WTO、新型コロナワクチン知財保護めぐる議論は継続で合意

(世界)

国際経済課

2021年06月14日

WTOは6月8、9日、TRIPS(知的所有権の貿易関連の側面に関する)理事会を開催し、新型コロナウイルスワクチンの特許など知財保護を一時停止する提案を議論した。今回は具体的な進展は見られなかったが、加盟国は今後も集中的な議論を行うことに合意した。

本提案は、インドや南アフリカ共和国が2020年10月にWTOに提出した(注1)。提案国は新型コロナウイルス感染の予防と抑制、対応に必要な医療製品・技術について、知財保護を一時的に免除(waiver)するよう求めている。これまで途上国を中心に60以上のWTO加盟国が本提案を正式に支持しているが、提案が実現するためには全ての加盟国の賛成が必要で、現在も議論が継続している。

今回の理事会はまず、提案国が5月25日に公表した修正案を議論した()。提案国は修正案で新たに免除期間や対象製品・技術の例などを具体的に明記した。提案国は理事会に対し、修正案は新型コロナ感染対策に影響を与える変異株を念頭に置いたものと説明した。米国はこの修正案を精査中としながらも、限られた時間でWTO全加盟国の合意を形成するには議論の対象を絞り込む必要があると発言した。

理事会ではまた、EUが6月4日にWTOに提出した意見書()も取り上げた。EUはワクチン供給拡大に向けて、(1)生産国による輸出規制の制限、(2)自発的なライセンス契約や技術移転を通した生産拡大、(3)強制実施権(注2)の円滑な行使に向けた取り決めを提案している。EUは(2)が最も有効な方法としつつも、自発的な協力が実現しない場合に各国が強制実施権を行使できるよう、手続き的な負担の軽減などを提案する。

TRIPS理事会の議長は、一般理事会が開催される7月21、22日に向けて、本提案に関する報告をまとめるとしている。次回のTRIPS理事会(非公式)は6月17日に開催される。

(注1)原提案の詳細については、ジェトロの2021年3月24日付地域・分析レポート「ワクチン増産に向け、WTOで知財を巡る議論が加熱(世界)」を参照。

(注2)強制実施権はWTOの知財ルールのTRIPS協定で規定されるもので、一定の条件の下で特許権者の許諾なく特許発明を実施することを認めている(TRIPS協定第31条、第31条の2、付属書)。

(山田広樹)

(世界)

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