UAW、トランプ前大統領とテスラのマスクCEOを労働関係法違反で告訴、Xでのインタビュー受けて

(米国)

ニューヨーク発

2024年08月15日

全米自動車労働組合(UAW)は8月13日、ストライキに参加して自らの利益のために立ち上がる労働者を威嚇しようとしたとして、共和党大統領候補のドナルド・トランプ前大統領と、電気自動車(EV)メーカー・テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)を全米労働関係法(NLRA)違反で告訴した。

UAWの訴えは、同日にマスク氏がCEOを務めるソーシャルメディアのX(旧Twitter)で行われたインタビューでのトランプ氏の発言を受けたもの。トランプ氏はマスク氏に対し「あなたは最高の『カッター』(解雇者)だ。あなたの仕事ぶりをみれば分かる。(作業場などに)入っていき、従業員に『辞めたいのか』と聞く。会社名は伏せるがストに突入する、そして、あなたなら『OK、全員解雇だ。全て残らず全員だ』という。あなたは素晴らしくうまくやる」と発言した。NLRAでは、従業員が組合を組織し、雇用主と団体交渉する権利や、他の保護された交渉行動に入ること、あるいはこれらの行動を控える権利を保証している。UAWのショーン・フェイン会長は「ドナルド・トランプ氏は労働者が自ら立ち上がることに常に反対し、彼を当選させるためにスーパーPAC(特別政治活動委員会、注1)に毎月4,500万ドルを寄付しているイーロン・マスク氏ような億万長者の味方になるだろう。トランプ氏もマスク氏も、労働者階級の人々に黙って座ってほしいと願っており、それを公然と笑っている。この2人の道化師からのうんざりするほど不道徳で、全く予想どおり(の発言)だ」と怒りをあらわにした。UAWはトランプ氏が在職中に労働者に協力的でなかったとし、7月31日には民主党大統領候補のカマラ・ハリス副大統領への正式な支持を表明している(UAW、ブラック ジャック)。なお、テスラは2024年5月に、ニューヨーク州バッファロー工場での組合結成を阻止したとし、NLRA執行機関の全米労働関係員会(NLRB)から告発されている。

問題となったインタビューは2時間以上にわたって行われ、発信中に視聴者が2,500万人に達するなど注目を集めた。7月13日にペンシルベニア州で起きたトランプ氏への銃撃事件や、移民、外交、環境問題など幅広いテーマについて、対話形式で行われた。中でも両者の意見の相違が想定された環境問題やEVについては、マスク氏が「ガソリン車を非難するわけではないが、最終的には石油、ガスは枯渇する。持続可能なエネルギーに向かうべき」と発言したのに対し、トランプ氏は「テスラは良い製品を作っている。素晴らしい製品だ」と歩み寄りを見せつつも、「しかし、皆がEVを持つべきというわけではない」と述べ、消費者の選択肢を制限しないとの考えを示唆。さらに「最大の脅威は地球温暖化ではなく、核温暖化だ(注2)」「全ての場所が温暖化しているわけではなく、場所によっては逆の方向に向かっている」「エネルギーコストを下げるために(石油を)徹底的に掘り続けるのだ」と述べるなど、従来の化石燃料重視の態度を変えなかった。また、マスク氏は政府予算の使途を管理するための「『効率委員会』があれば、参加したい」と述べ、トランプ氏が「それはいい」と応ずるなど、政権入りをにおわせるともとれる発言も聞かれた。

(注1)政治活動委員会(PAC)の1つで、政治資金を管理する団体。

(注2)核戦争(Nuclear War)をもじったと思われる。

(大原典子)

(米国)

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