コロナ禍で導入が進むフードデリバリー
ブラック ジャック やり方 カジノ
2021年4月2日
マレーシアでは、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、2020年3月以降、感染状況に応じて事業活動の制限と緩和が繰り返されている。特に飲食店は、この制限の影響を大きく受けた業態の1つである。他方、外出を控える消費者によるフードデリバリーサービスの利用が増え、新たにデリバリービジネスに参入する飲食店も急増している。本レポートでは、マレーシアのフードデリバリー最新事情について、2回にわたり報告する。前編では、市場の概況や主要な事業者について紹介する。
コロナ禍がデリバリー市場拡大を後押し
新型コロナの感染拡大防止のため、2020年3月以降に実施された飲食店に対する制限内容を概観すると、店内飲食が完全に禁止となったのは、2020年3月18日から5月3日まで、および2021年1月13日から2月9日までの移動制限令(MCO)下だった。それ以外では、店内飲食は解禁され、状況に応じて、1テーブルに着席できる人数が制限された。直近では、2021年2月10日以降、店内飲食は再開が認められ、政府が定めた標準作業手順書(SOP)の順守が義務付けられている。主な内容は、顧客間の距離を1メートル以上確保する、1テーブル当たりの着席人数はこの距離を確保できる人数まで、入店時の検温や手指の消毒などを徹底する、などだ。こうした制限に加え、消費者の中では感染防止のため、店内飲食を敬遠する動きも出ており、店舗の稼働率は平時を下回る状況が続いている。
他方、近年、利用ニーズが拡大していたフードデリバリーは、前述のコロナ禍における活動制限を背景に、さらに利用が進んでおり、飲食店におけるフードデリバリーのサービス提供体制の構築も急ピッチで進んでいる。
デリバリー市場の規模は2024年に2020年比倍増の見込み
マレーシアでは、ドイツに本社を置くフードパンダ(Food Panda)が2012年にモバイルアプリケーションを通じたオンラインでのフードデリバリーサービスを開始して以降、徐々にフードデリバリーの利用普及が進んでいる。
ドイツ系調査会社のスタティスタ(Statista) によると、マレーシアの2020年のフードデリバリー市場規模は約2億ドル(約218億円、1ドル=約109円)だが、2024年には2020年と比較して約2倍の4億ドルに達するとされており、今後も市場規模の拡大が期待される。利用者数累計は、2021年に930万人、2024年には1,350万人に達するとされている(図1参照)。マレーシアの人口が約3,200万人であることに鑑みると、2021時点で国民の約3分の1がフードデリバリーを利用した経験がある。
フードパンダとグラブフードが2大サービス
フードデリバリーは、モバイルアプリケーションのプラットフォームを通じた注文が一般的だ。スタティスタが2020年6月に1万110人を対象に行った調査では、「最もよく使うフードデリバリーのアプリケーションは何か」との問いに対し、75%がフードパンダ、60%がグラブフード(Grab Food)と回答している。次いで、大手外食チェーン店各社が自社で開発したアプリケーション(16%)が続く(図2参照)。
フードパンダは前述のとおり、マレーシアにフードデリバリーを普及させた先駆的存在であり、同国のフードデリバリーシェアで第1位とされている。同社は、2016年にドイツの大手フードデリバリー企業のデリバリーヒーロー(Delivery Hero)に買収され、大手グループ傘下となった。マレーシアでは、早期にサービスを開始しているため、出店店舗の開拓が他社より進んでおり、首都圏外の地域でも登録店舗数が多いことが特徴だ。
グラブフードは、配車サービスを提供するグラブが運営するフードデリバリーサービスである。2018年3月に、グラブが、米国のウーバー・テクノロジーの東南アジア事業の売却で同社と合意し、配車サービス事業とフードデリバリー事業を取得し、同年からグラブフードとしてサービスを開始した。グラブフードは、マレーシア全土のシェアではフードパンダに次ぐ第2位とされているが、首都圏においてはフードパンダをしのぐシェアを誇ると言われており、新型コロナ禍では政府による移動制限の発令も後押しして、急速に出店店舗数と利用者数を拡大している。これは、配車サービスとしてマレーシア最大シェアを誇るグラブのアプリケーション内に、グラブフードの機能が設置されていることが背景にあると考えられる。オールインワンのアプリケーションとして、配車サービスユーザーをうまく取り込んでいることや、グラブフード専門の配達員に配車サービスのドライバーを加えることで多くのドライバーが確保でき、ドライバーと注文のマッチングがスムーズに行えることが、他社と比べて優位に働いていると思われる。
また、利用者数や登録店舗数はフードパンダやグラブフードには劣るものの、新型コロナの感染拡大以降にサービスを開始したビープデリバリー(Beep Delivery)にも注目だ。ビープデリバリーは、2013年にマレーシアで創業したストアハブ(StoreHub、小売店向けのクラウドPOSサービスのプラットフォーム事業者)が、2020年3月に開始した。同社のアプリケーションを見ると、2021年3月時点で1,000店以上が参加している。他のサービスより利用手数料が低いことが特徴で、フードパンダやグラブフードの手数料が20~35%程度ある一方、ビープは2%となっている。ドライバーの確保は、現地のオンデマンドデリバリーサービスであるゴーゲット(GOGET)と連携している。新規参入であるためか、他のサービスに比べると配達時間の遅れなどの点で、改善を求める消費者の声が目立つ。
モバイルペイメントの普及がビジネス拡大の素地に
フードデリバリーでは、モバイルアプリケーションを通じて、注文から支払いまで一貫してオンラインで完結できることが大きな特徴だ。主な支払い方法は、クレジットカードまたはデビッドカード、オンライン銀行振り込み、代引きが一般的である。グラブフードに関しては、他のサービスと異なり、グラブが運営するEウォレットサービスであるグラブペイを利用できる。同社については、注文、ドライバー、支払いまで同社のプラットフォームで完結できる仕組みを保有し、一社で総合的なサービスを提供している。
代引きも選択できるが、新型コロナの感染拡大を背景に、直接の接触が少なく済むオンライン決済が奨励され、多くの利用者がオンライン決済を選択していると思われる。マスターカードが2020年6月に実施した調査によると、マレーシアはEウォレットの利用者が東南アジアで最も多い40%だった。マレーシア政府は、コロナ禍での国民への支援として、グラブペイなどのEウォレットアプリケーションを通じて、年収10万リンギ(約260万円、1リンギ=約26円)以下の18歳以上のマレーシア国民に対して、50リンギを支給するなど、国民のEウォレット利用を積極的に進めている。こうしたオンライン決済が普及している点も、フードデリバリーをはじめとするオンライン購入サービスの利用が普及する土壌となっていると考えられる。
拡大するマレーシアのフードデリバリー市場
- コロナ禍で導入が進むフードデリバリー
- 商品説明や配送方法の工夫での差別化が重要
- 執筆者紹介
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ジェトロ・クアラルンプール事務所
山田 隆允(やまだ たかよし) - 2013年4月、信金中央金庫入社。2019年4月からジェトロに出向し、デジタル貿易・新産業部EC・流通ビジネス課を経て2019年10月から現職。