EUは政権交代の年
2019年政治経済展望セミナー(西欧編)報告
2019年2月12日
ジェトロは1月18日、在英日本商工会議所の後援で「2019年政治経済展望セミナー(西欧編)」をロンドンで開催した。ブリュッセル、ロンドン、パリ、ベルリン、マドリード、ミラノ、アムステルダムのジェトロ事務所長がそれぞれの政治・経済動向や有望な産業について説明した。以下、概要を紹介する。
2019年のEUは政治イベントめじろ押し
政治面では、5月の欧州議会選挙、10月末の欧州委員会の委員長の任期終了、11月末の欧州理事会の常任議長の任期終了などを迎え、2019年はEUの政権交代の年となる。英国のEU離脱(ブレグジット)の行方は見えておらず、今後の英国議会の動向を注視する必要がある。合意なき離脱(ノー・ディール)の場合、GDP成長率がマイナス8%前後になるという報道もあり、その際の規制・基準については、英国が今まで享受していたものが継続できない可能性もあることから、万一の備えも必要との説明があった。イタリアは2019年度予算案をめぐりEU側の反発を招いたが、双方が歩み寄って、妥協が成立し、緊張は和らいでいる。スペインでは、極右新興政党のボクス(VOX)が州議会選挙で初議席を獲得するなど支持率を広めており、他党への影響力を増している。同党は、支持者が40代以降の所得・教育水準の高い男性が多いという、他国とは異なった特徴を持つ。フランスでは、当選以来、構造改革を矢継ぎ早に実施してきたマクロン大統領だが、さまざまな改革の中で徐々に反発を生み、支持率の低迷がみられる。一方で、世論調査では依然として同氏を大統領に選ぶとする意見が多い。ドイツでは、メルケル首相が党首を18年以上務めたキリスト教民主同盟(CDU)の新党首に、アンネグレート・クランプ=カレンバウア―前幹事長が就任した。
経済面では、EU全体としては、貿易戦争による輸出の落ち込みやEU加盟国間の経済格差が大きいことが問題点として指摘された。オランダの経済については2018年、2019年の実質GDP成長率を欧州委は2.8%、2.4%、オランダ経済政策局は2.6%、2.2%としており、ユーロ圏平均2.0%、1.7%と比べても好調で、法人税25%が2019年から2021年にかけて段階的に22.55%まで軽減され、競争力のある税制が特徴との説明があった。ドイツは、2018年の実質GDP成長率が1.7%と前年の2.2%から減速したものの、2019年以降は輸出が回復するとの見込み。一方で、失業率が史上最低を更新し人材確保が困難となってきている。
デジタル分野などにビジネスチャンスあり
続いて、欧州各国で現在注目されている分野や、日本企業にとってビジネスチャンスとなる産業について説明があった。
EU全体からの視点として、デジタル分野への関心が高く、人工知能(AI)への取り組みが本格化していることや、環境規制が厳しい分、そこでのイノベーションにチャンスがある。また、2021年から始まるイノベーションを促進するためのEUワイドの計画「ホライズン・ヨーロッパ」は、標準化につながる可能性もあることから、日本企業もうまく活用してほしいという説明があった。英国では、ブレグジットによる先行不透明の懸念はあるものの、政府としてブレグジット後の産業を育てるため、産業戦略を策定し、AIやデータ経済など産業を絞った政策を進めている。産業では金融だけでなく、伝統的に医薬品などにも強みがあり、バイオテクノロジー、高齢化社会分野にビジネスチャンスがあり、ロボット工学をはじめとした科学技術分野も注目だという。イタリアでは、日EU経済連携協定(EPA)を活用し、地理的表示(GI)製品などの輸出拡大につなげたいという機運が高まっており、日本側でも現地の日本食ブームに乗って、日本の農林水産品・食品の輸出拡大につなげていくことが期待される。ドイツでは、スタートアップが注目されるという。ベルリンにはスタートアップが集積し、金融センターではできないフィンテックや食品、音楽にかかわるユニコーンも育ってきている。フランスではAI分野が注目だ。著名な学校が多く、GAFAなどの企業が大学に投資しその流れで学生を採用するスキームができ上がりつつある。また、食品産業では日本酒・日本茶をはじめ日本への関心が高まっていることからチャンスがある。加えて、フランス企業は日本の少子高齢化や健康産業に注目し、バイオや医療・健康関係で日本企業と協業したいという引き合いがジェトロに寄せられており、これらの産業も有望産業であるとの説明があった。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ロンドン事務所
鵜澤 聡(うざわ さとし) - 2013年、高圧ガス保安協会(KHK)入会。2016年10月よりジェトロカジノ 無料調査部欧州ロシアCIS課へ民間等研修生として出向、2017年10月より現職。