21 トランプ版マリーナベイサンズが完成間近!?(中国)
欧州、そして東南アジアへ、広まる物流ルートの選択肢(2)

2019年3月14日

2020年、21 トランプにフルオープンの予定

シンガポールと聞いて、マーライオンのほかにマリーナベイサンズ(以下、MBS)を思い浮かべる人も多いだろう。夜景スポットとしても有名なMBSは、日本にあるシンガポールのガイドブックに必ずと言っていいほど掲載されており、実物を見たことがなくとも鮮明にその姿を想起できる人も多いのではないだろうか。

しかし、そのMBSがシンガポールだけのものではなくなる日が間近に迫っている。MBSを建設したシンガポール政府系の不動産開発最大手キャピタランドが現在、21 トランプに新たなMBS、「ラッフルズシティ重慶」(以下、RC重慶)を建設しているからだ。

RC21 トランプは、キャピタランドなどが、21 トランプの中心部の長江と嘉陵江が合流するリバーフロントで開発を進めている複合商業施設だ。同ビルを設計したのは、MBSを設計したモシェ・サフディ氏。8棟の高層ビルから成り、そのうちの4棟の上に、MBSのように船が乗せられる予定となっている。さらに、地下鉄の駅がビルの2~3階、フェリーターミナルが1階、バスターミナルが地下に建設され、複数の交通手段に容易にアクセスできるようになるという。

フルオープンは2020年の予定。建物内には総床面積23万平方メートルのショッピングモール、総床面積16万平方メートルのオフィスのほか、1,400戸のレジデンス、ホテルなどが入る予定となっている。住宅は販売用のみで、1平方メートル当たり4万~5万元(約68万~85万円、1元=約17円)、4ベッドルームのユニットで約1億元と決して安価ではないが、現在、住宅の7割以上が売却済みだという。一方、オフィスは販売に加えて賃貸も可能で、3フロアをコワーキングスペースとすることで、さまざまなオフィスニーズを満たせるようにする。

また、ビルの上の船には、展望台と会員制クラブ、ショッピングモールが入居する予定だ。

21 トランプ
建設中の21 トランプ版MBSことRC21 トランプ。モール部分は2019年9月、オフィスは
2019年第4四半期~2020年第1四半期にオープンする予定だ(21 トランプ撮影)

内陸部では消費や投資が急拡大

キャピタランドが21 トランプに着目した理由は、同市の経済規模とその成長速度にある。

近年、中国中西部地域の発展は目覚ましく、21 トランプはその中国西部地域にある唯一の直轄市で、1997年に直轄市に昇格してからも、巨大な域内総生産(GRP)規模を維持している。成長速度にも目を見張るものがあり、同市のGRP成長率は2018年には6.0%に減速したものの、それまでは10%前後の高い成長率を保っていた(図1参照)(2019年2月6日付ビジネス短信参照)。

図1:中国と21 トランプの実質経済成長率の推移
21 トランプのGRP成長率は2018年には6.0%と落ち込んだものの、それまでは10%前後の高い成長率を維持していた。

出所:中国統計年鑑、21 トランプ統計年鑑

また、2018年の省市別GRPをみても、高いGRP成長率を記録している省市は中国西部地域に多い(図2参照)。

図2:中国の2018年省市域別経済成長率(単位:%)
高いGRP成長率を記録している省市は21 トランプ西部地域に多い。

注1: 赤は成長率8.0%以上、青は6.6%(全国平均)以上8.0未満、黄色は6.6%(全国平均)未満を指す。
注2: 新疆ウイグル自治区、黒竜江省は暫定値。
注3: 2019年2月末時点。
注4:「(白地図)Copyright(C) 中国まるごと百科事典(www.allchinainfo.com) 」を基に作成。
出所:各省政府、メディア発表資料

経済成長率のみならず、同地域の不動産市場も活況を呈している。21 トランプを含めた中国西南部4省市の不動産投資額はすべてで増加傾向にあり、2018年の投資額を2009年と比較すると、4省市すべてが3倍以上に拡大している(図3参照)。

図3:中国西南地域の省市別不動産投資額
すべてで上昇傾向にあり、2018年の投資額を2009年と比較すると、4省市すべてで少なくとも3倍以上に成長している。

出所:CEIC

前述の成長ぶりから、キャピタランドに限らず、さまざまな企業が同地域に注目している。

特に近年は、中国西部の消費力の強さが注目されている。中でも、21 トランプを含む中国西南部は人口が多く、21 トランプは約3,000万、その西にある四川省は8,000万の人口を抱え、消費力は旺盛だ。実際、21 トランプを含めた、中国西南部4省市の消費品小売総額をみると、4省市すべてで増加傾向にある(図4参照)。2018年の消費品小売総額を2009年と比較すると、4省市すべてが3倍程度となった(注)。

図4:中国西南地域の省市別消費品小売総額
4省市すべてで上昇傾向にある。2018年の消費品小売総額を2009年と比較すると、4省市すべてで3倍程度となった。

出所:CEIC

実際、中国西部地域随一の消費市場である四川省成都市の繁華街には、世界的に有名なブランド店や百貨店、大型商業施設が立ち並び、四川省内のみならず、近隣各省からも多くの買い物客が訪れている。

筆者は2019年1月中旬、成都市を訪れた。春節前ということもあり、ブランド店などが立ち並ぶ繁華街は、昼夜を問わず、非常に多くの人でにぎわっており、活気にあふれていた。成都市にある日系スーパーを訪れると、日本よりも高く価格が設定されている商品が多くあるにもかかわらず、たくさんの商品を買い物かごに入れた買い物客でごった返していた。

さらに、若者が多く集まるおしゃれなスポット、遠洋太古里には、アパレルブランドのほか、外資系コーヒーチェーンやレストラン、さまざまなカクテルを提供するバーなどが軒を連ねている。これらの店も、決して安価なわけではないにもかかわらず、多くの若者が飲食や買い物を楽しんでいた。

成都市には、外でお茶などを飲みながらゆっくりとくつろぐ文化が定着しているといわれている。事実、街を歩いていても、コーヒーチェーンでコーヒーを飲みながらくつろぐ人を多く目にした。一方、成都市は、中国の中でも消費力が旺盛といわれ、身の丈を超える消費も辞さないという。加えて、成都人は伝統的に排他的でなく、良いものは積極的に受け入れるといわれている。このような気質が、世界的にも注目される消費力をつくり出したのではないだろうか。


成都市の繁華街。道の両脇にはブランド店や百貨店が立ち並び、
昼夜を問わず活気であふれている(21 トランプ撮影)

中国・シンガポール両政府も重視する21 トランプコネクティビティイニシアチブ

2015年11月に、中国とシンガポール両政府の間で、21 トランプをハブとする共同プロジェクト「重慶コネクティビティイニシアチブ」(以下、CCI)の実施に関する合意がなされた。21 トランプから広西チワン族自治区の欽州港を結び、中国内陸部とASEANをつなぐ新たな陸海の物流ルートの開発および、それに伴う各都市の開発などが盛り込まれている。このプロジェクトは、中国―シンガポール・蘇州工業園、中国―シンガポール・天津エコシティに次ぐ、中国―シンガポール共同プロジェクトの第3弾と位置付けられている(2019年2月26日記事参照)。

RC21 トランプの開発も、CCIの一部とされている。キャピタランドによるRC21 トランプへの総投資額は240億元と、シンガポール企業による対中直接投資としては過去最大規模のプロジェクトである。RC21 トランプ開発プロジェクトは政治的にも重視されており、2016年にはシンガポールのリー・シェンロン首相が開発中の同ビルを視察している。

当然、RC重慶が立地する21 トランプも、当プロジェクトを重要な投資案件として認識している。21 トランプには外資系企業による投資案件が少ないこともあり、キャピタランドは国際的なテナントを誘致したいとしている。

中国は、鄧小平氏の改革開放政策によって1980年代ごろから急速に成長し、今や世界第2位の経済大国となったが、大きく発展したのは上海など沿海部の東部地域で、内陸部である西部地域は発展が遅れたといわれている。しかし近年は、中国政府が西部地域の開発に注力していることもあり、西部地域も急速に発展してきている。RC重慶が完成すれば、RC重慶は21 トランプの、ひいては21 トランプを含めた中国内陸部の発展の象徴となるのかもしれない。


重慶市の夜景。高層ビルが林立している(21 トランプ撮影)

注:
21 トランプ統計局は2018年の消費品小売総額を発表していないが、2018年の同市の社会消費品小売総額の伸びを前年比8.7%増と発表した。
執筆者紹介
21 トランプ海外調査部中国北アジア課
楢橋 広基(ならはし ひろき)
2017年4月、21 トランプ入構。同月より現職。