IMF支援合意も、パキスタンの通貨安止まらず
(パキスタン)
アジア大洋州課
2022年08月02日
パキスタン中央銀行は7月29日、6月末時点の外貨準備高を78億ドルと発表した。前年同月比で49.8%減少した。2021年7月の175億ドルをピークに、外貨準備高は減少の一途をたどっている。
外貨準備高の減少に伴う、パキスタン政府の債務支払い能力への懸念から、パキスタン・ルピーは2022年初から下落傾向にある。8月1日のレートは1ドル=239.5パキスタン・ルピーと、年初からの下落率は26.2%になった。この下落率は、ASEAN、南西アジア主要国の中では、スリランカの44.1%下落に次ぐ水準だ。
IMFによると、GDPに占める経常収支の赤字は、2012年以降、常態化している。IMFの予測では、2022年の同赤字比率は前年の0.6%から5.3%まで悪化する。貿易構造は、外国からの輸入に依存している状況にある。政府は、これ以上の外貨準備高の減少を食い止めるべく、2022年に入って、各種貿易制限措置を講じてきた。パキスタン中央銀行(SBP)は4月7日、輸入抑制のため、信用状(L/C)開設の際の「キャッシュ・マージン要求(CMR)」拡大を発表した(2022年4月15日記事参照)。また、政府は5月19日、外貨準備高を維持することなどを目的として、自動車など33品目の輸入を即時禁止する政令を出した(2022年5月24日記事参照)。さらに、SBPは5月20日、L/C開設にかかる市中銀行によるSBPの事前許可制度を開始し、7月5日には対象品目を拡大した(2022年7月19日記事参照)。
輸入制限措置は、物価高を招くリスクを有する。7月のパキスタンのインフレ率は24.9%と、前年同月の8.4%から大きく上昇した。また、7月のアルコールを除く食料品価格は28.8%上昇し、国民の日々の暮らしを厳しくしている。また、ロイター(7月4日)によると、財政赤字抑制とIMF支援に向け、政府が燃料補助金を打ち切ったことがインフレ率拡大につながっているとする。IMFは7月13日に実務レベルではパキスタンへの追加融資供与で合意したものの、それ以降も為替レートの減価が続く現状を踏まえると、市場はパキスタン経済の先行きを引き続き懸念しているとみられる。
(新田浩之)
(パキスタン)
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