バイデン米大統領、メーン州の銃乱射事件を受けて共和党に協力を呼びかけ
(米国)
ニューヨーク発
2023年11月01日
米国のジョー・バイデン大統領は10月26日、メーン州ルイストンで18人が死亡する銃乱射事件が24日に起きたことを受け声明を発表した。「銃による暴力の結果、これまであまりにも多くの米国人が、家族が殺されたり負傷させられたりするという経験をしてきた。これは正常なことではなく、受け入れることはできない」と、あらためて銃規制の重要性を強調した。
バイデン大統領は銃問題について、超党派のより安全な地域社会法(2022年6月27日記事参照)、2024年3月に発表した身元調査の強化などを行う大統領令をはじめ24ほどに及ぶ行政措置、そしてホワイトハウスで史上初の銃暴力防止室の設立を通じて、「銃の安全性について前進はしたが、これだけでは十分ではない」と、実績を強調する一方で追加措置が必要との考えを示した。その上で、「新たな悲劇が起きたことを受け、今日、議会の共和党議員に対し、米国民を守る義務を遂行するよう強く求める。殺傷能力の高い銃器と大容量弾倉を禁止する法案を可決し、全米で身元調査を実施し、銃の安全な保管を義務付け、銃製造業者の免責を廃止するために一緒に取り組んでほしい」と、共和党に協力を呼びかけた。共和党は、全米ライフル協会を支持基盤に持つことから、銃規制に反対することが多いことで知られている。
ただし、こうしたバイデン大統領の呼びかけや銃犯罪事件の多さ(注1)にもかかわらず、銃規制は必ずしも有権者の重要課題にまではなっていない。例えば、独自の銃規制を制定するニュージャージー州でも、11月7日に予定されている州議会選挙における有権者の関心テーマとして、銃問題は、人工妊娠中絶や風力発電などよりも低い(ニュージャージー・モニター10月17日)。また、全米ライフル協会の本部があり、比較的銃規制が緩いとされるバージニア州でも、有権者の関心テーマとして銃規制を挙げる者は62%と、教育(70%)、経済(68%)、犯罪と安全(64%)に次ぐ。民主党の有権者に限ると67%となるが、人工妊娠中絶(77%)、教育(72%)よりも低い(「ワシントンポスト」紙電子版10月20日、注2)。
また、2023年10月にハーバード大学アメリカ政治研究センターとハリス・インサイト・アンド・アナリティクスが実施した世論調査(注3)では、個人的に最も重要と思われる課題は、インフレ(36%)、犯罪(14%)、移民(13%)、気候変動(12%)に次いで、銃規制は8%だった。
このほか米国では、銃乱射事件が起きた直後、事件が起きた地域を中心として、一時的に銃の売り上げが伸びるという研究結果も出されている。これには、銃愛好家が事件によって銃規制が厳格化されることを想定してその前に購入しておくという理由だけでなく、自己防衛のために購入するという理由もあるという(スタンフォード大学法学部2017年10月30日)。
加えて、銃規制に関しては、連邦最高裁判所が「自己防衛のために公共の場で銃を所持する権利は合衆国憲法で保障されている」とし、拳銃を自宅外で持ち歩くことを制限するニューヨーク州法を違憲とする判断を下したほか、先に挙げたニュージャージー州における州法に関しても、公園や学校、図書館、ビーチ、レストランなどの公共の場所に銃を持ち込むことを禁止することは合衆国憲法修正第2条に違反するとして連邦地裁において一部が差し止められ今も係争が続いているなど、司法との関係も予断を許さない。
深刻な社会課題となっている銃問題について、2024年の大統領選挙までに追加的な対策が打てるか、政権と議会の動向に注目だ。
(注1)1998年から2019年までに国別で起きた銃乱射事件で4人以上が死亡した件数は、米国が101件と最も多く、次いでフランスの8件、ドイツの5件となり、米国での銃乱射事件の問題の深刻さが顕著となっている(「ニューヨーク・タイムズ」紙電子版2022年5月26日)。
(注2)ワシントンポストとジョージメーソン大学の世論調査。実施時期は2023年10月11~16日。対象者はバージニア州の有権者1,181人。共和党有権者では、経済(87%)、犯罪と安全(82%)、教育(70%)、銃規制(67%)の順。
(注3)実施時期は2023年10月18~19日。対象者は全米の登録有権者2,116人。
(吉田奈津絵)
(米国)
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