2022年は自動車販売に苦戦、EV事業が急拡大(ケニア)
2023年9月22日
ケニア国家統計局(KNBS)によると、2022年の自動車新規登録台数(中古車を含む)は前年比1.8%減の8万8,867台だった。新型コロナウィルス感染拡大前の2019年、当該台数は10万台を超えていた。しかし、その後は減少し、2022年も前年割れした(図1参照)。
また、前年に30万台に迫る勢いで市場が拡大していた二輪も大きく落ち込んだ。前年比で53.9%減の13万1,513台だった。
選挙年に伴う政治不安定の余波という側面も
ケニアでは、5年おきに実施される大統領選挙(近年では2013年、2017年、2022年)の年、しばしば政治が不安定化する。その際、経済に影響を及ぼしがちだ。自動車市場も例外ではない。図1のとおり、選挙の前年から新規登録台数が低迷し、選挙後に増加する傾向にある(2020年は、新型コロナ禍による減少)。2022年は選挙年だったことに加え、ロシアによるウクライナ侵攻の影響を受けた。その結果、年前半の販売が伸びず、当該台数が減少した。
新規登録台数のうち、中古車は85%を占める。この構成比は、過去10年間であまり変化していない(図1参照)。車種別にみると、セダン(6,350台、22.3%減)やステーションワゴン(5万5,004台、14.5%減)は不調だった。一方、小型バン、ピックアップトラック(82.1%増)やミニバス、バス、大型バス(79.6%増)は大幅に増加した(図2参照)。
2022年特有の事情としては、大統領選の影響のほか、7月からケニア標準局(KEBS)が一部マイクロバスの輸入禁止措置を発表したことも影響した(注1)。これを受け、2022年の前半は中古バス販売が低迷した。しかし、その後、当該禁止措置が高等裁判所で差し止められた。これにより、7月以降、当該セグメント車の輸入が急増した。なお、2023年8月16日現在、当該措置は依然として審議中になっている。いずれにせよ、中古車の輸入は目下、規制が強化される方向にある。この点には、注意を払っていく必要があるだろう。
新車販売は前年比6.3%減
ケニア自動車工業会(KMI)によると、2022年の新車販売台数は前年比6.3%減の1万3,352台だった(図3参照)。
新車販売台数のうち、ケニア国内で組み立てられた車両(CKD)が、2021年、2022年と連続して1万台を超えた。新車全体の77.6%に及んだことになる。この背景には、政府が2022年7月に施行した財政法上の優遇措置もある(注2)。その結果、輸入完成車の販売が減少し、CKDが伸びた。
メーカー別の販売台数でトップを走るのが、いすゞ。同社は2023年6月、ナイロビの車体組み立て工場に、トラックボディーの電着塗装工場棟を新設した。トヨタも2023年7月にスポーツ用多目的車(SUV)「フォーチュナー」の組み立て生産(SKD)を開始した。メーカー別で販売台数3位の三菱自動車も2022年8月、ケニアでピックアップ「L200」の委託組み立て生産を開始した。
国内組み立て生産が活性化する一方で、2022年5月に議会で承認された「国家自動車産業政策」に対する不満の声も聞かれる。一部の自動車メーカーは、需要を喚起するための施策の多くがいまだ実行されていないこと、それが新車市場の低迷から脱しきれないと、声を上げている。
2023年に入っても、(1)ガソリン価格の引き上げ、(2)高インフレ、(3)相次ぐデモの発生、(4)通貨シリングの下落(販売価格を引き上げざるを得ない状況を誘発)など、厳しい状況が続く。目下、新車市場の回復は見込めず、各社は苦戦しているのが実情だ。
EV関連企業が急速な事業拡大
ケニアは非産油国で、ガソリンは輸入に頼っている。ガソリン価格は2023年8月14日現在、1リットル194.60シリング(約195円、1シリング=約1円)と高額だ。
そのようなことも追い風に、電気自動車(EV)関連企業は急速に事業を拡大させている。国家交通安全局(NTSA)によると、2023年2月時点のEV登録台数は約1,350台。内訳は二輪844台、三輪153台、四輪186台、その他150台と、現時点でまだ多くはない。とはいえ、特に公共交通機関で急速にEVの普及が始まっていることは、注目に値するだろう。関連事業者の動きとしては、以下のような例がある。
- バシゴー(BasiGo)
バシゴーは2021年、ケニアで設立された。2022年3月から、ナイロビの公共交通機関向けに、25人乗り電動バスの運行を開始。2023年8月現在、ナイロビ市内の6路線で17台を運行している。需要の拡大を受け、2023年1月から、モンバサの工場で電動バス車両の組み立て生産も始めている。2023年7月、ルワンダ進出を発表。現地パートナーのAC Mobilityと協業により、首都キガリの交通市場に参入する計画だ。また2023年8月に、ケニア市場に新たに36人乗りの電動バスを導入すると発表した。このように、短期間で急速に事業の拡大を進めている。そうしたこともあり、2022年には、豊田通商グループが100万ドルの出資に踏み切っている。
- ローム(ROAM)
ロームは元々、スウェーデン発のスタートアップ企業だ。2017年にOpibusとして創業し、2021年に社名を変更した。同社も、ケニアのEV関連事業で頭角を現しつつある。バシゴー(BasiGo)より大型の77人乗りの電動バスを開発し、2022年10月にナイロビ市内で運行を開始した。現時点ではまだ試験運行のため、1路線1台にとどまっている。しかし、今後、中長距離路線で需要が拡大すると見込んでいる。また、当地独特のバイクタクシー(注3)向けの電動バイクも開発。2023年3月、ナイロビ市内に組み立て工場を稼働させた。敷地面積1万平方メートルに及び、東アフリカ最大規模だ。2023年8月時点で累計300台以上を販売し、数年のうちに年5万台の生産を目指すとしている。2023年5月には、「Roam Hub」と称する拠点をナイロビ市内3カ所に設置した。当該拠点では、電動バイクに充電したり、補修などのサービスを受けたりすることができる。なお、ロームは2023年2月、アフリカでの交通の電動化について、日立ヨーロッパと協業すると発表した。
こうしたEV関連企業の急速な事業拡大は、必ずしも車体などハード面の開発だけに焦点が当てられているわけではない。むしろ、利用を促すソフト面のビジネスモデルがカギになっていると言えそうだ。
例えばバシゴーは、交通事業者にバスを販売する際、バス車体の販売価格を低減し、初期投資コストを下げる仕組みを導入した(注4)。また、スマートフォンにダウンロードしたアプリで、乗客がバスの位置確認や乗車予約、乗車賃の支払いができるようにもされている。
ロームも、エムコパ(M-Kopa、注5)と提携。電動バイク販売の際、銀行融資を受けづらい小規模事業者が初期投資を抑えて購入できるようにしている(注6)。
- 注1:
- KEBSは、マイクロバス(長さ7メートル以下)について、製造から8年以内のものだけ輸入を認めるとした。
- 注2:
- 政府は、国内組み立て車やその生産に使われる投入財について、物品税や付加価値税(VAT)の課税を免除した。
- 注3:
- 「ボダボダ(Bodaboda)」と呼ばれる。
- 注4:
- 具体的には、バッテリーを車体とは切り分けて、同社からリースで提供することで車両価格を抑えた。その対価は、走行距離に応じて課金する仕組みだ(ペイ・アズ・ユー・ドライブ)。なお、対価には、充電ステーションでの無料充電やメンテナンスなども含まれている。
- 注5:
- エムコパには、住友商事も出資している。
- 注6:
- やはり利用距離に応じて課金する「ペイ・アズ・ユー・ゴー」方式を導入。
- 執筆者紹介
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無料 カジノ ゲーム・ナイロビ事務所長
佐藤 丈治(さとう じょうじ) - 2001年、無料 カジノ ゲーム入構。展示事業部、無料 カジノ ゲーム・ヨハネスブルク事務所、企画部企画課、無料 カジノ ゲーム・ラゴス事務所、無料 カジノ ゲーム・ロンドン事務所、展示事業部、調査部中東アフリカ課を経て、2023年5月から現職。