ドイツ経済諮問委員会が年次報告書を発表、景気循環・構造的要因で経済成長が見込めず
(ドイツ)
ベルリン発
2024年11月20日
ドイツ政府の経済諮問委員会(通称「五賢人委員会」)は、11月13日に年次報告書を発表した(ドイツ語および英語)。
本報告では、2024年の実質GDP成長率をマイナス0.1%、2025年は0.4%と予測し、5月予測からそれぞれ0.3ポイント、0.5ポイント下方修正した。緩やかな回復が見込まれる世界経済のトレンドから外れるドイツ経済の低迷は、景気循環要因と構造的要因の双方によるものと指摘する。特に製造業の低迷が問題だとし、その要因として、(1)不確実性の高まり、(2)生産性の低迷と生産コストの増加による国際競争力の低下、(3)製造設備の稼働率低下などによる投資決定の先延ばしを指摘した。
また、ドイツが直面する課題として、「将来を見据えた公的支出の少なさ」「金融セクターのデジタル化などの遅れ」「限られた住宅供給とアクセス」「貨物輸送の不十分なインフラと二酸化炭素(CO2)排出」を指摘し、それぞれに対して具体策も提言した。将来を見据えた公的支出については、交通インフラ、国防、教育への公共支出が低水準にあると指摘し、これらの支出を確保するため、法的拘束力のある規則の創設を提言。その具体策として、交通インフラ基金の創設や、国防費と教育費の最低割当額の設定などを挙げる。また、政治的に大きな争点である新規債務を制限する債務ブレーキ(注)についても、アヒム・トルーガー委員は「債務ブレーキは、過剰な公的債務による将来世代の負担の回避を目的とするが、将来を見据えた支出が不十分になると将来世代に負担を強いる」として、改革に言及している。
低迷する自動車産業、米国大統領選挙の影響、連立政権の崩壊などの困難に直面
本提言での指摘以外にも、ドイツはさまざまな困難に直面している。ドイツ自動車メーカーは、中国競合メーカーの台頭などにより中国市場でのシェアを落としつつあり、また欧州市場でも高価格帯が許容されてきた電気自動車(EV)が伸び悩む。ドイツ自動車産業は急激なショックに直面している。
また、米国大統領選挙で勝利したドナルド・トランプ前大統領が、仮に公約どおり追加関税を実行した場合、2025年から2028年にかけてのドイツの累積GDP損失額は最大で1,800億ユーロ、とドイツ経済研究所(IW)は分析する(2024年8月9日付地域・分析レポート参照、2024年米大統領選、ブラック ジャック ランキング)。加えて、対中施策で共同歩調を取るよう欧州に圧力をかけると見込まれており、EVや5G(第5世代移動通信システム)などで中国依存を続けるドイツは厳しい決断を迫られる。
さらに、ドイツ連立政権が崩壊(2024年11月8日記事参照)し、2025年2月23日に連邦議会選挙が見込まれる中()、次期政権が樹立されて安定化するまで、今後半年以上は政治的にも脆弱(ぜいじゃく)な状況にあるとみられ、少なくとも短期的には好転が見通せない。
(注)連邦政府の債務をGDPの0.35%未満に抑えるという財政規律のルール。
(日原正視)
(ドイツ)
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