バイデン米大統領、ホロコースト追悼式典で演説、反ユダヤ主義高まりの認識示す
(米国)
ニューヨーク発
2024年05月08日
米国のジョー・バイデン大統領は5月7日、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ地区での軍事行動を巡って世界各地で反イスラエルの動きが高まる中、米連邦議会議事堂内でホロコースト記念博物館の毎年恒例の追悼式典で演説を行った。バイデン大統領は、米国と世界中で反ユダヤ主義の猛烈な高まりを目撃しているとの現状認識を示し、ユダヤ人コミュニティーに寄り添う姿勢を示した。
大統領は演説の中で「あまりにも多くの人々が、ホロコーストと10月7日の惨劇(イスラム原理主義組織ハマスがカード)、特にハマスが性的暴力によりユダヤ人を拷問し恐怖に陥れている事態を否定し、軽視し、合理化し、無視している。これは本当に卑劣な行為であり、止めなければならない」と指摘した。
米国は言論の自由、反対意見を述べる権利、平和的に抗議し意見を表明する権利という基本的権利を尊重・保護していると前置きをしつつ、「国内のどのキャンパス、あるいは米国のどの場所でも、反ユダヤ主義やヘイトスピーチ、あらゆる種類の暴力の脅迫は、ユダヤ人に対してであれ、他の誰に対してであれ、許されない」「暴力的な攻撃や財産の破壊は平和的な抗議ではなく違法だ。私たちは無法国家ではない。私たちは市民社会であり、法の支配を守る」と強調した。バイデン大統領が暴力行為を伴う抗議活動は違法との線引きに言及したのは5月2日の発言()に続いて2度目。
大統領はその上で、ユダヤ人コミュニティーに向けて「私はあなたがたの恐怖、傷、痛みを分かっていることを知ってほしい」と述べ、ユダヤ人の安全、イスラエルの安全保障、イスラエルが独立したユダヤ人国家として存在する権利に対する決意は揺るぎないと言明した。
全米の大学で広がった抗議活動はニューヨーク市などの市街地にも及んでいる。今回の演説の前日には、マンハッタン中心部でイスラエルの軍事行動を非難する抗議活動者と治安当局の大規模な衝突が生じ、多くの逮捕者を出した。大学での抗議活動は英国やフランス、オーストラリアなど世界的な広がりをみせており、バイデン政権としては許容できない行為を明確にして歯止めをかけたい狙いがある。
他方で、バイデン政権はイスラエルに対して過度な軍事行動の自制を求める姿勢も強調している。米政治専門紙「ポリティコ」(5月7日)によると、政権はイスラエルに政治的メッセージを送るため、現時点でボーイング社製精密爆弾の出荷を保留しているもよう。同紙は、政権がイスラエルへの武器売却を延期したのは、10月7日のハマスによるイスラエル攻撃以来、初めてとみられると報じた。反ユダヤ主義の高まりを懸念する国内のユダヤ系コミュニティーからの突き上げの一方で、ガザ地区の状況に同情を示すアラブ系や若者からは、政権のイスラエル支援に対する強い批判が寄せられている。11月に大統領選を控える中、こうした国内の不満の声に対応しつつ、イスラエルとハマスを一時停戦に導く必要があり、バイデン政権にとって厳しい政治状況が続いている。
(米山洋)
(米国)
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