自動車生産、輸出、国内販売とも好調(アルゼンチン)
2023年8月23日
アルゼンチンは目下、IMFの支援を受けて財政再建中だ。
にもかかわらず、2022年、自動車産業は好調だった。(1)生産の足かせになっていた半導体不足が解消したこと、(2)輸出需要が好調なことだけではない。加えて、(3)ハイパーインフレによる換物需要高や、(4)自動車輸入規制で国産車販売が好調だったことも追い風になった。
アルゼンチン自動車製造業者協会(ADEFA)によると、自動車生産(トラック・バスを除く)が前年比23.5%増。輸出は24.3%増、国内販売12.5%増といずれも増加した。2022年の生産台数は53万6,893台で、50万台を超えたのは2015年以来になる(図1)。
アルゼンチンでは、完成車メーカー10社が自動車を生産している。その対象は乗用車だけではなく、ピックアップトラックや多目的車を生産している(両者とも、国内農業部門で一定の需要がある)。完成車工場は、ブエノスアイレス州、コルドバ州、サンタ・フェ州の3州に集積。日本企業では、トヨタが1997年、ブエノスアイレス州のサラテ工場で「ハイラックス」の生産を開始した。ホンダも、2011年に同州カンパナ工場で四輪車の生産を開始していた。ただし、2020年に四輪車から撤退し、現在は二輪車の製造に専念している。日産はコルドバ州に立地するルノーのサンタ・イサベル工場で、「フロンティア」を2018年から生産している。
生産:半導体不足解消も、原材料の輸入環境悪化
ADEFAによると、2022年の自動車生産台数(トラック・バスを除く)が前年比23.5%増になった最大の要因は、半導体不足の影響が後退したことだ。もっとも、外貨不足に起因する輸入規制が、引き続き生産拡大の足かせになっている。輸入代金を決済する外貨が不足しているため、輸入許可そのものが下りにくい。仮に許可が下りても、輸入代金の支払いまでに相当な時間を要することも問題になっている。
外貨準備高の減少とともに、原材料の輸入代金支払いに要する時間も延びている。2022年時点では、輸入通関後30~180暦日の時間を要していた(注)。2023年以降も外貨準備高の減少とともに、支払いに要する日数が延びており、自動車原材料の輸入を取り巻く状況は悪化している。
一方で、2023年上半期の累計生産台数は、前年同期比21.4%増の29万5,777台と、好調を維持している。
輸出:ブラジル、中米向けが牽引
ADEFAによると、2022年の自動車輸出台数(トラック・バスを除く)は前年比24.3%増の32万2,286台。生産と同様に好調だった。輸出台数の約6割はブラジル向け。その他の主な輸出先も、中米諸国、チリ、コロンビア、ペルーなどだ。中南米域内への輸出が中心になっていることがわかる(表1)。
2023年上半期の累計輸出台数は、前年同期比8.6%増の15万2,044台。生産台数に比べて伸び率が低いのは、2023年6月に前年同月比27.0%減と、大幅に減少したことによる。ただしその主因は、海上物流上の一時的な問題(ブエノスアイレス港でのストライキなど)と考えられる。そうしてみると今後は、輸出台数も生産台数に比例して伸びていくとみられる。
国・地域名 |
輸出台数 (台) |
シェア (%) |
前年実績との 差(台) |
伸び率 (%) |
寄与度 (ポイント) |
---|---|---|---|---|---|
ブラジル | 202,406 | 62.8 | 30,417 | 17.7 | 11.7 |
メキシコ | 7,889 | 2.4 | 2,731 | 52.9 | 1.1 |
ウルグアイ | 5,019 | 1.6 | 1,625 | 47.9 | 0.6 |
コロンビア | 20,180 | 6.3 | 6,980 | 52.9 | 2.7 |
その他米州 | 2,044 | 0.6 | 375 | 22.5 | 0.1 |
欧州 | 3 | 0.0 | 0 | — | 0.0 |
チリ | 20,140 | 6.2 | 3,152 | 18.6 | 1.2 |
アジア | 2 | 0.0 | 1 | — | 0.0 |
アフリカ | 2,017 | 0.6 | 208 | 11.5 | 0.1 |
中米 | 32,462 | 10.1 | 14,014 | 76.0 | 5.4 |
オセアニア | 3,816 | 1.2 | △ 2,669 | △ 41.2 | △ 1.0 |
ペルー | 17,617 | 5.5 | 3,535 | 25.1 | 1.4 |
エクアドル | 3,121 | 1.0 | 819 | 35.6 | 0.3 |
ベネズエラ | 606 | 0.2 | 137 | 29.2 | 0.1 |
パラグアイ | 4,964 | 1.5 | 1,683 | 51.3 | 0.6 |
合計 | 322,286 | 100.0 | 62,999 | 24.3 | 24.3 |
注:この表の表記は、原典に準じた(「前年実績との差」を足し上げても合計と一致していない点や、国名の並び順を含めて、原典のまま)。
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国内販売:国産車割合が前年比8.0ポイント増
ADEFAによると、2022年の自動車販売台数(自動車販売代理店への卸売り台数、トラック・バスは含まない)は前年比12.5%増の37万6,257台だった(図2)。また、カジノ 無料 ゲームによると、2022年の新車登録台数(速報値、トラック・バスを含む)は、前年比6.8%増の39万5,540台だった。
2022年はインフレ率が前年の50.9%からさらに加速し、94.8%に達した。その結果、換物需要が高まって、自動車販売台数が増加した。この流れは前年同様と言える。他方、外貨不足により完成車輸入が制限された。そのため、やはり前年同様、国産車が販売台数実績の上位を占めた。2022年の自動車の販売台数に占める国産車の割合は、前年比8.0ポイント増の58.0%だった。
ACARAによると、登録台数のブランド別ではトヨタ(8万5,357台)、車名別ではフィアット・クロノス(3万8,769台)の登録台数が最も多かった(表2、3)。その他の日本メーカーでは、ブランド別で日産が第8位に入っている。
また、2023年上半期の自動車卸売り台数は、前年同期比14.1%増の18万1,233台。新車登録台数も12.7%増の22万9,525台と、好調を維持している。
順位 | ブランド | 2021年 | 2022年 |
---|---|---|---|
1 | トヨタ | 73,572 | 85,357 |
2 | フィアット | 50,379 | 55,675 |
3 | フォルクスワーゲン | 55,466 | 47,713 |
4 | ルノー | 35,356 | 44,669 |
5 | プジョー | 27,186 | 35,658 |
6 | シボレー | 27,306 | 29,197 |
7 | フォード | 29,224 | 27,715 |
8 | 日産 | 15,783 | 15,232 |
9 | シトロエン | 12,436 | 13,836 |
10 | ジープ | 11,287 | 9,940 |
13 | ホンダ | 1,811 | 1,120 |
26 | レクサス | 220 | 159 |
31 | スバル | 137 | 122 |
34 | 三菱 | 109 | 94 |
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順位 | ブランド | 車名 | 2021年 | 2022年 |
---|---|---|---|---|
1 | フィアット | クロノス | 37,449 | 38,769 |
2 | プジョー | 208 | 15,812 | 25,649 |
3 | トヨタ | ハイラックス | 27,129 | 24,628 |
4 | フォルクスワーゲン | アマロック | 18,686 | 21,249 |
5 | トヨタ | エティオス | 14,066 | 18,141 |
6 | シボレー | クルーズ | 8,486 | 15,221 |
7 | トヨタ | ヤリス | 11,796 | 14,316 |
8 | ルノー | カングーII | 8,492 | 14,155 |
9 | フォード | レンジャー | 14,927 | 13,189 |
10 | トヨタ | カローラクロス | 4,637 | 12,690 |
11 | トヨタ | カローラ | 9,134 | 10,461 |
15 | 日産 | フロンティア | 5,773 | 7,516 |
24 | 日産 | キックス | 5,529 | 4,502 |
31 | トヨタ | SW4 | 4,888 | 3,726 |
39 | 日産 | ヴァーサ | 3,200 | 1,883 |
44 | ホンダ | HR-V | 1,068 | 957 |
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電動車販売:地場企業の超コンパクトBEVがブランド別シェア第3位に
ACARAによると、2022年の電動車の新車登録は前年比33.0%増の7,849台。うち7,588台がハイブリッド自動車(HEV)、260台が電気自動車(EV)だった。新車登録台数全体に占める割合は2.0%と非常に小さい。ただし、販売台数は年々増えている。ブランド別では、その85.7%をトヨタ。次いで販売シェアが大きいのはフォードで、全体の6.1%を占めた。
車種別では、カローラクロス、カローラ、RAV4のハイブリッド仕様車が上位を占めている。技術別では、HEVが全体の94%。バッテリー式電気自動車(BEV)が3%、マイルドハイブリッド自動車(MHEV)が1%になっている。
電動車市場は、トヨタ(輸入車)の独壇場になっている。一方で2022年は、国産BEVの販売台数が大きく伸びた(234台、前年は21台)。製造するのは、サン・ルイス州で1995年に創業した電気機器製造業のコラディル。航続距離が100キロと短いものの、街乗り用の超コンパクトBEV「Tito」(ティト)を製造販売している。ブランド別で、トヨタ、フォードに次ぐ販売シェア(2.5%)を占めた形だ。
将来的なガソリン新車販売禁止を規定する法案はどうなる
アルゼンチンでは、メルコスール域外から輸入される環境対応車に低関税枠が設けられている。マウリシオ・マクリ前政権下で導入され、2017年5月から2020年5月までの3年間で、6,000台の枠を設定。2021年も政令617/2021号により、同年9月14日から18カ月間を対象に、4,500台の低関税輸入枠が設定された(ただし、2023年3月いっぱいで失効)。2023年7月25日付の現地紙「ラ・ナシオン」(電子版)によると、政府は8月下旬に新たな低関税枠を設ける方針という。しかし、対象期間は12カ月間で、低関税枠は2,500台まで縮小するとした。
政府は2022年1月、「電動モビリティー推進法案」を下院に提出。この法案は(1) 2041年1月1日以降、ガソリン車の新車販売を原則として禁止する、(2)持続可能なエネルギーを動力源とする乗用車、商用車、トラック・バス、超小型モビリティーなどの導入を推進するため、税制優遇措置を設ける、ことなどが盛り込まれた。ただし、2023年8月時点で成立していない。電動モビリティーの推進は中国のEVメーカーに有利に働くため、自動車産業の支持を得られていない。同法案は、車両本体および充電器など補助機器を購入した場合に法人税などから一定額を税額控除できるようにする「特別グリーン税額控除」などの優遇措置を設けるとしている。現状、内燃機関車の生産メーカーは、自動車部品の現地調達などの厳しい条件を満たした上で優遇措置を受けて国内で自動車を生産、販売している。そのため、中国からの輸入EVの販売が優遇されかねない同法案に、自動車産業が賛同していないとみられる。
また、EV生産を推進するべく、政府はリチウム電池の国内生産を促す新法を準備しているとも言われる。しかし、自動車産業の関係者は、国土が広大なアルゼンチンなど南米諸国では、都市部の公共交通機関を除いて、そもそもEVが普及しにくいとの見方を示している。
- 注:
- それでも、自動車産業は他産業に比べ、原材料を輸入しやすいと言われる。アルゼンチンの輸出額の約1割を稼ぐことなどから、政府が重要産業と位置付けているためだ。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ブエノスアイレス事務所
西澤 裕介(にしざわ ゆうすけ) - 2000年、ジェトロ入構。ジェトロ静岡、経済分析部日本経済情報課、ジェトロ・サンホセ事務所、ジェトロ・メキシコ事務所、カジノ 無料 ゲーム調査部米州課、ジェトロ沖縄事務所長などを経て現職。