パウエル米FRB議長が下院金融委で証言、質疑は与野党の政治的関心事項が色濃く反映

(米国)

ニューヨーク発

2024年03月07日

米国連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は3月6日、下院金融サービス委員会で金融政策に係る半期の議会証言PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を行った。証言は、2月の連邦公開市場委員会(FOMC、2024年2月1日記事参照)や、その後のFRB関係者の発言のラインから大きな変更はなかった。パウエル議長の主な発言内容は次のとおり。

(1)経済情勢

経済は、過去1年間堅調な消費需要と供給の改善に支えられ、2023年全体では3.1%(注)と力強いペースで拡大した。高金利を反映して、住宅セクターの活動が低迷したほか、企業の設備投資が圧迫された。

(2)雇用情勢

労働市場は引き続き逼迫しているが、需要と供給のバランスは引き続き改善している。雇用の増加は2023年半ば以降、月平均23万9,000人で、失業率は3.7%と歴史的低水準付近にとどまっている。堅調な雇用創出に伴い、特に25~54歳の労働者の供給が増加し、移民も好調なペースで増加している。求人は減少し、名目賃金の伸びは鈍化している。労働需要は依然として労働供給を上回っている。過去2年間の堅調な労働市場は長年にわたる雇用と収入の格差縮小に貢献している。

(3)物価

インフレ率は過去1年間で著しく緩和したが、依然としてFOMCの物価安定目標である2%を上回っている。個人消費支出(PCE)デフレーターは2024年1月までの1年間で2.4%上昇した()。食料・エネルギーを除くコアPCEは2.8%上昇し、2022年からの減速が顕著だった。長期的なインフレ期待も引き続きしっかりと固定されているようだ。

(4)金融政策

2022年初頭から金融政策のスタンスを大幅に引き締めた後、2023年7月以来フェデラル・ファンド(FF)金利のレートを5.25~5.5%に維持している。また、バランスシートの縮小も続けている。こうした抑制的な金融政策スタンスは経済活動とインフレに下押し圧力をかけている。政策金利はおそらく今回の引き締めサイクルのピークに達していると考えている。経済がおおむね予想どおりに推移すれば、2024年のある時点で引き締め的なスタンスの縮小を開始するのが適切となる可能性が高い。しかし、経済の見通しは不透明であり、2%のインフレ目標に向けた継続的な進展は保証されていない。縮小の開始が早すぎたり、縮小が過大だったりした場合には、インフレ抑制の進展が逆転する可能性があり、最終的にはさらに厳しい政策が必要となるおそれもある。逆に、開始が遅れすぎたり、過小だったりした場合には、経済活動と雇用が過剰に弱まる可能性がある。政策金利の目標レンジの調整を検討する際は、今後得られるデータ、見通し、リスクのバランスを慎重に評価していく。インフレ率が2%に向けて持続的に推移しているという確信が高まるまで、政策金利の水準を引き下げるのは適切ではないと考えている。

質疑では、共和党議員から、バイデン政権の政策がエネルギー価格の高止まりを招いているとの認識の下にエネルギー価格に関する見解や、銀行に対して資本保有の拡大を求める規制(米金融規制当局、ブラック ジャック)による影響などに関する質問が出た。一方、民主党議員からは、景気のソフトランディングの可能性や、米国経済の成長や労働需給の緩和などにおける移民の重要性、高金利が気候変動対策に与える影響、政策金利の引き上げに伴う住宅ローンの高騰が住宅購入に与えている影響、保険料の高騰が経済に与える影響、商業用不動産の現状についての質問があった。

(注)2022年第4四半期と2023年第4四半期を比較した数値。商務省が発表している2023年の成長率(2.5%)は2022年、2023年の年平均を比較したもの。

(加藤翔一)

(米国)

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