米USTR、ニカラグアに対する301条調査を開始、人権侵害など理由に
(米国、ニカラグア)
ニューヨーク発
2024年12月11日
米国通商代表部(USTR)は12月10日、1974年通商法301条に基づき、ニカラグアの労働権、人権、法の支配に関する措置・政策・慣行に関する調査を開始したと発表した。国連総会での世界人権宣言の採択を記念した「国際人権デー」に併せて発表された。調査の結果によっては、ニカラグア製品の米国輸入に追加関税などの輸入制限措置が課される可能性がある。
米国の1974年通商法301条は、外国の通商措置・政策・慣行が、通商協定に規定された米国の権利を侵害する場合や、不合理・差別的で米国の商業に負担や制限を与える場合に、大統領の指示に従ってUSTRに追加関税などの輸入制限措置を発動する権限を認めている(注1)。ただし、輸入制限措置の発動に先立って、USTRが調査を実施することや、USTRが調査開始と同時に相手国に協議を要請することなどの要件が設けられている(注2)。
USTRは発表の中で、ニカラグア政府が労働権侵害・人権侵害・法の支配の弱体化に関与しているという米国政府や国際機関の多数の信頼性の高い報告があるとした上で、同国政府の措置は労働者の搾取を助長し、経済成長と貿易機会を損なうものだと問題視した。
官報案によると、USTRは2025年1月8日までUSTRのウェブサイトで調査に関するパブリックコメント(ドケット番号:USTR-2024-0021)を受け付け、1月16日に首都ワシントンで公聴会を開催する。パブリックコメントや公聴会を踏まえた調査結果の取りまとめは、トランプ次期政権の発足後となる見通しだ。
国際貿易委員会(USITC)の輸入統計によると、2023年の米国の対ニカラグア輸入額は47億1,187万ドルで、同年の米国の輸入総額の0.2%を占める。品目別には、輸入額上位順に、絶縁電線・ケーブル(16%)、Tシャツ(15%)、金(12%)、セーター・プルオーバー(11%)、たばこ(8%)、コーヒー(8%)など。
(注1)米国憲法は、通商権限は連邦議会が有すると規定している。他方で、議会は個別の法制定を通じて権限の一部を政権に委譲している(21 トランプ unable to)。1974年通商法301条もその1つで、米国が中国原産品の輸入に課す7.5~100%の追加関税も同条に基づく()。
(注2)具体的な手続きは、同法302~309条で規定される。利害関係者の申し立てに基づいて、またはUSTRが独自に調査を開始すること(302条)。調査開始と同時に相手国に協議を要請すること(303条)。通商協定に関する場合には、通商協定上の紛争解決手続き終了時点から30日以内または調査開始から18カ月以内のいずれか早い方、そのほかの場合には、調査開始から12カ月以内に、調査結果や措置内容を決定すること(304条)。措置発動の場合には、同決定から原則30日以内に開始すること(305条)など。詳細は、経済産業省の不公正貿易白書や、ジェトロのトランプ次期政権下で取られ得るブラック クイーンを参照。
(葛西泰介)
(米国、ニカラグア)
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