インフレ削減法案のEV税額控除案はメーカーの負担大、自動車業界が懸念
(米国)
ニューヨーク発
2022年08月05日
米国連邦議会の上院民主党が7月27日に発表した「インフレ削減法案」に盛り込まれた、電気自動車(EV)向けの税額控除に関する提案(関連ブラック ジャック サイト)について、主要自動車メーカーを代表する米国自動車イノベーション協会(AAI)のジョン・ボゼーラ会長兼最高経営責任者(CEO)が「法案が成立した場合、多くの消費者が税額控除を受けられない可能性がある」(オートモーティブニュース8月3日)と述べるなど、自動車メーカーから見直しを求める声が上がっている。
今回の控除案の中で、メーカーが主に懸念するのは、対象車両に搭載されるEVバッテリー用の一部原材料や部品の原産地が限定されている点だ。コバルトなど重要鉱物に関しては、中国やロシアを含む「懸念される外国の事業体」で抽出、処理、リサイクルされている場合、またバッテリー部品に関しては、当該国で生産あるいは組み立てが行われた場合は、税額控除の対象外となる。さらに、重要鉱物については自由貿易協定の締結国で、バッテリー部品については北米での調達価格割合を段階的に増やすよう、年ごとの割合が定められた(添付資料表参照)。ボゼーラ氏は「多くの自動車メーカーが、北米内でサプライチェーンを構築するよう取り組んでいるが、変化は一夜にして起こるものではない」と述べ、メーカーにかかる負担を危惧している。
控除案ではさらに、車両価格の上限が8万ドルに設定された。自動車評価会社のケリーブルーブックによると、2022年6月時点の新車EVの平均取引価格は6万6,997ドルと高水準で、前年同月比では約14%伸びていることから、今後、控除の対象外となる車両が増える可能性がある(ブルームバーグ8月4日)。購入者の収入の上限に関しては、下院民主党が2021年9月に発表した歳入法案での提案(80万ドル)を大幅に下回る30万ドルに定められており、控除対象者が限定されることになる(2021年9月16日記事参照)。
ゼネラルモーターズ(GM)は「難しい問題を含んでおり、一夜にして達成することはできない」と述べ(CNBC8月3日)、マツダ・ノースアメリカ・オペレーションズのダニエル・ライアン政府・広報担当バイスプレジデントは「バッテリーと重要鉱物に関する条項が足かせとなり、メーカーによる連邦政府の目標達成は非常に困難になる可能性がある」との懸念を示した(オートモーティブニュース8月3日)。さらに、新興EVメーカーのリビアン・オートモーティブも「米国製のEV購入を検討している消費者の足元をすくうことになる」と述べ、「移行期間を延長する必要がある」とみている(インサイドEVs8月2日)。上院民主党からも「全ての制限が成立した場合、非常に煩雑で、実行不可能な控除になる。(関係者による)議論は続いている」(デビー・スタベノウ議員、ミシガン州)との声も聞かれる(ロイター8月3日)。
こうした見方に対し、今回の法案を主導した民主党のジョー・マンチン上院議員(ウェストバージニア州)は「自動車メーカーは、より迅速に国内で供給基盤を構築する必要がある。積極的な姿勢で、北米で(重要鉱物を)抽出および処理し、中国への依存を止めるようメーカーに進言してほしい」と強気の姿勢を貫いており、法案成立に向けた動向が注目される(「ウォールストリート・ジャーナル」紙電子版8月4日)。
(大原典子)
(米国)
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