メルコスール含む中南米諸国とのFTAの重要性をEUが強調、食料安全保障などが背景に
(メルコスール、EU、ブラジル、アルゼンチン、スペイン)
米州課
2022年05月26日
スペインのホセ・マヌエル・アルバレス外務・EU・国際協力相は5月16日、EUが協議している、対チリ、対メキシコおよび対メルコスールとの自由貿易協定(FTA)の早期批准を求めた。5月17日付現地紙「メルコプレス」が報じた。同紙によれば、16日にブリュッセルで開催されたEU外相理事会に先立ち、アルバレス外相は、「中南米諸国ほど欧州と互換性のある地域は無い」と述べ、この3カ国・地域とのFTA協議を前進させる重要性を強調した。
メキシコとEUは2020年4月、2国間のFTA再交渉が妥結した(2020年4月30日記事参照)。チリ・EU間では、2005年に、物品・サービス、政府調達・投資自由化、知的財産権の保護、競争問題の協力など包括的な内容を含むFTAが発効しているが、2017年からは、さらなる統合深化に向けた協議が行われており、2021年に妥結した。メルコスールとは2019年6月、交渉開始から20年を経て政治合意に至ったが、現時点でもまだ、署名は行われていない(完成車は、発効8年目から急速にオンライン)。
メルコスール・EU間のFTAについてはこれまで、フランスのエマニュエル・マクロン大統領やオランダのマルク・ルッテ首相などが、アマゾン熱帯地域の森林保護に消極的だとして、ジャイール・ボルソナーロ大統領率いるブラジルを批判する旨を、複数の現地紙が報じた。メルコスール側でも、保護主義的な政策を推進する左派政権率いるアルゼンチンと、交渉を前に進めたいブラジルが相いれないなど、足並みがそろっていなかった。
ただ、ロシアのウクライナへの軍事侵攻を受け、EUは、メルコスールなどと戦略的な提携を強化するべく、停滞しているFTA交渉を前に進めたい意向を示している(5月12日付現地紙「メルコプレス」)。
ブラジルのパウロ・ゲデス経済相も、4月12日にブラジル国税特別局で開催されたセミナーにおいて「EUとのFTAが発効すれば、メルコスールは、食料安全保障の観点からEUの強力なパートナーになれる」と述べた(4月12日付現地紙「CNNブラジル」)。
ロシアやウクライナが輸出競争力を持つ農産品の中には、ブラジルやアルゼンチンも同様に競争力を持つ産品がある。国連食糧農業機関(FAO)によれば、2020年、小麦の輸出量が最も多いのはロシアで3,727万トンだが、アルゼンチンは、米国、カナダ、フランス、ウクライナ、オーストラリアに次いで世界第7位で1,020万トン(注)。トウモロコシは、米国(5,184万トン)が最も輸出量が多く、次いで、アルゼンチン(3,688万トン)、ブラジル(3,443万トン)、ウクライナ(2,795万トン)と続く。ヒマワリの種は、ロシアの輸出量は137万トンで、世界第二位。アルゼンチンは第9位で21万トン、ウクライナは第10位で19万トンを輸出している。
(注)FAOが公開している統計(FAOSTAT)は、現時点では2020年のデータが最新。上記FAOのデータは全て2020年のもの。
(辻本希世)
(メルコスール、EU、ブラジル、アルゼンチン、スペイン)
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