乗用車などの特別消費税を引き上げ

(トルコ)

イスタンブール事務所

2012年10月18日

政府は9月22日付官報で、ガソリンなどの燃料、1600cc以下の乗用車、アルコール飲料に対する特別消費税(SpecialConsumptionTax、以下SCT)の引き上げを発表し、即日実施した。SCTの引き上げは2011年10月以来で、アルコール飲料の税金の引き上げは2年連続となる。

添付ファイル: 資料PDFファイル( B)

<1600cc以下の乗用車のSCTは40%に>
引き上げられたのは、無鉛ガソリン、ディーゼルガソリンなどの燃料、乗用車(1600cc以下)、アルコール飲料に対するSCT(トルコ語ではOTV)だ(添付資料参照)。

2011年10月のSCT引き上げ(2011年10月21日記事参照)で37%に据え置かれた1600cc以下の乗用車の税率は今回40%に引き上げられた。その他のクラスの自動車の税率は据え置かれた。しかし、トルコの乗用車市場では生産の約85%、国内販売の約90%は1600cc以下の乗用車が占めており、主力クラスに対する3ポイントの増税は自動車ビジネスに厳しい状況をもたらすとみられている。

自動車販売協会(ODD)のエルジェ氏は「SCTが2年連続で変更されたことは、ゲームのルールが絶えず変更されるというイメージをもたらし、投資を検討する外資にマイナスの影響をもたらす」と批判した。なお、専門家は過去の事例を参考に、実際の売り上げに影響が出始めるのは13年以降で、売り上げに9%程度のマイナスになるとみている。

アルコール飲料に対する税は2年連続で増額され、税額は、ビールが0.53リラ(1リラ=約44円)から0.62リラ、スパークリングワインは19.82リラから23.19リラになった。また、トルコの国民酒といわれ、年間4,000万リットルが消費されるラクは、10年間で10.2リラから77リラに上がった。

ガソリンなどの燃料に対するSCT増税によって、1リットル当たりのレギュラーガソリンの価格は4.37リラから4.73リラに上昇した。原油価格が1バレル115〜120ドルに上昇すれば、国内のガソリン販売価格は1リットル当たり5リラを超えるとみられている。

SCTは1999年にトルコで発生した大地震を受けて導入された震災復興税をベースに、2002年8月に導入された。付加価値税(VAT、1〜18%)と異なり、出荷時に課税され、消費者への販売価格に含まれる税金で、以下の4つのグループに対して課税される。

(1)石油製品、天然ガス、潤滑油などの副産物
(2)自動車とその他の車両、オートバイ、飛行機、ヘリコプター、ヨット
(3)たばことたばこ製品、アルコール飲料
(4)ぜいたく品(香水、化粧品、毛皮、デジタルカメラ、携帯電話など)

<悪化が予想される財政赤字を補てん>
今回の増税は、内需の減速が予想以上に進んで公共部門への歳出が増大する一方で、歳入の82.6%を占める税収の伸びが8月段階で7.5%と、同期の消費者物価指数上昇率の9.7%を下回っており、歳入補てんの意味合いがある。増税に先んじて発表された2012年1〜8月の政府の予算執行状況によると、財政支出の大幅増で同期の財政収支は85億リラの赤字となり、前年同期の21億リラの黒字から大幅に悪化した。

アナリストからは、年末に向けて財政支出がさらに増加する可能性が高いことを考慮すると、2012年の財政赤字額は記録的な数値になるのではないかとの声も出ている。ババジャン副首相も、財政赤字をGDP比1.5%以内に収めるという従来の目標は達成困難となり、2.5%を超える水準に達する見込みであるとの見解を示した。

政府はSCTの増税で85億〜90億リラの増収を見込んでいるが、金融アナリストからは、消費者需要が低下し、税収増にはつながらないとの見解も出ている。アンカラ工業会議所のオズデビル会頭は、政府は財政赤字の急増を補うためSCT増税という最も安易な方法を取ったと非難した。会頭は、SCTなど間接税の負担にあえぐのは主に中・低所得層だとし、政府は財政のツケを再び一般消費者に転嫁したと批判した。なお、2012年8月までの税収総額1,822億リラの65%を間接税が占め、直接税の割合は35%にとどまり、そのうち法人税収入は前年同期比わずか6.3%増の206億7,000万リラだった。

また、物価にも0.5〜0.8%の上昇圧力が加わるとみられており、投資銀行のガランティ・ヤトゥルムは、今回の増税でアルコール飲料に0.044ポイント、ガソリンに0.43ポイント、自動車に0.15ポイントの上昇圧力が加算され、同行の物価予測に0.62ポイント加算されるとした。また中銀は、2013年第1四半期のインフレ目標を5%から5.5%に上方修正することになるとしている。

関連業界の反発が大きい一方で、JPモルガンは、SCT増税は政府の財政規律を維持することへの断固たる姿勢を示唆するもので、増税は歳入増に寄与し、投資家の信頼につながると評価している。なお、エルギュン科学工業技術相は、増税発表後の記者会見で、政府は現時点でさらなる増税を検討してはいない、と述べた。

(中島敏博)

(トルコ)

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