中国最大の水産業都市、海洋経済に注力する青島企業の事例

2019年11月29日

中国の東部沿海、黄河下流に位置する山東省は、「海洋」にフォーカスした戦略での発展を急いでいる。近年では、相次ぐ国際フォーラムや展示会の開催に加え、関連政策や国家級新区の整備などにより、官民一体となった取り組みが図られているところだ。

水産物の加工に強い優位性を有する

黄海に突き出た山東半島を有する山東省は3,300キロメートルの海岸線を有し、その代表的な国際港湾都市である青島市は100年以上前から発展を遂げてきた。中国統計年鑑によれば、山東省は、同じく漁村から発展の口火を切った広東省を追い抜き、中国では最大の水産物生産量を誇る(図参照)。青島市では、毎年、世界3大水産見本市の1つである「中国国際漁業博覧会」が開催されており、国際的な水産業のビジネスの中心でもある。

図:2018年の省市別・水産物生産量
2018年の省市別での水産物生産量において、山東省は、 最大の861.4万トン。2位以下は、次の通り。なお、水産物は海水産物と淡水産物からなる。広東省842.4万トン、福建省783.9万トン、浙江省589.6万トン、江蘇省494.8万トン、湖北省458.4万トン、遼寧省450.8万トン、広西チワン族自治区332.0万トン、江西省255.9万トン、湖南省246.9万トン、安徽省225.0万トン、海南省175.8万トン、四川省153.5万トン、河北省109.6万トン、河南省98.4万トン、雲南省63.8万トン、黒竜江省62.4万トン、重慶市53.0万トン、天津市32.6万トン、上海市26.3万トン、貴州省23.7万トン、吉林省23.4万トン、寧夏回族自治区17.7万トン、新疆ウイグル自治区17.4万トン、陝西省16.3万トン、内モンゴル自治区13.9万トン、山西省4.8万トン、北京市3.0万トン、青海省1.7万トン、甘粛省1.4万トン、チベット自治区0.0万トン。

出所:中国統計年鑑を基にジェトロ作成

ハイパーブラックジャック
「中国国際漁業博覧会」のジャパンパビリオンの様子(ジェトロ撮影)

地場企業、超低温倉庫やR&Dで強みを発揮

こうした特徴を踏まえ、中国政府は、2014年6月に水産業などを含む「海洋経済」(注1)をテーマとした初の国家級新区、西海岸新区(注2)を青島市に設置した。その西海岸新区において、特色のある取り組みを行う中国企業2社を紹介したい。

1社目は、青島経済技術開発区に位置する「青島魯海豊食品集団」(以下、青島魯海豊)だ。同社は2001年に設立され、資本金は1億元(約15億円、1元=約15円)で、20以上のグループ会社に3,000人以上の従業員を有する。水産物の加工能力は年間約3万5,000トンで、日本をはじめ、EU、韓国、米国など10以上の国・ハイパーブラックジャックへ年間約3万トンを輸出している。また、同社は水産加工、養殖、遠洋漁業に加え、埠頭(ふとう)経営、倉庫・物流、飲食業など多角的な経営を行っている。青島魯海豊が一躍有名になったきっかけは、2019年7月から運用が開始された同社の超低温冷凍倉庫(以下、冷凍倉庫)だ。同冷凍倉庫は容量が5万トンある5階建てで、氷点下60度の状態を保てる単体の冷凍倉庫としては世界最大規模である。中国では、生食用のマグロは氷点下50度以下での保管が義務付けられている。同社の冷凍倉庫には、遠洋漁業で水揚げされ冷凍輸送されたマグロが入庫される。今後、青島魯海豊は12.26平方キロメートルの敷地に330億元を投資し、容量300万トンの世界最大の低温物流拠点をつくろうと計画している(「大衆網」2019年7月28日)。

2社目は、青島海洋ハイテク区に位置する「青島明月海藻集団」(以下、青島明月)である。同社は1968年に設立され、資本金1億2,000万元を有する。同社は、海藻から抽出される食物繊維の一種であるアルギン酸の大手メーカーである。製品は米国、EUなど100以上の国・ハイパーブラックジャックへ輸出され、世界シェアは33%と、最大級の生産量を誇る。ISO22000やハラールなど数々の国際認証を取得し、また、海藻活性物質国家重点実験室(注3)など国家レベルの研究室を有しており、研究開発(R&D)も積極的に行っている。その取り組みの独自性や過去の実績などから、工業情報化部が発表した「中国製造業単独チャンピオンモデル企業」にも選出された(2018年11月7日付ハイパーブラックジャック・分析レポート参照)。外国企業との関係も強く、医療・食品大手のバイエル(ドイツ)や、食品大手のクラフト・ハインツ(米国)などとも提携がある。2006年には、日本のアルギン酸最大手メーカーであるキミカ(本社:東京)と、今後30年にわたる長期戦略パートナーシップを提携した。日本企業との連携について、青島明月の王発合総裁補佐は「日本企業は、化粧品や食品、医薬品に使用される紅藻(こうそう)分野に高い競争力があり、当社は中国での販売ネットワークに強みがある。日本企業とは技術面、設備面での協力を期待している」と語る。なお、上記2社は、西海岸新区管理委員会が2018年6月に公表した「青島西海岸新区海洋経済発展3カ年行動計画外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」で、政府からの支援が約束された経済発展重大プラットフォームにも選出されており、今後、官民によるさらなる出資が期待される。


青島魯海豊が運用を開始した超低温冷凍倉庫
(ジェトロ撮影)

青島明月の国家重点実験室
(青島明月提供)

「海洋経済」を主体にした発展戦略と日系企業との関わり方

水産物加工のみならず、中国政府は「海洋」と関わりのある幅広い産業の発展を掲げる。青島市は2019年6月に発表した「新旧成長エンジン転換『海洋攻勢』戦略方案(2019-2022年)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」の中で、2022年までに海洋経済の生産額を5,000億元に引き上げ、域内総生産(GRP)構成に占める割合を31%とする目標を掲げた。また、2019年8月26日に認定された山東省自由貿易試験区でも、海洋経済は青島エリアでの重点分野に選ばれている(2019年9月3日付ビジネス短信参照)。さらに、現代版シルクロードといわれる「一帯一路」構想が提唱された2013年以降、海洋をテーマにしたイベントや取り組みを多く見ることができる。一朝一夕にはいかないが、「海洋経済」のような大きな潮目をとらえた日中企業間の連携の可能性に注目したい。


注1:
海洋経済には、海洋の開発や資源の利用に関わるさまざまな経済活動が含まれ、伝統的な漁業や海運などに加え、バイオ医薬品や洋上発電、金融などもその対象となる(国務院『全国海洋発展計画綱要外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます』2003年)。
注2:
西海岸新区は、10の機能を持った区に分かれ、総面積は、高知県(7,104平方キロ)に匹敵する7,128平方キロに及ぶ。2018年のハイパーブラックジャック総生産額は3,517.07億元に上り、国家級新区では、浦東新区(上海市)、濱海新区(天津市)に次いで、中国第3位の規模を誇るとされている(西海岸新区政府ウェブページ参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。
注3:
科学技術部の承認を受けて、2015年10月に設立。海洋バイオ産業の基礎研究、技術開発などを積極的・集中的に行い、当該産業におけるイノベーションを促すプラットフォームとしての機能を有する。
執筆者紹介
ジェトロ・青島事務所
田中 正義(たなか まさよし)
2017年4月、ジェトロ入構。農林水産・食品部(2017年~2019年)を経て、2019年6月から現職。