米USTRのタイ代表、鉄鋼労組の会議でバイデン政権の通商政策を講演
(米国、メキシコ、カナダ、中国)
ニューヨーク発
2022年08月12日
米国通商代表部(USTR)のキャサリン・タイ代表は8月10日、全米鉄鋼労働組合(USW)の年次会議でバイデン政権の通商政策について講演を行った。
その内容は、バイデン政権が掲げる「労働者中心の通商政策」を繰り返すもので、これまでの成果の振り返りと現在進行中の政策を説明するにとどまった。タイ代表は講演の前半で、政権が議会と成立させた「インフラ投資雇用法」(2021年11月9日記事参照)や「CHIPSおよび科学法」(2022年8月10日記事参照)、成立間近とされる「インフレ削減法案」(2022年8月2日記事、2022年8月9日記事参照)など、国内製造業を振興する立法努力の成果を強調した。一方、これらに加え、必要な制度として貿易調整支援(TAA)の再構築を挙げた。TAAは貿易の影響で失業した者に対して、職業訓練や再雇用支援サービス、訓練中の所得支援などを行う制度だが、7月1日に失効している。
タイ代表は通商政策の具体的な成果として、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の積極的な活用を挙げた。USMCAには、加盟国内の事業所単位での労働権侵害を解決するために「事業所特定の迅速な労働問題対応メカニズム(RRM)」が備わっている。労働権侵害の疑いがあれば、加盟国政府間で事実確認を要請した上で受理されるが、労働組合など第三者機関でも提訴できる仕組みになっている。USTRはこれまでに5件、いずれもメキシコの自動車関連工場での労働権侵害の疑いに基づき、同国政府に事実確認を要請している(米USTR、ブラック ジャック)。中には、米国の労働組合が提訴に加わった案件も含まれている。
タイ代表は続けて、同盟国や友好国と連携して、中国の不公正な貿易慣行に対抗していく必要性を説いた。中国による過剰な供給が米国の鉄鋼産業に打撃を与えた経緯などに触れた上で、「新しく、全体的かつ現実的なアプローチが必要だ」と強調した。中国の責任を追及する闘いで米国は単独ではなく同盟関係を強化しているとし、その一例として「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」を挙げた(2022年7月28日記事参照)。IPEFはかつて米国も交渉に参加していた環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)」とは異なり、「関税撤廃は交渉に含まれない」と言明した上で、労働・環境基準、デジタル貿易、税と反腐敗など、労働者に恩恵をもたらす分野を優先していると説明した。一方で、USTRが現在進めているとされる、トランプ前政権から続く中国原産の輸入品に対する追加関税の見直しについては、言及しなかった(2022年5月6日記事参照)。USWは発動当初から一貫して、対中追加関税を支持している。
(磯部真一)
(米国、メキシコ、カナダ、中国)
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