EU、エネルギー憲章条約から脱退へ
(EU)
調査部欧州課
2024年06月05日
EU理事会(閣僚理事会)は5月30日、エネルギー憲章条約(ECT)からのEUの脱退のための決定(Decision)を採択した(プレスリリース)。欧州委員会が2023年7月に決定案を発表し、脱退に向けた手続きを開始していたもの(関連ブラック ジャック 勝ち)。既に欧州議会は2024年4月24日、決定案に同意を与えており(プレスリリース)、今回のEU理事会採択により同日に決定が施行された。施行により、組織としてのEU、欧州原子力共同体(Euratom)の脱退が正式に決まった。今後、脱退の通知を同条約の寄託国であるポルトガルに提出し、受理されてから1年後に脱退が完了することになる。
ECTは1998年、旧ソ連および東欧諸国におけるエネルギー分野の市場原理に基づく改革の促進やエネルギー分野における企業活動の促進を目的に発効した多国間条約で、EUのほか日本など49カ国・機関が締約国となっている。同条約に含まれる投資家対国家紛争解決制度への懸念や、投資保護の対象に化石燃料への投資も含まれていることなどから、条約の改正が望まれ、2020年7月から改正交渉を進め、2022年6月に実質合意に達していた。しかし、合意内容を不服として脱退の意向を示すEU加盟国が相次いでいた。2023年12月にはフランス、ドイツ、ポーランドが正式に脱退し、EU全体としての対応が議論されてきた。
今回の決定により、組織としてのEUおよびEuratomはECTを脱退するが、EU加盟国の対応は分かれることとなった。脱退を支持する声が多い一方で、一部のEU加盟国は条約改正を条件に、ECT締約国にとどまる意向を示している。それらの加盟国は、EUとEuratomの脱退にかかわらず、2024年末までに予定される条約の意思決定機関、エネルギー憲章会議に参加し、条約改正案の採択において投票することができることになった。EU理事会は今回の決定採択にあたり、EU加盟国に脱退とともに、残留も見据えた選択肢を認めたことで、EUがECT条約改正プロセスを止めている現状(注)を打開し、EU加盟国以外の条約締結国にも配慮したと説明した。
(注)条約改正案は2022年11月のエネルギー憲章会議での採択を目指していたが、EU加盟国間で条約改正を採択する方針に合意できなかったことから、EUは同会議での改正案採択の延期を求め、採択が先延ばしになっていた。
(安田啓)
(EU)
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