欧州自動車工業会、バッテリーへのTCA原産地規則の緩和措置の延長を欧州委に要請
(EU、英国)
ブリュッセル発
2023年10月03日
欧州自動車工業会(ACEA)は9月25日、2021年5月に発効したEU・英国通商・協力協定(TCA)により、電気自動車(EV)のバッテリーに適用されている原産地規則(注)の緩和措置に関連し、現行の内容を3年間延長するよう欧州委員会に要請した(プレスリリース)。TCAではEV用バッテリーについて、2023年末までと2026年末までの2段階で原産地規則が緩和されている。2023年末までの第1段階では欧州で組み立てられたバッテリーの原産性を認めているが、第2段階となる2024年から2026年末までは、全ての部品と一部の原材料が欧州産でなければ特恵関税率(0%)が適用されず、完成車には10%の輸入関税が賦課される。
ACEAが会員企業に実施した調査によると、関税賦課に伴う2024~2026年のコスト負担は合計約43億ユーロに上り、約48万台のバッテリー式EV(BEV)の減産を余儀なくされる可能性がある。EUではバッテリーの域内生産拡大を目指し、メーカー各社も投資に乗り出しているが(2023年9月7日付地域・分析レポート参照)、ACEAはEUのバッテリーサプライチェーンがTCAの特恵関税率の適用要件を満たすまで成長するには「さらに時間がかかる」と指摘。現行の緩和措置を3年間延長し2026年末まで実施するようあらためて要請した。ACEAは6月にも欧州委に対し同様の書簡を発出するなど、以前から同措置の延長を求めていた。
延長要請の背景にあるのは、EU製BEVの英国市場での競争力低下への懸念だ。英国はEUにとって最大の輸出相手国で、2022年は約110万台(うちBEVは約14万台)を輸出。英国BEV市場ではEU製車がこれまで安定的にトップシェアを獲得し、2022年に英国で販売されたBEVの47%はEU製だった。しかし、10%の輸入関税が賦課される中国製車のシェアが2019年の約2%から2022年は約32%と急速に伸びており、欧州メーカーの警戒感が高まっている。
ACEAのルカ・デメオ会長〔フランスのルノーグループCEO(最高経営責任者)〕は、10%の関税賦課でEU製車の販売価格を引き上げることは、EVの国際的な競争が激化する中、EU製BEVの最大の輸出先の英国市場を「域外の競合他社に差し出すことになる」と危惧。現行の緩和措置を延長するのは「非常に明快で、わかりやすい解決策」とし、欧州委に「正しい」対応を取るよう促した。
なお、生産する自動車の大半を輸出する英国にとってもEUは最大の輸出先で、ACEAによると、2022年の英国の輸出台数の62%はEU向けだった。BEVは2022年、EUに輸出された英国製車の16%を占め、英国側でも輸出額を伸ばすBEV生産・輸出の重要度は年々高まっている。
(滝澤祥子)
(EU、英国)
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