欧州中銀、新型コロナウイルス感染拡大対策パッケージ発表、政策金利は据え置き
(欧州、ユーロ圏、EU)
デュッセルドルフ発
2020年03月13日
欧州中央銀行(ECB)は3月12日、ドイツ・フランクフルトで開催された政策理事会後の記者会見で、新型コロナウイルス感染拡大に伴う影響緩和のための金融政策措置の包括的パッケージを発表した。1月下旬の前回の政策理事会以降、新型コロナウイルスの感染拡大が世界およびユーロ圏の経済を混乱させるとともに、市場の不安定性が増加したことを受けたもの。
他方、政策金利(主要リファイナンス・オペ金利)を0.00%、限界貸付ファシリティー金利(オーバーナイト貸し出し、翌日返済)を0.25%、預金ファシリティー金利をマイナス0.50%にそれぞれ据え置くとした。
銀行への資金供給を大幅に拡大、中小・中堅企業支援を念頭
ECBは、追加の長期資金供給オペレーション(LTROs:longer-term refinancing operations)を一時的に導入し、ユーロ圏内の銀行に直ちに流動性を供給する。LTROsは、貸し出し条件付き長期資金供給オペレーション(TLTRO-III:Targeted longer-term refinancing operations)が運用される6月までの期間をカバーする。
TLTRO-IIIについても、6月から2021年6月までの間は、適用金利からさらに25ベーシスポイント(0.25%)低い金利が適用される。借り手により有利な条件とすることで、特に影響が心配される中小・中堅企業への銀行による資金貸し出しを支援する。2019年9月から開始されたTLTRO-IIIでは、各オペレーションの金利を政策金利の平均金利と同じ水準(0.00%)に設定するほか、一定以上の適格な純貸し付けがある銀行には、預金ファシリティーの平均金利と同水準の金利(マイナス0.50%)が適用されている(2019年9月13日記事参照)。
ユーロシステムによる債券・国債の購入プログラム(APP:asset purchase programme)については、2019年11月から実施している月額200億ユーロ規模での債券・国債の購入継続に加えて、2020年12月末までに民間部門を中心に1,200億ユーロの資産を追加で購入する。なお、資産購入については、緩和政策の効果を高めるために「必要な限り」金利の引き上げ開始前まで継続するとし、APPの下で購入し保有する債券・国債の再投資については、主要政策金利の引き上げ開始以降も必要な限り続ける方針をあらためて示している。
また、ECBの銀行監督部門は3月12日、新型コロナウイルス感染拡大を受けた対応として、銀行の資本要件を一時的に緩和すると発表した。
ユーロ圏内の経済成長予測を下方修正、さらなる悪化も
記者会見に合わせて発表されたユーロ圏に関するECBスタッフマクロ経済予測では、2020年の実質GDP成長率を前回(2019年12月)予測値の1.1%から0.8%に、2021年は前回の1.4%から1.3%に下方修正した(表参照)。2022年については1.4%の予測を維持した。なお、消費者物価上昇率(HICP)は、前回発表の予測値を維持している。これらの予測についてECBは、新型コロナウイルスの急速な拡大による影響を完全に織り込めていないとしている。
記者会見中でクリスティーヌ・ラガルドECB総裁は、ユーロ圏の成長見通しを取り巻くリスクについて、「明らかに下振れ傾向にある」と指摘。背景として、これまで指摘されていた地政学的要因や保護主義の台頭、新興市場の脆弱(ぜいじゃく)性といった要因に加え、新型コロナウイルスの感染拡大が「新規かつ本質的な下振れ要因として加わった」とした。
さらに、ラガルド総裁は「野心的かつ協調的な」財政政策の重要性を強調した。既に発表されている各国政府の対応策を歓迎するとともに、新型コロナウイルスのさらなる感染拡大による悪影響に、ユーロ圏内の各国政府と関連機関がECBとともに機動的かつ強力に対応することを強く求めている。
(ベアナデット・マイヤー、森悠介)
(欧州、ユーロ圏、EU)
ビジネス短信 b3211d2faeb2fc9d