ブームに伴い、政策整備
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2024年2月8日

中国では従来、化粧品やアパレル、日用品などの分野で、国外製品の人気が高かった。消費者が、「高品質」「清潔」「安全」などのイメージを持っていたためだ。中国観光客が世界各地で爆買いしてきたことも良く知られている。これは、中国メディアで取り上げられることもしばしばだった。

しかし2020年から、新型コロナウイルス感染拡大により人の往来が制限されると、少し状況が変わってくる。まず、在宅で買い物を楽しめるライブコマースが注目されようになった。キー・オピニオン・リーダー(KOL)がライブコマースで国産化粧品などを販売することにで、それらが少しずつ視聴者の目に入るようになった。その後2021年になると、中国政府が「化粧品監督管理条例」(2021年1月1日施行)と「化粧品登録備案管理弁法」(2021年5月1日施行)を発表。結果、化粧品関連企業の設立手続きが簡略化された。

本稿では、化粧品分野の国産ブランドの発展、市場規模、政策・企業の動きなど、2020年以降を概観。その上で、今後の発展について分析する。なお、この記事で用いる「国産」(中国語では「国貨」)とは、中国の企業が独自のブランドを立ち上げ、中国国内で生産する商品を指す。

新型コロナ禍で縮小した化粧品市場が回復

まず、「iiMedia Research(艾媒諮詢)」の発表に基づき、中国市場の現況を確認してみる。

当該発表によると、中国の化粧品市場規模は安定的に増加していた。2016~2019年、前年比6.8%増~8.0%増で推移した。それが、新型コロナウイルス感染拡大により、2020年に同7.0%減〔3,958億元(2024年1月26日時点で約8兆3,118億円、1元=約21円)〕と落ち込んだ。しかし、2021年には同15.0%増と急回復。2022年も同6.7%増で、4,858億元を記録した。新型コロナ前の2019年を14.1%上回る水準まで回復したかたちだ。なお同社は、2023年の市場規模が5,000億元を超えると予測している(図1参照)。

一方、中国国産ブランド化粧品の消費者は、79.7%が女性。年齢別には、若年層が多い傾向がみられる。25~35歳が全体の61.2%を占める。消費者の月収別には5,000元超~1万元が46.3%と、半数近くを占める。次いで、1万元超1~1万5,000元が29.4%、5,000元以下が14.8%だった。

図1:中国の化粧品市場規模(2016~2023年)
2016年は前年比6.8%増の3,396億元、2017年は同7.7%増の3,656億元、2018年は同7.8%増の3,942億元、2019年は同8.0%増の4,256億元、2020年は同7.0%減の3,958億元、2021年は同15.0%増の4,553億元、2022年は同6.7%増の4,858億元だった。2023年は同6.4%増の5,169億元と予測している。

注:Eは予測値を表す。
出所:艾媒咨詢の発表を基にジェトロ作成

艾媒諮詢の発表によると、中国の化粧品関連の新規企業数(登記ベース)は、2016年段階で約94万社だった。それが、2018年には140万社。2020年は281万社と、さらにその2倍規模に及んだ。さらに2021年には、約440万社にまで伸びた。2022年も367万社と、高水準だった(図2参照)。

図2:化粧品分野の新規企業数(2016~2022年)
2016年は94万社、2017年は106万社、2018年は140万社、2019年は254万社、2020年は281万社、2021年は440万社、2022年は367万社となった。

出所:艾媒咨詢の発表を基にジェトロ作成

KOLのライブコマースで国産化粧品ブランドに光

2020年には、湖北省を皮切りに中国で新型コロナ感染が急拡大。経済、ヒトの移動、物流などが、甚大な影響を受けた。感染そのものは2020年4月以降、収束に向かい始めた。それでも、国民の警戒感は依然強かった。外出は自粛。買い物が必要な場合、ネットを利用してオンラインショッピングする傾向がみられた。

いきおい、ライブコマースにも注目が集まる(広州市、新型コロナウイルス対策でブラック)。そうした中で、中国中央テレビの朱広権氏(人気アナウンサー)と、淘宝直播(タオバオライブ)のKOL李佳琦氏(注1)が2020年4月6日、ライブコマースを実施した。湖北省製品の販路を拡大するため、同省製品だけを取り扱う試みだった。このライブを累計1億2,000万人が視聴。販売金額が4,014万元に達した(「央視網」2020年4月8日(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

このイベントが好評だったことから、李氏は「五五ショッピング祭り」期間中(2021年5~6月)、国産をテーマにしたライブコマースに踏み込んだ。李氏の所属会社、美腕(上海)網絡科技によると、それらライブコマースでは国産品を400種類以上扱った。品目としては、化粧品、日用品、アパレルなど。国産品が消費者の目に入るようになったのは、これが皮切りと言えるだろう。

青眼情報の発表によると、李氏は2023年10月24日、中国最大のECイベント「双十一」(ダブルイレブン、注2)で、化粧品分野の前売りライブコマースを主宰した。その際、139ブランド合計で、363製品を販売した。そのうち、52(シェア37.4%)が国産ブランドだった。国産シェアは、2022年に開催した同様の企画より9.5ポイント拡大した。

同ライブコマースの流通取引総額(GMV)は、約76億400万元。そのうち国産ブランドは、約28億6,000万元(GMV全体の37.6%)だった。GMV上位20ブランドでは、国産ブランドが40%を占有。しかも、その第1位が国産だった。珀莱雅化粧品(PROYA、中国浙江省杭州市/7億2,400元)だった。ロレアル(フランス/4億4,000万元)、ランコム(フランス/3億7,900万元)が続き、後塵を拝したかたちだ。

では貿易実績で確認するとどうか。中国税関総署の発表によると、2023年1~11月の「香水類およびオーデコロン類(HS3303項)」と「美容用、メーキャップ用または皮膚の手入れ用の調製品(日焼止め用または日焼け用の調製品を含むものとし、医薬品を除く)、およびマニキュア用またはペディキュア用の調製品類(HS3304項)」の輸入額合計は、1,008億3,000万元。前年同期比14.8%減だった。同品目の輸入額を国・地域別にみると、欧米・日本を中心に減少例が多い(表参照)。

さらにHS3303項・3304項合計の輸入額を追うと、2016年に前年比36.8%増、2018年に同66.8%増になるなど、目覚ましい増加基調だった。それが、2022年に同7.7%減に転じた。2023年に入って、それがさらに加速したことになる。この変化は、国産ブランドの台頭が輸入額に影響を与えた結果と考えられる。

表:中国化粧品輸入額 (単位:1,000万元)(△はマイナス値)
国・地域名 2023年1~11月 前年同期比
総額 10,083 △14.8%
フランス 3,034 △4.2%
日本 2,299 △17.2%
韓国 1,343 △16.6%
米国 1,025 △21.9%
英国 697 △35.5%
イタリア 368 0.0%
ドイツ 160 6.9%
カナダ 150 △5.4%
タイ 105 7.5%
オーストラリア 65 △16.1%
台湾 38 △7.6%

出所:税関総署のデータを基にジェトロ作成

規制政策整備が国産化粧品の製造・販売を後押し

国家統計局が発表したところ、2023年1~10月、所定化粧品企業(注3)の国内小売額は3,291億3,000万元。前年同期比で6.2%増加した。

また国家食品薬品監督管理総局によると、2022年末時点の化粧品生産分野の企業数は前年比10.8%増の5,512社だった。化粧品・化粧品新原料の登録届け出実績で確認すると、特殊化粧品の新規登録申請件数が4,958件あった(注4)。総じて市場は拡大していると言えるだろう。

その背景にあるのが、規制政策の整備だ。時系列順に整理すると、以下のとおりになる。

  • 化粧品監督管理条例(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(国務院令第727号、注5)
    国家薬品監督管理局が2020年6月16日に発表した。化粧品の登録・届け出を標準化し、化粧品の品質と安全を保証するのが狙い。
  • 化粧品登録備案管理弁法(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」〔国家市場監督総局令第35号、注5)
    化粧品監督管理条例に基づき、国家市場監督管理総局が発表した。2021年1月7日公表、2021年5月1日から施行。
    当該弁法では、化粧品・新原料の登録、監督管理、法的責任などに関して明示的に規定している。例えば、(1)安全観察期間内(登録手続きが完了して3年間)に新原料の登録者の同意を得た後、化粧品登録者が当該新原料を化粧品生産に使用できること、(2)新原料の研究開発企業の積極性を保つこと、などを明確にした。
    この施行により、化粧品関連企業の設立手続きを簡略化する結果も及ぼした。
  • 軽工業の質の高い発展を促進する指導意見(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(工信部聯消費〔2022〕68号)
    工業情報化部、人力資源社会保障部、生態環境部、商務部、市場監督管理総局が2022年6月8日、発表した。
    この指導意見で目標に掲げられたのは、(1) 2025年までに工業全体に占める軽工業の割合を安定化すること、(2)内需を拡大し消費を促進すること、(3)新たな発展構造を構築すること、(4)質の高い発展の促進、能力増強、などだった。
    特に化粧品分野では、(1)化粧品の効果・安全性の評価技術と特色ある植物原材料の研究開発、(2)国産化粧品ブランドの育成、(3)サプライチェーンの補完など化粧品分野の発展支援を取り上げた。
  • 化粧品サンプリング検査に関する管理弁法(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(注5)
    国家食品薬品監督管理総局が2023年1月11日、発表した。
    化粧品の監督管理を強化して、サンプリング検査作業の標準化を推進するために制定された。特に(1)子供用化粧品・特殊化粧品、(2)新原料を使用した化粧品、(3)流通範囲が広く使用頻度が高い化粧品など、6種類を重点検査対象にしている。

このように、中国政府は化粧品に関して法整備を強化している。生産・開発・流通を規範化する取り組みを通じて、化粧品分野の秩序ある健全な発展を目指す構えだ。

国産化粧品の本格生産に踏み込む企業も

中国政府が進めるのは、政策整備だけではない。同時に、国産化粧品ブランド生産・開発に向けた投資、ブランドイメージの構築も重要視している。

そうした中、国産化粧品の製造に向け、企業はどう動いているのか。それを探るため、ジェトロ広州は2023年12月19日、広州逸仙電子商務(逸仙電商)の関係者に話を聞いた。

逸仙電商は2016年、広東省広州市に設立された。2017年には、コスメブランド「完美日記」(パーフェクト・ダイアリー)を立ち上げている。並行して、英国のスキンケアブランド「イヴロム」(EVELOM)などを買収。現在、傘下に化粧品の主要ブランドを複数、擁する。オンライン カジノ ブラック ジャック展開にも積極的だ。2020年以降、東南アジア、米国、日本に進出した。

同社の研究開発費は1億3,000万元(2022年)。その売上高に占める比率は3.4%だ。前年比1ポイント上昇した。2023年8月11日には、同社初の工場として、逸仙生物科技を正式開業。その工場投資額は、6億元を超えた。床面積も、7万8,000平方メートルに達する。研究開発、製造、品質管理が一体化しているのが特徴だ。あわせて、ブランドの製造能力向上にも取り組んでいる。例えば、上海瑞金病院、華中科大学国家ナノ医薬品工学技術研究センターなどと、共同実験室を設立した。

逸仙電商は「世界中の市場が多様化し、経済・文化が発展している」と認識。それに伴い、化粧品分野で新世代の女性消費者が「独自の志向と見解を従前以上に持つようになっている」と評した。また、「他の中国ブランドと同様、国産化粧品業界が拡大している。その中で、この業界の可能性を、ともにより多く創造することを望んでいる」と、今後を展望した。さらに、「より完備し革新的な研究開発サプライチェーンと先進的な製造能力によって、卓越した製品力・ブランド力を磨いていきたい。ひいては、より豊かで多元的なメイクアップ体験を消費者にもたらしたい」と述べた。

2020年の新型コロナ感染拡大をきっかけに、中国ではデジタル化が急速に進んだ。また、消費者側・企業側双方で、ネットを利用したライブコマースを活用する意欲が高まった。国産化粧品ブランドはこのチャンスをつかみ、ライブコマースにより自社製品の販路を拡大した例と言える。また、国産ブランドを重視するトレンド(「国潮」と言われる)も、追い風になっている。その結果、特に若い世代で国産ブランドへの支持が高まったわけだ。こうした社会全体の動きが化粧品分野の法整備強化を促した。国産化粧品ブランドは、安全と品質を伴うかたちで秩序だった健全な発展を遂げることだろう。


注1:
淘宝直播は、アリババ傘下のライブコマースプラットフォーム。
注2:
中国の1大ECセールイベント。ダブルイレブンとは、11月11日のこと。アリババは2009年来、この日を「ネットショッピングを楽しむ日」として広めてきた。
注3:
年間売上高が500万元を超えた企業。
注4:
特殊化粧品の新規登録申請件数は、前年よりは減少した(12.4%減)。だとしても、市場に出回る商品数は増加したと考えられる。なお特殊化粧品とは、化粧品のうち、カラーリング、パーマ、シミ取り・美白、日焼け止め、脱毛防止や、その他の新効果をうたうもののこと。
注5:
当記事の(1)条例と(2)弁法は、いずれも行政規則。
行政規則は国務院の関連部門から起案・審査し、経済・文化・社会などの分野に関する重大事項の取り扱いに関して包括的に規定する。国務院が全国人民代表大会およびその常務委員会の決定に基づいて制定した行政法規を「暫定条例」「暫定規定」と称し、国務院の各部門と地方人民政府が制定した行政規則は「条例」と称することができない。

化粧品分野にも国産の波(中国)

  1. ブームに伴い、政策整備
  2. R&D・買収加速で競争力強化
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執筆者紹介
ジェトロ・広州事務所
梁 梓園(リョウ シエン)
2017年、ジェトロ・広州事務所入所。