄道の完成はインドの経済成長を後押しする。両国の協力でこの事業が円滑に進展することを期待する」と述べた(7月5日付「デシ・グジャラート」紙)。
今回、経済ミッションが視察したサバルマティ複合輸送ハブは、MAHSRの開通に先駆けて完成したもので、NHSRCLは6月7日に、同施設の商業区画に関するプレゼンテーションや意見交換を行う内覧会を設定した。小売業や銀行、多国籍企業、商業ベンチャー、空港運営企業、ホテルチェーンなど、さまざまな分野から約45人が参加し、商業目的での先行活用の可能性を探った(2023年6月22日付ビジネス短信参照)。
高速鉄道における日印協力で第三国市場展開の可能性も
インド鉄道省100%出資の国有会社であり、公共交通インフラ整備を行う国営鉄道開発公社(RVNL)のラジェシュ・プラサド常務取締役(運営担当)は、6月15日にデリーで開催されたシンポジウムにおいて、(1)コルカタ~ニューデリー、(2)ニューデリー~ムンバイ、(3)ムンバイ~チェンナイ、(4)デリー~アムリトサル(チェンディガール経由)の各路線をつなぐ、インド高速鉄道回廊に関する可能性調査(F//S)が行われている、と語った(6月19日付「エコノミック・タイムス・インフラ」紙)。同氏は、高速鉄道回廊の未来像につき、将来的にはニューデリー、ムンバイ、チェンナイ、コルカタの4大都市を菱(ひし)形で結び、2本の対角線を結ぶ形を目指している、とも説明した。
同シンポジウムにおいて、国際高速鉄道協会(IHRA)のトーケル・パターソン副理事長は、「日本は人口減少による労働力不足の問題があるが、日本企業には知的財産と実践的ノウハウがある。これとインドが持つ豊富なエンジニア人材や労働力を組み合わせれば、インド高速鉄道事業での技術提携において相乗効果を発揮し、両国のパートナーシップを第三国市場で展開することが可能になる。両国の組み合わせは、インフラ市場における大きな差別化となりうる」と強調した(6月19日付「エコノミック・タイムス・インフラ」紙)。
MAHSRは紆余(うよ)曲折を経験して開業予定が大きく遅れることになったが、インド初の高速鉄道という新領域における日印共同プロジェクトとして、早期の開業が待望されている。同プロジェクトを通じて培った日印連携の知見を国際競争力に、日印それぞれのリソースの強みを生かしつつ、いずれは他のインド国内プロジェクトや第三国市場での新展開につなげていくべき、という示唆からは、高速鉄道における日印連携事業の、新たなビジネス展開の可能性が感じられる。
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- 着実にプロジェクトが加速
- 日印連携の新たな可能性も
- 執筆者紹介
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ブラック ジャック 賭け 方・アーメダバード事務所長
古川 毅彦(ふるかわ たけひこ) - 1991年、ブラック ジャック 賭け 方入構。本部、ブラック ジャック 賭け 方北九州、大阪本部、ニューデリー事務所、ジャカルタ事務所、ムンバイ事務所長などを経て、2020年12月からブラック ジャック 賭け 方・アーメダバード事務所長。