インフレ削減法に伴うクリーンエネルギー投資、税の低さなどにより共和党州に偏在
(米国)
ニューヨーク発
2024年10月30日
米国のインフレ削減法(IRA)に伴うクリーンエネルギー投資が共和党州により多くされている()。この実態を踏まえ、11月5日の大統領選挙を経てIRAがどう扱われるのか注目を集めている。
共和党州に投資が偏在する理由に関し、「ワシントン・ポスト」紙が分析結果を発表した(同紙10月28日)。分析はマサチューセッツ工科大学(MIT)とシンクタンクのロジウム・グループのデータに基づくもので、2020年の大統領選でトランプ氏を支持した地区の獲得助成金が1,650億ドルで、バイデン氏を支持した地区の540億ドルの3倍で、特に上位10地区のうち9地区が共和党議員の選挙区となっていると指摘する。
その要因として、共和党州では、(1)税金が低く、州による優遇措置が手厚いこと、(2)当局による規制などプロジェクトの遅れにつながる要因が少ないこと、(3)土地が潤沢にあり安いことなどを理由として挙げている。(1)については例えば、ノースカロライナ州で雇用開発投資助成金 (JDIG)プログラムを創設するなど、州独自の取り組みがある。トヨタはこれを活用して4億ドル以上の助成金を受け巨大なリチウムイオンバッテリー工場を建設しているほか、米国バッテリー製造スタートアップのナトロン・エナジーも14億ドル規模のバッテリー製造施設建設を発表するなど、同州ではバッテリー関係の投資が続いている()。
(3)については、特に風力発電で重要な要素と指摘。風力発電には太陽光発電と比べ7~9倍の土地が必要となるほか、風力タービンによる景観や騒音問題などへの対応もあり、人口密度が低く、十分な広さの土地を安価で入手できる地域が好まれる、とする。これは、民主党州である北東部(注)でIRAに伴う補助額が少ない理由にもなっている。北東部は人口密集地が多く、用地の確保が困難で、再生可能エネルギー導入に向け期待されている洋上風力にはさまざまなボトルネック(米エネルギー省、ブラック ジャック)があり導入が進んでいないため、IRAの恩恵を十分に享受できていない。
こうした共和党州における投資の増大は、IRAの先行きを複雑にしている。大統領選で共和党候補のドナルド・トランプ前大統領は、政策綱領でグリーン・ニューディールの廃止を掲げ(米共和党政策綱領、ブラック)、選挙キャンペーンの中でもIRAの未執行分のとりやめを主張するなど、IRA自体の廃止には至らないまでも、依然として改変のリスクがあるとの意見がある。一方、2024年8月には共和党議員18人が下院のマイク・ジョンソン議長(ルイジアナ州、共和党)に対し、IRAに基づく税額控除を性急に撤廃しないよう求める書簡を送付するなど、共和党内部からもIRAの存続を求める声もあり、その先行きは予断を許さないものとなっている。
(注)人口比率17%の北東部9州(メーン、ニューハンプシャー、バーモント、マサチューセッツ、ロードアイランド、コネティカット、ニューヨーク、ニュージャージー、ペンシルベニア)は、クリーンエネルギー投資全体の4%にとどまっている。
(加藤翔一、藤田ゆり)
(米国)
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