米USTR、USMCAに基づくメキシコ自動車部品工場での労働問題解決を発表
(米国、メキシコ)
ニューヨーク発
2022年08月18日
米国通商代表部(USTR)は8月16日、メキシコ北部のコアウイラ州フロンテラ市にある自動車部品メーカー、テクシド・イエロ(Teksid Hierro)のフロンテラ工場で労働権侵害の疑いがあるとして、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が定める「事業所特定の迅速な労働問題対応メカニズム(RRM)」に基づいてメキシコ政府に事実確認を要請していた件について、問題が解決したと発表した。類似の案件で4件目となる。
今回の件は、米国の全米自動車労働組合(UAW)、全米労働総同盟・産業別組合(AFL-CIO)とメキシコ全国鉱夫・冶金・鉄鋼労働組合(SNTMMSSRM)が、ステランティス傘下のテクシド・イエロのフロンテラ工場で団結の自由と団体交渉にかかる労働権が侵害されたとして、米政府に提訴。米政府がそれを受理し、6月にメキシコ政府へ事実確認を要請していた(2022年6月8日記事参照)。USTRによると、メキシコ政府の仲介を経て、工場側は労組と以下の点に対応すると合意した。
- 工場側は、独立の労組が従業員の代表権を行使できるよう、施設へのアクセスを与える。
- 工場側は、同労組が施設内で従業員の代表としての活動ができるよう、施設内にオフィススペースを与える。
- 工場側は、従業員から収集していた労組加入費用を同労組に支払う。
- 工場側は、36人の従業員にさかのぼって給与を支払うとともに、工場側に対する抗議活動への参加を理由に解雇されたその他の従業員に補償する。
- 工場側は、中立宣言を発表するとともに、唯一有効な労働協約は連邦法で担保されたものとする声明も発表する(注1)。
キャサリン・タイUSTR代表は「今回の成功は、労働者と労組が平等な競争条件で活動できる、より競争力のある北米経済をわれわれが作り出していることの証左だ」と成果を強調した。また、メキシコ政府への事実確認要請と同時に停止していたフロンテラ工場からの輸入に関する関税の清算を再開するよう財務長官に指示した。
USTRは2020年7月にUSMCAが発効して以降、いずれもメキシコ内の自動車関連工場での労働権侵害の疑いを理由に、RRMの手続きを5回発動している。そのうち、今回の件を含む最初の4件は外部専門家で構成するパネルを設置する前に解決した(注2)。USTRが7月にメキシコ政府へ確認要請を行った直近の案件は、現在事実確認中とみられる(2022年7月22日記事参照)。タイ代表は国内の労組向けの講演で、RRMの積極活用をバイデン政権の通商政策の1つの成果と強調しており、今後も米政府発の確認要請案件が続く可能性がある(2022年8月12日記事参照)。
(注1)メキシコでは、2019年5月1日に公布された連邦労働法改正に基づいて新設された第390条Bisで、労働協約を締結する組合が労働者の声を真に代表すること(最低でも職場の30%以上の労働者の署名が必要)を確認する組合間の投票プロセスが定められている(2019年5月7日記事参照)。
(注2)解決済みの最初の3件については下記記事を参照。
- 1件目:2021年7月12日記事、2021年9月24日記事
- 2件目:2021年8月12日記事
- 3件目:2022年7月15日記事
(磯部真一)
(米国、メキシコ)
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