欧州委、シェンゲン協定圏外からの入域管理強化を優先課題に
(EU)
ブリュッセル発
2022年05月25日
欧州委員会は5月24日、EUの多くの加盟国および欧州自由貿易連合(EFTA)国間の自由な人の移動を確保するシェンゲン協定(注1)の実施状況に関する報告書を公表した(プレスリリース)。シェンゲン協定はシェンゲン協定参加国の市民および居住者ならびに適法に入域した短期滞在者が、国境での出入国管理なく参加国間を移動できる仕組みだ。しかし、新型コロナウイルスへの対応としてシェンゲン協定参加国間でも異なる国境管理が実施されたことや(関連ブラック クイーン ブラック)、ロシアによるウクライナ侵攻で600万人以上のウクライナ市民がEUに避難するなどシェンゲン圏外からの入域が拡大する中、域内外国境の管理体制整備が課題となっており、今回、欧州委として初めて状況報告書を作成した。
報告書によれば2017年のシェンゲン国境管理規則改正(注2)を受けて、2017~2019年の3年間に、18カ国が国境管理の人員を増強し、また国境管理体制の整備関連の費用の約8割が自動国境管理ゲートの設置に充てられた。欧州委は、域外国境管理には改善がみられるものの、参加国の半数ではインフラ不足から繁忙期に混乱が生じるなど依然として参加国間の監視体制に差異があり、シェンゲン圏全体での、より統合された体制の構築が優先課題だと結論付けた。これを受けて、統合された国境管理のための複数年戦略を2022年末までに発表するとしている。さらに、テロや犯罪を抑止すべく、域内での警察協力の強化によるセキュリティチェックの厳格化も優先的な取り組みに挙げた。
クロアチアなどのシェンゲン新規加盟の早期実現求める
また欧州委は、現在シェンゲン協定未参加のEU加盟国(適用除外を選択するアイルランドを除く)の早期協定参加による「シェンゲン圏の完成」にも意欲を示した。欧州委によれば、クロアチア、ブルガリア、ルーマニアの3カ国は参加要件を満たしているとし、EU理事会(閣僚理事会)に対し、参加を早期に正式決定するよう求めた。3カ国のうち、ブルガリアとルーマニアは組織犯罪への対処が不十分などの理由で一部の加盟国が慎重な姿勢を示し、クロアチアの早期参加実現が最有力とみられている。
(注1)シェンゲン協定参加国は、ブルガリア、クロアチア、キプロス、アイルランド、ルーマニアを除くEU加盟国に、EFTA加盟国(アイスランド、ノルウェー、スイス、リヒテンシュタイン)を加えた26カ国。
(注2)2015~2016年にかけてパリやブリュッセルなどで発生したテロ事件を受けて、個人に対する入域審査を強化した改正EU規則2017/458。
(安田啓)
(EU)
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