パーム油バイオ燃料めぐるWTO判断を受け、マレーシアはEUの措置是正に期待
(マレーシア、EU)
クアラルンプール発
2024年03月12日
WTO紛争処理小委員会(パネル)は3月5日、パーム油由来のバイオ燃料をめぐりマレーシアがEUなどを相手取り申し立てた案件につき、パネル報告書を公表した。これを受け、マレーシアのジョハリ・アブドル・ガニ・プランテーション・商品相は3月6日、「マレーシアが勝訴した」と題する声明を発表。声明は、「パーム油由来のバイオ燃料を制限するEUの規則は差別的」「間接的土地利用の変化(ILUC)(注1)を理由に同バイオ燃料を廃止する運用や、新たな貿易関連措置を導入する際の諸外国への通知や協議の手順においても公正さを欠いていた」と、今回のパネルが判じたと強調した。
本件は2021年1月、パーム油由来のバイオ燃料が不当に扱われているとし、マレーシアがEU、フランスおよびリトアニアに対し、WTO紛争解決手続きを申し立てたもの(DS600、WTOウェブサイト)。EUの再生可能エネルギー指令(RED II、注2)は、輸送用燃料の中に10%以上の持続可能燃料を混合するよう加盟国に求める一方、パーム栽培が森林伐採につながるとの認識に基づき、パーム油由来のバイオ燃料使用を原則、2030年までに段階的に廃止すると定めている。マレーシアは世界2位のパーム油生産国として、同指令が内外差別的だと批判を強めていた。
上記のマレーシア政府声明では、EUはパネルの判断を尊重し、パーム油由来のバイオ燃料への対応を進めることに同意した、と記載している。ジョハリ・プランテーション・商品相は声明で、「マレーシア政府として、EU側の規制変更に向けた動きを注意深く見守り、必要に応じて順守手続きを追求する」と述べた。
他方で、欧州委員会も本パネル報告を受け、「WTOパネルは、EUがRED IIの下で、環境および気候に基づく対策を講じる能力を維持することを支持」したとの声明を発表。RED IIのWTO協定整合性をパネルが確認した一方、指令に基づくEU委任法の実施と運用の側面に問題があったとし、パネル判断に準拠するよう今後必要な措置を講じる意向を表明した。
マレーシアとEUの間では、2010年に自由貿易協定(FTA)交渉が開始されたが、パーム油を巡る紛争が交渉を停滞させている、と報じられる。パーム油の対欧州輸出をめぐっては、マレーシアはインドネシアとともに2023年に欧州に代表団を送り、EU側の理解を求めていた()。両者間にFTAが存在しないことによる、マレーシアの輸出競争力低下を懸念する産業界の声も大きい。
(注1)バイオ燃料用作物の生産により、食用として栽培されていた作物が別の土地で栽培されること(欧州委員会ウェブサイト)。
(注2)現行の再エネ指令は2023年11月に改正されたRED III。
(吾郷伊都子)
(マレーシア、EU)
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