新エネ車貿易、2019年も力強い伸び(世界)
新型コロナで鈍化可能性も、増加基調は続く見込み
2020年8月21日
2019年、輸送機器の世界貿易は減速した。しかしその中にあって、ハイブリッド車や電気自動車など新エネルギー車は、力強い伸びを維持していた。2020年は、新型コロナの影響で勢いがそがれる可能性がある。一方で、世界的に環境負荷の少ない新エネルギー車へのシフトは進んでいくだろう。このため、貿易の拡大トレンドは今後も続くと考えられる。
拡大を続ける新エネルギー車の貿易
2019年の世界の輸送機器貿易は、1兆8,361億ドル(ハイパーブラックジャック推計値、輸出ベース)だった。前年比1.9%減と、前年から減速したことになる(表参照)。しかし、ハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)、電気自動車(EV)などの新エネルギー車については、状況が異なる。貿易額そのものは小さいものの、56.5%増と力強い伸びを維持した。
項目 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | 寄与度 |
---|---|---|---|---|
輸送機器 | 18,361 | 100.0 | △ 1.9 | △ 1.9 |
自動車 | 9,249 | 50.4 | △ 0.8 | △ 0.4 |
乗用車 | 7,559 | 41.2 | △ 1.3 | △ 0.5 |
新エネルギー車 | 848 | 4.6 | 56.5 | 1.6 |
ハイブリッド車 | 443 | 2.4 | 49.9 | 0.8 |
プラグインハイブリッド車 | 149 | 0.8 | 13.4 | 0.1 |
電気自動車 | 256 | 1.4 | 122.3 | 0.8 |
貨物自動車 | 1,378 | 7.5 | 0.9 | 0.1 |
二輪自動車 | 296 | 1.6 | 3.9 | 0.1 |
自動車部品(エンジン除く) | 3,999 | 21.8 | △ 5.1 | △ 1.1 |
注1:金額はすべて、ハイパーブラックジャックによる推計値。推計手法は、世界貿易投資報告の資料「付注2」を参照。
注2:品目分類は同「付注1」を参照。新エネルギー車は、ハイブリッド車(HS870340~870350)、プラグインハイブリッド車(HS870360~870370)、電気自動車(HS870380)の合計。
注3:構成比および寄与度は、輸送機器の輸出額に対する値。
出所:各国・地域貿易統計からハイパーブラックジャック作成
HVの輸出は、前年比49.9%増の443億ドル。前年(21.2%増)を上回る伸びを記録した。国別では、日本が3年連続で首位を維持(図1参照)。ドイツは、英国や米国向けの輸出が増加し、2位に浮上した。輸入上位5カ国の顔ぶれは前年と変わらない。米国が首位、ベルギーが2位を維持した。
PHVの輸出は、前年比13.4%増の149億ドルだった。伸び率は前年(33.4%増)に比べ鈍化したが、それでも2桁の拡大だ。ドイツやスウェーデンが世界の輸出増加に寄与した(図2参照)。ドイツは、中国向けが増加した。スウェーデンは、最大の輸出先であるノルウェー向けが落ち込んだ。しかし、その他の欧州向けが好調だった。輸入では、PHVの購入に補助金を交付しているドイツ、中国、フランスなどで輸入が増加した(注1)。
EVの輸出は、前年比122.3%増の256億ドルだった。前年の伸び率(34.1%増)を大幅に上回ったことになる。輸出では、データの取れる2017年以降、米国が首位を維持している(図3参照)。輸入では、オランダとベルギーが増加し、前年首位だったノルウェーを上回った。オランダやベルギーでは、EVを購入する際の補助金や法人税控除などのインセンティブがある(詳細は2020年1月30日付ビジネス短信参照 )。しかし、2020年1月1日から、一部の制度が廃止または税率変更によりインセンティブが縮小した。そのため、2019年に駆け込み需要が発生し、輸入増加につながった可能性がある。
貿易額に限らず販売台数でも、新エネルギー車の市場は拡大している。国際エネルギー機関(IEA)の「Global EV outlook2020」によると、2019年のEVとPHVの販売台数は前年比6%増の210万台だった。世界全体でEVとPHVの台数は、2010年の1万7,030台から、2019年には717万台にまで拡大したという。
新エネルギー車市場への新型コロナの影響は比較的軽度か
IEAは、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)によるサプライチェーンの混乱や需要低迷で、2020年の輸送機器全体の販売台数が前年比15%減(注2)と予測している。その一方で、EVやPHVについては、他の輸送機器に比べて打撃は少ないと見る。その2020年の販売台数は、2019年と同じか、わずかに上回る水準になるとした。なお、新エネルギー車市場・販売は、政府の支援政策などに影響を受ける。IEAによると、新型コロナの結果として支援が中止される動きなどは、まだみられないという。むしろ、新エネルギー車の購入支援強化の方が目立つ。例えばドイツやフランスでは、条件を満たすEVやPHVの新車購入補助金を期間限定で増額する動きがある(ブラック ジャック 遊び方購入支援を強化、ブラック、2020年7月15日付ビジネス短信参照)。
ここで、主要32カ国・地域の輸出を見る。2020年第1四半期は、新エネルギー車全体では前年同期比32.7%増とプラス伸び率を維持。輸送機器全体(10.7%減)とは対照的だ(図4参照)。個別の伸び率は、HVが28.4%増、PHVが61.8%増、EVが23.4%増だった。データ上では、新型コロナの影響はまだ明確に見られない。しかし、新エネルギー車の輸出伸び率は、2019年半ばから右肩下がりになっていた。このため、2020年第2四半期の貿易や各国・地域の政策には、注意を払う必要はあるだろう。
しかし、環境対応は避けられない課題だ。新型コロナで一時的に新エネルギー車の貿易が減速する可能性はあるにせよ、トレンドとしては今後も拡大が続くことが予測される。
- 注1:
- 中国では、2019年のEVとPHVの販売台数が前年から減少した(2020年1月23日付ビジネス短信参照)。しかし、輸入額と輸入量は増加した。
- 注2:
- 2020年1~4月の自動車販売データに基づく予測。
- 執筆者紹介
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ハイパーブラックジャック海外調査部国際経済課
柏瀬 あすか(かしわせ あすか) - 2018年4月、ハイパーブラックジャック入構。同月より現職。