バングラデシュから取締役就任、マザーハウスのマムン氏に聞く
2024年10月28日
バングラデシュ製バッグを中心に、新興国で素材から開発した製品を製造・販売するマザーハウス(本社:東京都台東区)では、2023年12月にバングラデシュ工場のムハンマド・アブドゥル・アル・マムン工場長が取締役に就任した。「途上国から世界に通用するブランドをつくる」を企業理念に掲げる同社は、新工場の建設や米国市場への進出を視野に新たな展開を迎えている。グループ売上高の8割を担うバッグの製造を支えてきたマムン取締役に、これからの事業戦略を聞いた(2024年9月26日インタビュー)。
新しい国、文化の中で力を発揮
- 質問:
- マザーハウスに入社した理由や、取締役就任の意気込みは。本社の取締役に就任後約10カ月が経過したが、マザーハウスの現地法人マトリゴール(注1)工場長(現在も兼任)との役割の違いは何か。
- 答え:
- 取締役就任は非常に光栄なことだ。人生の最大の達成といってもいい。入社した2008年時点のマザーハウスは、東京の入谷に1店舗、バングラデシュには工場というより1つの部屋があり、4人で生産しているだけだった。大学で皮革工学を学んだ後、バッグ製造最大手の会社で働いていた時で、山口絵理子代表取締役からマザーハウスの企業理念などを聞いているうちに、「皮革職人としてすごいチャンスであり、国を代表する仕事ができる」と感じた。作られたシステムの一部としてではなく、システムを作る側になり、それが業界で使われるようになれば、バングラデシュの名前を世界に広げることができると思った。とは言え、当時勤務していた最大手企業の従業員は700人、もう一方は4人で規模がまったく違う。転職の決断は容易ではなかった。多くの人が進んだ道とは違ったかもしれないが、そういう経緯があっての「最大の達成」であり、私だけの力ではなく、チームで努力した結果だ。取締役という挑戦を楽しみたい。どの国にも独自の習慣、文化、制度がある。これまでは自国での働きだった。これからは新しい国(注2)、文化の中で力を発揮しなければならない。
- 質問:
- 取締役としての目標などを挙げると。
- 答え:
- 途上国から世界に通用するブランドをつくるという企業理念は、大きなものだ。どれだけ速くそこに到達できるか、ということが重要になる。山口代表、山崎大祐代表取締役副社長と「次のビジョン」について常に話し合っている。現在進めているのは、バングラデシュでの新規工場の建設。環境配慮型の工場となる。バングラデシュの縫製工場では例があるが、皮革製品の工場ではほとんどないものだ。業界の範となることを目指している。マザーハウス全体の成長としては、現在44店舗(衣料ブランド「ERIKO YAMAGUCHI」を含む、注3)を展開している日本に加え、欧米を含めたブラック ジャック コツでの展開を加速したい。製品の多様化や製品構成の拡大などを実施していきたい。
- 質問:
- バングラデシュで政変があった。出荷などに影響はあったか。
- 答え:
- 影響はあったが、正常に戻りつつある(インタビュー時点)。政治が不安定になれば、ビジネスに影響が出る。ブラック ジャック コツのバイヤーが、国の状況について懐疑的になることはあるだろう。ただ、8月の政変後に発足した暫定政権の変革への意気込みは非常に強い。これから物事が円滑に進んでいき、近い将来の経済や、ビジネスの状況の回復を確信している。
- 質問:
- 従業員にとって、マトリゴールと他社との大きな違いは何か。
- 答え:
- 皮革製造業界の他のどの企業よりも、福利厚生、給与水準を手厚く設定している。医療保険を含めほとんどすべての公的制度を適用しており、成長に合わせてさらに充実していく。老舗の縫製大手などではない、創業18年と年数が浅い皮革製造業の会社ではほかにない厚遇であり、5~10年後は縫製業の大手を超えるものにしていく。
新工場の生産能力は4倍以上
- 質問:
- 現在のバングラデシュでのバッグ月産量は、約1万3,000個と聞く。新工場の完成予定時期や生産能力などの計画は。
- 答え:
- 当初の計画では2019年着工、2022年完工の予定だったが、コロナ禍の影響もあり延期された。インフレ高騰などの想定外の事態がなければ、現在の計画では2025年に着工し、工期は少なくとも1年半~2年を見込んでいる。土地は取得済みだ。新工場の生産能力は、少なくとも現在の4倍になる。工場だけでなく、従業員寮のほか、従業員や地域の家庭の子供たちが通える学校、児童のデイサービス施設なども建設する予定だ。理想の工場像を描くとすると、寮に居住している人々が敷地の外に行かなくても日常生活が送れる場とすることだろう。従業員と共に、会社が成長することが望ましく、彼らが安心でき、「第2の家」と感じられることが理想だ。バングラデシュで、自前で学校を建設する企業はゼロではないが、非常に少ない。
- 質問:
- バングラデシュは、2026年に後発開発途上国(LDC)を卒業する。懸念は。
- 答え:
- 懸念はない。LDCに与えられる特別特恵関税措置は常にあるものではない。撤廃に向けて準備すればいい。例えば中国やベトナムはそのような恩恵を受けていないが、ビジネス規模は大きい。そのような恩恵に依存し続けることはできないし、関税が上がるから値上げするというのはソリューションにはならない。われわれのマインドを変え、コスト管理を徹底することが重要になる。職人の生産性の向上も行っていく。これも私の挑戦の一環だ。ブラック ジャック コツバイヤーは関税が上がれば他地域の調達先からの購入を考えるのかもしれないが、バングラデシュで製造する企業は競争力を向上させることで対応しなければならない。
- 質問:
- 欧米市場に向けた対応は。
- 答え:
- 常に品質面での妥協はないが、市場について言えば、欧米と日本では異なる。山口代表がチーフデザイナーを兼務していることは、われわれの強みだ。これら(経営とデザインの視点)の役割をブレンドして、欧米市場に対応していきたい。
- 質問:
- 今後の新たな生産地の計画は。
- 答え:
- われわれの理念は、コアとなる素材を生産できる場所で製造することだ。バングラデシュでは、皮革を100%自国生産している。ジュエリーを加工するスリランカでは石が採れ、インドでは糸から生産できる。また、ビジネスありきで生産するわけではない。バングラデシュは衣料品輸出額で世界2位だが、マザーハウスの衣料品はインドで生産している(レザージャケットなどを除く)。コア素材がインドで生産されるからだ。望ましいコア素材の生産地がみつかれば、新しい国での生産もあり得るだろう。
- マムン氏の経歴:
- 1981年ダッカ生まれ、2004年ダッカ大学卒業。国内最大手のバッグ製造工場を経て、2008年にマトリゴール入社、2017年に工場長(現職)。2023年12月からマザーハウス取締役を兼務。
- 注1:
- バングラデシュは2006年のグループ創業の地で、マザーハウスのベンガル語名を冠した現法。現在の従業員数は350人超。
- 注2:
- 現在の生産・加工国と製品は、バングラデシュ(バッグ、ジャケットなど皮革製品)、ネパール(ストール)、インドネシア、スリランカ(ともにジュエリー)、インド(衣料品)、ミャンマー(ジュエリー、国軍による権力掌握以降の生産は限定的)。
- 注3:
- インタビュー時点の日本の店舗数。ブラック ジャック コツはシンガポール2店、台湾4店。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部アジア大洋州課
今野 至(こんの いたる) - 出版社、アジア経済ブラック ジャック コツ配信会社などを経て、2023年9月から現職。