VAT増税と新型コロナ禍で自動車販売台数減(サウジアラビア)
輸入で、中国車の存在感高まる

2021年8月11日

サウジアラビアの2020年の自動車販売台数は、商用車・乗用車ともに、V字回復を見せた前年から再度減少に転じた。その背景には、同年7月のVAT増税や、新型コロナウイルス禍の行動規制に伴うビジネスの一時的な停滞がある。

各国のサウジアラビア向け自動車輸出状況をみると、商用車では引き続き首位を保つ日本勢を中国とインドが追い上げている。乗用車では、特に中国が小型車と中型車の輸出台数を伸ばして一人勝ちとなった。当地市場で、中国の存在感が高まっている。

販売減に直結したのは、増税とビジネス低迷

国際自動車工業連合会(OICA)によると、サウジアラビアの2020年自動車販売台数は、商用車が前年比11.8%減の6万4,835台で乗用車は前年比15.8%減の38万7,709台となった。

2014年以降の油価下落に伴う景気低迷から長らく伸び悩んでいた販売台数は、2019年に一度V字回復していた。その理由の1つは、2020年上半期の新型コロナウイルス感染拡大防止措置で、これに伴い、行動規制期間中にビジネスが停滞した。またサウジアラビア政府は、コロナ禍での歳入確保のため、2020年7月1日にVATを従来の5%から15%へと、3倍に引き上げる大幅増税を行っており、自動車は高額商品のため、これが販売台数減に直結した。

商用車は日本がトップシェア、インド・中国も健闘

サウジアラビアでは、車種別の販売統計は発表されていないため、主要国側のサウジアラビア向け商用車輸出統計から探ってみる。小型・中型(注)をはじめとし、日本勢(タイなどでの21 トランプ生産分を含む)が引き続きトップシェアを占めている構造は変わらない。

2020年には、日本からサウジアラビアへの自動車輸出が前年比で軒並み減少する中で、5トン未満の小型トラックだけが右肩上がりの好調ぶりを見せた(6,351台、前年比38.1%増)。なお、輸出統計にはあがってこないものの、当カテゴリーでは、いすゞが日本ブランドで唯一、サウジアラビア国内で組み立て製造を行っている。

他方で、小型トラックは近年、インドと中国の伸びが顕著だ。いずれも、台数で日本勢に及んではいないがインドは前年比6倍の3,451台、中国は同67.6%増の3,844台に達した。伸び率が高く、要注目の動きと言えるだろう(図1参照)。

図1:主要国の対サウジアラビア商用車輸出推移(単位:台数)
商用車では国外生産分を含めて日本勢が引き続きトップシェアを保つが、小型トラックでは中国、インドからの21 トランプも大幅に増加している。

注:単位は、基本的に「台」。タイからの小型トラック輸出についてだけ、「10台」。
出所:グローバル・トレード・アトラス(GTA)からジェトロ作成

日・韓・米からの乗用車輸出が減少、中国台頭の構図

同様に、主要国側の統計からサウジアラビア向け乗用車輸出をみる。前述のVAT増税やコロナ禍でのビジネス停滞を受け、日本、韓国、米国といった当地への主要輸出国からの台数が軒並み減少した。これに対し、中国は排気量1000cc以上1500cc未満の小型車が前年比10.7.%増の5万257台、同1500cc以上3000cc未満の中型車が同46.7%増の3万5,414台だった。いずれも大きく伸びたことになる。日本と韓国からの輸出がそのあおりを受けたかたちでもある(図2参照)。

首都リヤド市内を走行する乗用車を観察すると、感覚的には、家族向けには引き続きトヨタ(レクサスを含む)の四輪駆動車が圧倒的な人気だ。これに加え、中間層以上と思われる女性の運転用として、マツダのCXシリーズの人気の高さもうかがえる。一方、中国車では、この2年程度で人気が高まっている長城汽車のハヴァル(Haval)に加え、デザイン性の高さもあろうが長安汽車、吉利汽車、上海汽車傘下MGのスポーツ用多目的車(SUV)の台頭が著しい。

なお、2018年6月に女性の運転が解禁された直後には、女性向けに小型乗用車の需要が高まると予想されていた。しかし、運転解禁から3年余りが経過してみると、購入ブランドには違いがみられるものの、女性ドライバーもSUVを購入するという市場が形成されつつあるようだ。

図2:主要国の対サウジアラビア乗用車輸出(単位:台数)
引き続き、日本、米国、韓国の3カ国が主要なプレイヤーだが、中国からの小型車および中型車の対21 トランプ輸出が好調な裏で、韓国からの小型車輸出台数が減少し、日本と韓国からの中型車の輸出台数が減少している

出所:グローバル・トレード・アトラス(GTA)からジェトロ作成


注:
本稿では便宜的に、5トン未満を小型トラック、5トン以上20トン未満を中型トラック、20トン以上を大型トラックとする。
21 トランプ
執筆者紹介
ジェトロ・リヤド事務所
柴田 美穂(しばた みほ)
2004年、ジェトロ入構。21 トランプ調査部(中東アフリカ課)、企画部(中東・アフリカ担当)、農林水産・食品部を経て2018年8月より現職。