欧州版サウス・バイ・サウスウエスト目指す「テック・オープン・エア(TOA)」再開
(ドイツ、日本)
ベルリン発
2023年07月28日
ドイツ・ベルリンにおいて7月5~7日、欧州最大級のテックカンファレンス「テック・オープン・エア(TOA)2023」が開催された。新型コロナ禍による休止を経て、4年ぶりにリアルで開催された。
本イベントは、クラウドファンディングによって拠出された資金により、2012年に初めて開催され、それ以降、毎年夏に開催されていた。現在では、欧州のみならず、北米、中東、アフリカなどからも多くのイノベーターたちを引き付け、米国ブルームバーグからも「欧州版サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)」(2023年3月24日記事参照)と米国のイベントになぞらえて呼ばれている。
TOA創設者のニコラス・ボイシュニク氏は、TOAについて「テクノロジーによってトランスフォームされる先の私たちの社会、暮らし、ビジネスを知り、未来に備えるための祭典」と語った。また、TOAは、テクノロジーや科学のみならず、音楽やアートなども含めて多種多様な分野の交流によってイノベーションを促進しようとする、ユニークなイベントとなっている。
なお、ベルリンは、ロンドンやパリと並び、欧州で最も魅力的なスタートアップエコシステムを形成する都市の1つとされ、オンライン銀行のN26、音楽クラウドのサウンドクラウド(SoundCloud)、ファッションオンライン販売のザランド(Zalando)、電動モビリティのティア(Tier)など多数のユニコーンが輩出されている。
今回のTOAでは、暗号資産の規制()、エストニアのEレジデンシー(電子市民制度)、気候変動、サイバーセキュリティー、リーダーシップなどをテーマに講演が行われ、特に人工知能(AI)に注目が集まった。
ドイツ連邦政府の講演では、ザクセン州ライプチヒに創設した破壊的イノベーションを支援する組織「SPRIN-D」によるスタートアップ支援の取り組みを紹介した。
また、ドイツ大手企業では、ベルリンに本社があるドイツ鉄道(DB)が登壇。ドイツ鉄道は、利用者の増加と遅延という課題を解決すべく、AIを使って、鉄道の運転時刻の正確性を高める取り組みを開始し、シュツットガルト、ミュンヘン、フランクフルトで先行中だという。
会場では、ベルリン州政府の投資誘致機関ベルリンパートナーが出展し、ベルリンのAI支援機関「KIパーク」(注)などを紹介した。その他、メルセデスベンツや化学大手のBASF、バイエルなども出展した。
日本企業では、ヤマハとヤマハ発動機が体験型インスタレーション(体験型アート作品) 「エプレゴナ(e-plegona)」を共同出展した。
今回、TOAの日本オフィシャルパートナーを務めるインフォバーンが日本からミッションを組成し、若手起業家やメディア、行政機関などが参加した。インフォバーンの創設者で代表取締役会長(CVO)の小林弘人氏は、「新型コロナ禍前のTOAには日本企業の新規事業開発者が多数参加していた。毎回、TOAには欧州大手の管理職も多く参加し、世界の将来の技術の流れを学びに来ている。登壇者もさることながら、そういった参加者との交流もTOAの魅力の1つだ。4年ぶりのリアル開催のため、今年は規模を縮小したが、次回は拡大が見込まれ、スタートアップから大企業まで参考になるだろう」と語った。
(注)ドイツ語の「KI」は人工知能を意味する略語。
(小菅宏幸、ダビッド・インメ)
(ドイツ、日本)
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