21 トランプINECS):EU
質問
EU向けに化学製品を輸出する計画を立てていますが、21 トランプに登録されていない場合は、新規化学物質としての届け出が必要と聞きました。REACH規則との関係について教えてください。
回答
EUでは「化学物質の登録、評価、認可および制限(REACH)に関する規則」(欧州議会・理事会規則1907/2006)の運用が2008年6月1日から開始されています。EU向けに輸出する化学製品に含まれる化学物質(調剤も含む)が年間1トン以上の場合は、21 トランプに登録されているか否かに関わらず、REACH規則に基づき、EU域内の輸入者もしくは「唯一の代理人(Only Representative)」が欧州化学品庁(ECHA)に登録する必要があります。
I. 21 トランプとREACH規則
EINECS(European Inventory of Existing Commercial Chemical Substances)とは、危険物質指令(67/548/EEC)に基づき作成された、欧州共同体域内で上市された約10万種の化学物質のリストで、ここに収載された物質は「既存化学物質」とされています。また、危険物質指令の改正に伴い、既存化学物質などを除き、1981年9月18日~2008年5月31日に上市された化学物質、5,000種以上が欧州届出物質リスト(European List of Notified Chemical Substances: ELINCS)に収載され、登録済みとみなされましたが、届出者以外は、新規化学物質として上市前の登録が必要となります。しかし、既存化学物質にはその必要がなかったため、人の健康・環境保護に対する情報を十分に得られていませんでした。その反省から、2006年12月には新旧すべての化学物質を対象とするREACH規則(Registration, Evaluation, Authorisation and Restriction of Chemicals)が成立し、2007年6月1日に施行、2008年6月1日より登録などの運用が開始されました。REACH規則において、EINECSに収載された既存化学物質は後述する「段階的導入物質」として扱われます(II. 3. e. i. 参照)。
II. REACH規則(欧州議会・理事会規則1907/2006)
- REACH規則概要
REACH規則は、化学物質の登録・評価・認可・制限に関する規制や、化学物質を扱う企業、製造業者、輸入業者、川下ユーザーに対する化学品の使用における安全性の評価や安全管理義務を規定しています。これによって、サプライチェーン全体で化学物質のより安全な使用や情報の共有化に取り組むことが義務付けられました。また、同規則により欧州化学品庁(ECHA)が設立され、REACHシステムにおける技術、科学、事務的部門の実際の運用を行っています。さらに、欧州委員会規則2018/1881による改正によりナノフォーム物質に該当する場合は、人体や環境への悪影響を防止する観点から、化学的安全性の評価と報告、適切なリスク管理の義務が盛り込まれました。以下に、REACH規則の主なポイントを示します。 - REACH規則の特徴
- 従来、扱いが異なっていた既存化学物質と新規化学物質の両方を規制する。
- REACH規則の運用開始以前はEU加盟各国政府が実施してきた安全性評価を、産業界の義務に変更する。
- 化学物質の安全性や取り扱いに関する情報共有をサプライチェーン(流通経路)の川上から川下まで双方向で強化する。
- 化学物質それ自体のみならず調剤や成形品(Article)に含有される物質も登録、届出、認可の対象としている。
- 1化学物質につき1登録が原則とされており、企業間で情報を共有することが義務付けられている。これにより、コストを削減し、不必要な動物実験を防止する。
- 登録に関する要点
- 登録義務者
登録義務者は、EU域内の当該化学物質、調剤、および成形品の製造者、輸入者、または域外の製造者が指名する「唯一の代理人(EU域内の自然人または法人)」です(日本企業は直接登録できません)。 - 登録先
欧州化学品庁(ECHA) - 登録を要する物質
- 事業者あたり年間1トン以上の物質それ自体または調剤(2以上の物質から成る混合物または溶液)中の物質
- 成形品の場合は、含まれる化学物質が年間1トンを超え、かつ物質が意図的に放出される場合(例えば匂い付き消しゴムの香料など)
- 登録が要求されない物質
- 規則の適用外:放射性物質、税関監督下の物質、単離されない中間体、廃棄物、防衛上必要な物質、輸送中の危険物質
- 用途限定での適用除外:人体および動物用医薬品、食品香料・添加物、飼料添加物、動物用栄養物など
- 登録対象外:製造または輸入が年1トン未満の物質、ポリマー自体など(ただし、ポリマー中に結合した状態で2wt%(重量%)以上含有され、年間1トン以上製造、輸入されるモノマーは届出が必要)
- 登録免除:付属書IV・V収載物質、EUに再輸入されたREACH既登録の物質と調剤、成形品、回収されたREACH既登録の物質と調剤など
- 既登録とみなされる:植物保護剤、殺生物剤、指令67/548/EECによる届け出リストELINCS収載物質(ただし、届け出者のみに有効、またトン数により追加情報が必要な場合がある)
- 登録、届出の種類と登録期限
- 段階的導入物質の予備登録
段階的導入物質(EINECS収載物質、1992年6月1日以降EU内で製造されたが上市されていない物質、1981年9月~1993年10月にポリマーとして上市されたが現在はポリマーとはみなされない物質)は、2008年6月~2008年末に予備登録をすればトン数に応じて登録猶予期間を適用(c.参照)。なお、欧州化学品庁は予備登録された段階的導入物質のリストをウェブサイト上で公開。 - 段階的導入物質の遅延予備登録
上記の予備登録の受付期間以降に段階的導入物質の製造・輸入量が初めて年間1トン以上になった場合、その時点から6カ月以内で、かつ登録猶予期限(c.参照)の12カ月以上前であれば、遅延予備登録が認められ、登録猶予期間を適用。 - 予備登録(遅延予備登録も含む)をした段階的導入物質の登録猶予期限
トン数に応じて登録猶予期限が異なる。 - (1)年間1,000トン以上(ただし、発がん性・変異原性・もしくは生殖機能に有害な物質は年間1トン以上、水生生物や環境に害のある物質は年間100トン以上):2010年11月30日
- (2)年間100~1,000トン未満:2013年5月31日
- (3)年間1~100トン未満:2018年5月31日
- 予備登録をしなかった段階的導入物質、および非段階的導入物質の登録
まず欧州化学品庁(ECHA)に同一物質の登録の有無を照会する義務があり、登録後、ECHAから反対の通知がなければ、登録の3週間後から製造・輸入開始または継続が可能。 - 製品・プロセス指向の研究開発(PPORD)
PPORDのために使用される物質は、申請すれば5年間の登録免除が受けられる可能性がある。
- 段階的導入物質の予備登録
- 登録に要求される情報
- 遅延予備登録
- (1)物質の名称やEINECS番号、CAS番号など
- (2)申請者名、連絡先など
- (3)トン数帯と適用される登録期限
- (4)構造活性相関などの安全性評価手法に利用可能な類似物質の名称
- 通常の登録
- (1)欧州化学品庁が定める技術一式文書(テクニカルドシエ)(申請者の情報、物質の名称、用途に関する情報などを含む)
- (2)化学物質安全性報告書(CSR)(量が年間10トンを超える場合)
なお製造・輸入量が年間1トン未満の場合は、登録義務はありませんが、REACH規則の求める次のような責務があります。- (1)付属書XVIIに記載された危険化学物質の上市・使用の制限
- (2)付属書XIVに記載された高懸念物質(SVHCs:substances of very high concern)の認可取得
- (3)物質や、調剤または成形品に含まれる化学物質が付属書XIVへの掲載候補(認可対象候補物質)となっているなど、一定の要件を満たす場合におけるサプライチェーン関係者への情報提供 また、既登録後もトン数に応じて追加情報の提出が必要な場合があります。貴社で対応を考える場合、下記欧州化学品庁のURLにREACH規則情報詳細があり、各国別にヘルプデスクも紹介されていますので参考になります。
- 遅延予備登録
関係機関
関係法令
参考情報・資料
調査時点:2016年10月
最終更新:2024年9月 - 登録義務者
記事番号: A-001101
ご質問・お問い合わせ
記載内容に関するお問い合わせ
貿易投資相談Q&Aの記載内容に関するお問い合わせは、オンラインまたはお電話でご相談を受け付けています。こちらのページをご覧ください。