夏時間の再導入に向け政府が検討

(ブラジル)

サンパウロ発

2024年10月15日

ブラジル全国電力系統運用者(ONS)は9月23日、政府に夏時間の導入を提言した(注1)。これを受け、10月10日付の現地紙「フォーリャ」は、アレクサンドル・シルベイラ鉱業エネルギー相が10月8日、夏時間導入の是非に関する決定を翌週までに行うとしたと報じた。これは近年、ブラジルで水力発電への依存度が高まる一方、干ばつによる電力供給不足や電気料金の高騰が社会問題となっているためだ。ただ、シルベイラ鉱業エネルギー相は併せて、2024年の夏時間の実施可否を確認するために、「決定をぎりぎりまで遅らせている」と述べ、導入延期の可能性も示唆した。具体的な導入時期については、10月15日に決定される予定。もし導入が決定すれば、早ければ2024年~2025年の夏期シーズンから実施される可能性がある。

シルベイラ鉱業エネルギー相の慎重な姿勢の背景には、航空業界からの反発がある。10月10日付の「フォーリャ」によると、航空業界は、フライトスケジュールと接続便の調整には6カ月間の準備期間が必要と主張している。ブラジル航空会社協会(Abear)は導入延期を歓迎する声明を発表している。

夏時間導入による経済効果については、状況変化に伴い効果の考え方が専門家の間でも変わってきている。10月10日付の「フォーリャ」によると、2021年にONSが行った調査で、当時の電力システムでは大幅な省エネ効果は得られないとの結論が出ている。これは、夜間の消費電力の減少が早朝の消費量の増加によって相殺されるためだ。しかし近年、太陽光発電の普及に伴い、状況は変化している。ONSが9月に発表した調査内容では、太陽光発電所が発電を停止する夕方から夜にかけて電力需要のピークを抑えることができるため、現在の状況で夏時間を導入した場合、10月から翌年2月の間に最大需要が2.9%削減され、運用コストが約4億レアル(約108億円、1レアル=約27円)削減される可能性がある。これに伴い、夏時間導入の意義が高まっているという考えもある。

ローマ市で開催されたEsferaグループの国際フォーラム(注2)で、10月11日付の現地紙「ポデール360」のインタビューに答えたシルベイラ鉱業エネルギー相は「エネルギーリスクがあれば、夏時間の実施以外に議論の余地はない」と述べ、導入に前向きな姿勢も示した。

(注1)夏時間の実施により、日照時間を有効活用することで、ピーク時の電力需要を抑制する効果が期待される。ブラジルでは、1931年から2019年まで断続的に実施されてきたが、エネルギー効率の改善や国民の生活リズムへの影響などを理由に、ジャイール・ボルソナーロ前大統領政権時に廃止されていた(関連実写 版 ブラック ジャック)。

(注2)ブラジルの主要企業の経営者らで構成する団体。経済や社会問題に関する議論や提言、政策提言などを行い、ブラジルの発展に貢献することを目的としている。

(中山貴弘)

(ブラジル)

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