第12次5カ年規画における省エネルギー要求と対策

ハイパーブラックジャック事業のターゲットは「機器」から「都市」へ

2010年11月9日に上海世博(集団)有限公司とジェトロは、シンポジウム「都市化の進展と環境・省エネルギー対策~家電、電子機器の環境負荷低減とリサイクルに関する日中ビジネス協力の可能性」を上海環球金融中心において共催した。国家環境保護部は、第12次5カ年規画(2011~15、以下「12-5規画」)の制定状況について解説した。日本総研の井熊均・創発戦略センター所長は、省エネ事業の段階的発展に言及。中国では「機器」レベルから、先進レベルの技術が実装された「都市」レベルへのフェーズシフトが急速に進展していると指摘した。

<12-5規画では運転管理や産業構造調整を通じたハイパーブラックジャックに力点>

シンポジウムに参加した全426名のうち、上海世博(集団)経由による申し込みが8割以上を占めた。鉄鋼、非鉄金属、化学などの中国メーカーが中心だ。第11次5カ年規画の最終年である本年は、省エネ公約(05年比でのエネルギー使用効率20%改善)の達成に向け、中央政府から地方政府に対し、公約達成順守に向けた指示が相次いで出されている。12-5規画でも省エネ目標の強化が予測される中、省エネ対策の強化を迫られる中国メーカーからの省エネ要求と対応技術への関心の高さが垣間見えた。

国家環境保護部の葛察忠・環境規画院主任研究員は、12−ハイパーブラックジャックの検討状況について、鉄鋼業を中心に次のとおり解説した。

12-ハイパーブラックジャックでは、製造機器などハード面のみならず、運転管理といったソフト面にも重点が置かれている。産業構造調整も重要だ。鉄鋼業を例にとると、中国における中小メーカーのトン当たりエネルギー消費量は、日本より60%多い。そのためメーカーの集約による大型化を引き続き進める必要があるとともに、スチーム・廃熱発電、焼却炉への排煙脱硫装置の需要が高まると見られている。

しかしながら、鉄鋼業におけるエネルギー消費構造は、12-5期間は、これ以上の大きな変化は期待できないと見ている。専門家は、11-5規画における鉄鋼業のエネルギー効率の改善は7~8%、12-5規画期間では5%が合理的であると政府に提出している。

汚染物質排出削減対策では、11-5規画での対象物質である二酸化硫黄(SO2)と化学的酸素要求量(COD)に加えて、12-5規画では、窒素酸化物(NOx)の排出削減指標が追加される見込み。ダイオキシンの排出抑制や測定観測システムに関する研究も進展中だ。

<省エネ事業の3つのフェーズ:「機器」「施設」「都市」>

日本総研の井熊均・創発戦略センター所長は、「日中省エネルギービジネス連携」と題し、省エネ事業を3つのフェーズに分けて解説した(下図)。

図:省エネ事業の流れ

出所:井熊均・日本総研創発研究センター所長発表資料(2010年11月9日)

日本側からの登壇者の説明内容を当てはめると、日本ファシリティソリューション(JFS)の金鋒秀・主幹技師による「花園飯店(上海)における民生施設向けNEDO省エネモデル事業」(2008年9月30日付け記事参照)がフェーズ2(施設)、愛知県の小川悦雄・副知事による「あいちゼロエミッション・コミュニティ構想」がフェーズ3(都市)、日系企業を中心とした「省エネの専門家集団」による企業間アライアンスであるグリーングループメンバーズ(GGM)(会長:孫継信・上海ペイハオ節能科技発展董事長)(2010年12月16日付け記事参照)は、フェーズ1からフェーズ3までを視野に入れた取り組みであると言えよう。

「中国でのフェーズ2(施設)は、花園飯店の事例のとおり未だ途に就いたばかりである。しかし一気にフェーズ3(都市)に発展する可能性がある。」井熊所長は、中国において「環境保護重視」を掲げた「環境都市」が約200存在することを示しつつ、蛙跳び減少の可能性について言及した。中国における通信手段が固定電話を飛び越して携帯電話が爆発的に普及したとおり、「後発国」であるが故に過去のしがらみから発生するレガシーコストも存在しない。そのため、最先端技術導入への障害が少ない。最先端の省エネ機器は相互にネットワーク化されることにより、さらなる新しい価値を生み出す。中国は、先進国からの省エネ・環境技術の実証プロジェクトを最も多く有している国であり、「実証事業の場を多く持っている事が大きなアドバンテージ」(井熊所長)となっている。

<トップダウン型省エネ・環境政策におけるチャンスとリスク>

フェーズ3(都市)では、主要顧客が地方政府となる。中央政府から割り当てられた目標の達成に向けた総合的な提案を行うソリューション型のビジネスとなるため、フェーズ1(機器)における模倣品リスクが軽減されるとともに、ランニングフィーを含めた安定的な収益を得ることが可能となる。

一方で、年内の目標達成に向けたプレッシャーを受ける地方政府は、今夏の電力供給制限のような対策に走る。ジェトロ上海センターの川合現・副所長は、電力制限措置についての問題点を指摘すると共に、日本における取組を紹介しつつ、12-5規画における改善方策の期待を表明した。

シンポジウムの最後に行われた質疑応答では、JFSの金主幹技師とGGMの孫会長に対する質問が相次いだ。中国節能環保集団(参照)の李傑・副総経理は、炭素税徴収に関する検討状況について「関係部門が策定中であり、湖北省や江西省にて試行が進められている。12-5規画期間中に開始される可能性は低いのではないか」との見解を会場からの質問に対して回答した。