連邦議会選挙に向けた主要4党の選挙公約における気候保護政策を比較
(ドイツ)
ベルリン発
2021年09月17日
ドイツでは、9月26日に連邦議会選挙(総選挙)が行われる。アンゲラ・メルケル首相は選挙後の政界引退を明言しおり、16年間のメルケル長期政権は終了する。今回の選挙でも前回と同様に()、単独過半数を得られる政党が現れる見込みはなく、複数の政党による連立政権となることが確実な情勢だ。与党入りの可能性が指摘されている主な政党は、キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)、社会民主党(SPD)、緑の党(Grünen)、自由民主党(FDP)(添付資料表1参照)。この4党は、選挙公約に気候変動対策を掲げている(添付資料表2参照)。
現在ドイツの第1党であるCDU/CSUは、気候変動対策への国際的な協力、技術、イノベーションに焦点を当てる。カーボンリーケージ対策(注1)や、WTOルールに整合的なかたちでの炭素国境調整メカニズム(CBAM)(注2)の導入と、競争の歪みを回避するため国際レベルでの公正な炭素価格の実現を提唱。
SPDは、気候保護に配慮した生産プロセスを支援するとともに、気候保護に悪影響をもたらす生産プロセスに対する補助金を廃止したい考えだ。また水素利用について、鉄鋼生産、乗用車や商用車、船舶、航空機向けの分野で、2030年までにドイツが世界の牽引役となることを目指す。
緑の党は、環境政党として気候保護政策に比重を置いている。気候保護のための「即時行動計画」を提案し、ドイツの2030年の温室効果ガス(GHG)削減目標(注3)を現在の1990年比65%削減から70%削減へ引き上げる気候保護法改正を主張。また、他の省庁が連邦議会に提出する法案がパリ協定に違反している場合に、当該法案への拒否権を有する「気候保護省」設置の考えもある(「公共放送ZDF」8月3日)。
FDPは、EU排出量取引制度(EU ETS)適用を全ての分野に拡大し、最終的に世界規模の排出量取引制度とすることを提唱。パリ協定第6条を利用して他国のGHG削減プロジェクトに資金を提供し、実現された削減分をドイツの削減実績にカウントすることを検討する。
ドイツ産業連盟(BDI)は7月14日、4党の気候保護政策に関して、CDU/CSUとFDPの公約と、SPDと緑の党の公約の間には距離がある、と指摘。CDU/CSUとFDPは、EU ETSなどのルールと、イノベーション促進、インフラ拡張などのインセンティブを組み合わせた戦略となっている。緑の党による、気候保護関連規制の強化と対照的だ。またSPDは、EEG賦課金(2020年10月27日記事参照)などビジネスに重要な施策が不明確と評している。
ドイツ経済研究所(DIW)は9月9日、各党選挙公約の気候保護政策の分析結果を発表し、「2030年までのGHG排出量削減目標を達成するための、首尾一貫したアプローチを提供する公約はない」と厳しい評価を下した。
(注1)二酸化炭素の排出制限が厳しい国から緩やかな国に産業が流出する問題。
(注2)EU域内の事業者がCBAMの対象となる製品をEU域外から輸入する際に、域内で製造した場合にEU排出量取引制度(EU ETS)に基づいて課される炭素価格に対応した価格の支払いを義務付けるもの()。
(注3)GHG削減は、現行の気候保護法により、2030年までに1990年比で65%削減、2040年までに1990年比で88%減とする中間目標が導入されている(2021年5月24日記事、7月6日記事参照)。
(ヴェンケ・リンダート)
(ドイツ)
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