欧州製薬業界、米国のワクチン知財保護放棄への支持発表に反発

(EU、米国)

ブリュッセル発

2021年05月10日

米国政府が5月5日、新型コロナウイルスのワクチンに関わる知的財産の保護の放棄について支持を表明した(2021年5月7日記事参照)ことを受け、欧州製薬団体連合会(EFPIA)は6日に声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表し、「バイデン政権による近視眼的で効果のない決定」と厳しい言葉で非難した。

ワクチンの生産に当たっては、新たに生産を始める事業者に対して「ワクチン開発者のスキルや技術的なノウハウの提供が必要」で、特許の放棄は増産につながらないと主張した。また、特許を放棄することで、既に整備され、機能しているサプライチェーンから、生産性や製品の品質の低下が懸念されるような生産施設にワクチンの原材料などが流用されるリスクがあり、偽造ワクチンの流通にもつながりかねないと警告した。

生産量の増加には開発者と製造事業者の自発的かつ協働的な提携が必要で、こうした提携を結ぶ際に起きる障壁の撤廃、原材料の自由な流通、さらに研究開発の継続に傾注すべきだとした。また、欧州は企業間の連携の強化や新たな生産施設への投資に集中して生産量を増加させ、知財保護を擁護し、特許の一時放棄に関する提案に反対し続けるべきだとした。

研究開発の意欲や意義が失われると猛反発

EFPIAは特に、今後の研究開発への影響を懸念する。EFPIAは、新型コロナウイルスの世界的な流行が始まって以降、欧州の製薬業界は研究開発を進めることによって、新たな診断方法やワクチン開発を実現し、流行の拡大に対抗してきたが、それは欧州には新技術の開発を後押しする知財保護の枠組みがあるからだと強調。新型コロナウイルスのワクチンの特許の一時放棄がWTOで認められると、新型コロナウイルス関連のさらなる研究開発への業界の意欲を奪うだけでなく、将来、新たなパンデミックが起きた場合に研究開発を行う意義も失われかねないと指摘した。

一方、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は5月6日、フィレンツェの欧州大学院で行ったスピーチ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますにおいて、EUは「『新型コロナ危機』に効果的かつ実用的に対応する提案について協議する用意はある」とし、今回の米国の決定ついても協議する姿勢を示した。しかし、短期的には、全てのワクチン生産国に対して、輸出を認め、サプライチェーンの混乱を招く措置を回避するように求めた。

(滝澤祥子)

(EU、米国)

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