ボストンエコシステムレポート「CICボストンニュース」ブラック ジャック ゲーム ルールutics共同創業者の挑戦と学び

インタビュー

今回は、がん幹細胞を標的とした革新的な治療薬の開発に取り組む製薬企業「New Wind Therapeutics」の共同創業者兼CEO、CSOである向井慎氏 (Dr. Shin Mukai)にインタビューを行いました。同氏は日本、オーストラリア、ボストンでの豊富な研究・実務経験を活かし、現在ボストンを拠点に事業を展開されています。ボストンを拠点に選んだ理由や設立を通じて得た学び、さらに日本発のスタートアップが同地で成功するためのアドバイスについて語ってくださいました。

New Wind Therapeutics L3C
共同創業者兼CEO、CSO
向井 慎 氏(Dr. Shin Mukai)


2024年12月

New Wind Therapeutics L3C共同創業者兼CEO、CSO向井 慎 氏(Dr. Shin Mukai)

New Wind TherapeuticsのCo-Founder兼CEO・CSOになられた経緯を教えてください。

私がNew Wind Therapeuticsを設立した背景には個人的な経験と学術的・職業的な土台があります。私の父はがんで亡くなりました。父の闘病を間近で経験し、がん研究に対する新たなアプローチの必要性を痛感したため、研究の道に進むことを決意しました。京都大学で学士号と修士号を取得し、The University of Western Australiaで博士課程を修了した後、慶應義塾大学医学部やボストンのBrigham and Women's Hospital、Harvard Medical Schoolで博士研究員として在籍しました。また、大手製薬会社のSanofiにて製薬業界での実務経験も積みました。このような経験と私の有機化学、医薬化学、さらに生物学や免疫学を合わせたユニークなスキルセット、がん研究への情熱がNew Wind Therapeuticsを共同創業したことへとつながっています。

日本、オーストラリア、ボストンで仕事をされたご経験がありますが、New Wind Therapeuticsを立ち上げる際にボストンを拠点に選ばれた理由は何ですか。

ボストンを選んだ理由には複数の要素が関係しています。ボストンは、世界的なバイオテクノロジーやライフサイエンスの中心地として知られており、Harvard UniversityやMITなどトップクラスの研究機関、さらにBrigham and Women's HospitalMassachusetts General Hospitalなど一流の研究医療施設が集結しています。こういった環境が最新の医療技術や新しい治療法の開発に非常に多くの研究機会やリソースをもたらしています。加えて、ボストンのエコシステムは非常に活発で、学術研究や医療機関、製薬、バイオテック企業やベンチャーキャピタルなどが連携し、スタートアップ企業にとって成長するためのサポートが豊富に存在します。また、これはオーストラリアでも感じたことですが、ボストンは非常に多文化の都市であり世界中から才能が集まる場所です。異なるバックグラウンドや視点を持った人々と協力することで、より多角的で創造的な解決策を見出すことができると思います。日本で育った私にとっても、こういった国際的な視点が得られるボストンは非常に刺激的で、挑戦を促してくれる環境だと感じています。

New Wind Therapeuticsの設立から1年ほど経ちますが、設立にあたって得た学びや経験について教えてください。

New Wind Therapeuticsの設立において、企業としての社会的使命と利益追求のバランスの重要性を強く実感しました。特に、我々が選択したLow-profit Limited Liability Company(L3C)という法人形態は、通常の営利企業とは異なり、収益の最大化よりも社会的な価値の創出に重点を置いています。New Wind Therapeuticsは、がん研究の進展を社会的使命とし、患者の生活に革新をもたらすことを目指しています。この使命の実現に向けて、財務的リターンだけでなく、社会的インパクトに重点を置く投資家とのパートナーシップを追求することで、がん治療の未来に共に貢献する機会を得ることができました。このプロセスを通じて、社会的意義のある挑戦への支持を得る重要性を改めて学びました。
がん幹細胞を標的とする新しい小分子阻害薬の開発には、単に研究を行うだけではなく、資金調達や規制対応など、科学分野以外の多くの課題にも戦略的に取り組む必要があります。特に新しい治療法の開発には様々な研究分野からの協力が求められるため、それを実現するためのリーダーシップと、チーム全体が共通の目的に向かって協力できる環境の整備が不可欠であることを痛感しました。また、この設立経験を通して、次世代の研究者を育成し、彼らに必要な知識や倫理観を伝えていくことが私の使命であることも再認識しました。若い人材が社会へのインパクトと科学的探求をバランスよく追求できるようサポートすることは、New Wind Therapeuticsのミッション実現にもつながると信じています。

ボストン進出を考えている日系スタートアップへアドバイスをお願いします。

ボストンへの進出を目指す日系スタートアップ企業にとって最初に重視すべきことは、現地の人々とのネットワークの構築でしょう。ボストンには日本と異なる企業文化や商業観が根付いているため、現地のビジネスパートナーやアクセラレーターの支援を受けながらローカルのエコシステムに深く入り込むことが成功の鍵となるのではないかと思います。また、ボストンは技術力だけではなく、社会的な意義や明確なビジョンを持ったプロジェクトが歓迎される地域だと感じています。ボストンの投資家や事業者は、事業の持続可能性や社会に対するインパクトを協業や投資の評価基準に求めるケースが多いので、「なぜこのビジネスをしているのか」「なぜこのビジネスをやりたいのか」をしっかりと説明できるようにして、スタートアップとしての価値を示すことが必要だと思います。

ボストンでの日系スタートアップや日本発の技術に対する関心は高いとは言え、単に日本で開発された技術を持ち込むだけではなく、現地のニーズや市場の特性を理解し、それに応じたカスタマイズを行うことが必要です。現地のパートナーとの業務提携を通じて現地の意見や資金を取り入れ、プロダクトやサービスを進化させることで、地域社会に根差した価値提供をすることが可能となります。ボストンへの進出を成功させるためには、単なる技術輸出ではなく、価値の「共創」を目指す姿勢が重要ではないかと考えています。


インタビュアー:CICジャパンデスク
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CICは1999年に米国ボストンで設立。イノベーションを通じた世界中の課題に対する"解"の導出をミッションとし、起業家やビジネスの成長に資するワークスペースやプログラムの企画・運営、強力なグローバルネットワークを提供する。これまでに北米、欧州、そしてアジアに広がったイノベーション・キャンパスは、累計約11,000の企業・組織が利用。ジャパンデスクはボストンを拠点に、日本発のイノベーションをボストンのエコシステムと繋ぐことで、効果的でスムーズな海外展開に貢献している。

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