米業界団体、米中貿易摩擦の激化に相次いで懸念表明
(米国、中国)
ニューヨーク発
2019年08月29日
米中貿易交渉が先行き不透明感を増している中、米国産業界では懸念や反発が高まっている。トランプ米大統領は8月23日、既に課しているものも含めて対中追加関税の税率を5%ずつ引き上げると表明(2019年8月26日記事参照)。また、中国で事業を行う米国企業に対し、「企業を米国に戻し、製品を米国内でつくることも含めて、直ちに中国以外の選択肢を模索するよう命ずる」とツイッターで呼び掛けた。さらに、8月24~26日にG7首脳会議が開催されたフランスのビアリッツで、米中貿易交渉に関して中国側が再開を呼び掛ける電話をかけてきたと発言したものの、その後に中国外務省の耿爽報道官が定例記者会見で、「電話について認識していない」と述べるなど、9月初頭に再開とされている米中貿易交渉が行われるかの見通しは立っていない。
米国商工会議所は8月23日付のプレスリリースで、トランプ大統領の不満は共有するとしつつ、「米中両国政府は交渉のテーブルに戻り、技術の強制移転、知的財産権の執行、市場アクセス、そして世界に打撃を与えている中国の国内補助金に関わる懸念に対処するための協定を完結させるよう強く求める」と表明した。米国の主要な大企業の最高経営責任者(CEO)で構成されるビジネス・ラウンドテーブルも同日、報復措置の応酬が続く現状を否定的に捉える声明を発表した。
9月と12月に発動時期が分けられたリスト4には衣料品、家電製品、玩具などの消費財が含まれ、それらの製品関連の業界団体はより強いトーンで政権の判断を批判している。全米アパレル・履物協会(AAFA)は8月23日、「トランプ政権の報復的な追加関税措置は、中国に対する一貫した戦略に基づいていないことは明らかだ」とし、現状は世界で保護主義が台頭した1930年代と同様であり、「米国の消費者、ビジネス、経済にとって災害だ」との声明を出している。また、「大統領はサプライチェーンを動かすことが信じられないほど複雑で高くつくことを理解していないようだ」と、厳しい表現で大統領の呼びかけに反発している。米国玩具協会も同日付の声明で、中国からの事業撤退について、「他の場所に(ビジネスを)移管するには何年もかかる」と否定的な見方を示した。
世界最大級の家電見本市CESを運営する全米民生技術協会(CTA)も8月23日付のプレスリリースで、「中国の強制技術移転や知的財産権の窃取と闘うことは正しいが、関税は米国民に対する課税だ」と批判した。引き上がる一方の追加関税を、1930年に成立したスムート・ホーリー法(注)以来、最悪の経済政策上の過ちだとし、「あとどれくらい米国の家庭、企業、経済はこの間違った通商政策による財政的な負担を強いられるのか」と現状を嘆いた。
(注)1930年関税法とも呼ばれ、恐慌対策として米国内の産業を保護するため、広範囲の品目に高関税をかけた。他国からの報復関税を呼び起こし、世界的な保護主義の台頭、ブロック経済化を招いたとみられている。
(磯部真一)
(米国、中国)
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