欧州委、バッテリーのTCA原産地規則の緩和措置延長を提案、域内生産者への財政支援も発表

(EU、英国)

ブリュッセル発

2023年12月12日

欧州委員会は12月6日、EU理事会(閣僚理事会)に対し、EU・英国通商・協力協定(TCA)により電気自動車(EV)とEV用バッテリーに適用されている原産地規則(注)の緩和措置について、2023年末までとしていた現行措置を3年間延長して2026年末まで実施することを提案した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。同提案はEU理事会での承認後、TCAの下に設置されたEUと英国のパートナーシップ協議会で最終決定される。

TCAでは2021年5月に、EV用バッテリー生産への投資を促進するため、原産地規則の適用について2023年末までと2026年末までの2段階の緩和措置を導入した。しかし、TCAに合意した2020年以降、新型コロナウイルス感染拡大やロシアのウクライナ侵攻などによる物資の供給制約やエネルギー価格の高騰が起こり、また、各国のバッテリー分野への補助金投入によって国際的な競争が激化したことから、欧州委はEUのバッテリーエコシステムは期待された成長ができなかったとした。また、自動車、バッテリー、化学業界が緩和措置の第2段階への移行に懸念を示したことも考慮し、延長が必要と判断した。ただし、延長は1回限りとし、2027年以降はTCAで取り決めたとおり、原産地規則を適用する。また、2032年1月1日まで、EVとEV用バッテリーに関する原産地規則の変更は法的に不可能と明文化することも提案。現地報道によると、他分野でのTCAの再交渉につながりかねない「先例」となることへの警戒感が一部加盟国にあり、そうした懸念に配慮したとみられる。

欧州自動車工業会(ACEA)は同日付声明で、欧州委の提案を歓迎し、EU理事会に対し全会一致で承認するよう要請した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。ACEAは2024~2026年の第2段階の措置が実施された場合、英国向け輸出車への10%の関税賦課に伴うメーカーの経済的損失は合計約43億ユーロに上るとし、延長を訴えていた(欧州自動車工業会、ブラック ジャック)。

バッテリー・バリューチェーン全体への波及効果期待し、生産者を支援

欧州委は同日、バッテリー部門への財政支援計画も発表した。同財政支援はグリーン・ディール産業計画()の一環として行われる。具体的には、2024~2027年の3年間、イノベーション基金から最大30億ユーロを拠出し、域内で特に持続可能性が高いバッテリーの生産事業者を支援する。生産者支援を通じて域内生産を拡大させ、EV組み立てを含むバリューチェーン全体への波及効果を期待する。欧州委は加盟国に対し、EUレベルで支援対象事業者を選定することで、域内のバッテリー市場の細分化を避け、行政コストの増大が抑止できるとして、事業者募集への資金拠出を呼び掛けた。

(注)ジェトロの報告書「」(2021年2月)を参照。

(滝澤祥子)

(EU、英国)

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