タイ中銀、2024年第3四半期の金融政策レポートを公表
(タイ)
バンコク発
2024年12月09日
タイ中央銀行(BOT)は11月27日、2024年第3四半期の金融政策レポートを公表した。同レポートはBOT職員が四半期ごとに作成し、金融政策委員会(MPC)の承認を得て公表されもので、金融政策の決定の基礎となった最新の経済・インフレ予測を提供する。
同レポートによると、タイ経済は2024年に2.7%、2025年に2.9%のペースで拡大すると予想した。成長を支える要因として、(1)外国人観光客数と外国人観光客1人当たり支出額が、2023年を上回ると予想される観光部門の継続的な改善、(2)所得の回復や景気刺激策に牽引される個人消費の拡大(ただし、2023年の大きな伸張によるベース効果または与信の鈍化傾向もあって、個人消費の伸びは鈍化する可能性が高い)、(3)2024年度予算の迅速な執行と政府調達契約の締結や、2025年度予算の承認による、2024年後半における公共支出の加速、(4)貿易相手国の財需要回復や、世界的な電子機器需要の高まりから、財輸出が拡大する見込みであることを挙げた。
他方、景気回復は産業セクターによって不均一であり、構造的要因などによって、成長が弱い特定の輸出品目や製造業については、注視する必要性を指摘している。また同レポートでは、各業界における新型コロナ禍後の景気回復状況を現地調査しており、産業を3つのグループに分類し、次のとおり分析した。
(1)高成長グループ(観光関連事業、サービス業)(GDPの60%、労働力人口の44%)
- 外国人観光客の増加と好調な国内消費支出により、回復を継続。
- 4つ星以上のホテルや主要観光エリアの事業で特に強い回復傾向であり、4つ星ホテルの宿泊料はコロナ禍前に比べて15%以上増加している。
(2)安定成長グループ(不動産・建設業、農業)(GDPの34%、労働力人口の51%)
- 不動産業の回復は緩やか。直近では、300万~500万バーツ(約1,350万~2,250万円、1バーツ=約4.5円)の住宅用不動産の売り上げは大幅に減少する一方、1,000万バーツ以上の売り上げは外国人などの需要に牽引されて主要地方や別荘地で依然として拡大している。
- 建設業の回復も緩やか。新規住宅建設は減少する一方、政府案件に携わる企業は財政予算の継続的な支出により改善が見られた。
- 農産物はエルニーニョの影響を受け、2024年上半期の農作物生産量は減少したが、天候が好転すれば徐々に改善する見込み。
(3)マイナス成長グループ(電子機器・電子部品メーカー、自動車関連事業)(GDPの6%、労働力人口の5%)
- 電子部品メーカーは、コロナ禍の電子部品不足の後、一転して在庫蓄積が進んだ結果、貿易相手国の高い在庫水準も相まって、2024年上半期の電子部品輸出は縮小した。2024年後半には、ハードディスクドライブやカメラ・CCTV用レンズなど世界的な電子機器サイクルの回復により、特定品目の輸出が回復する見込み。他方、人工知能(AI)関連製品の生産能力に対応しているタイ企業が少ないため、AI関連製品の需要拡大から大きな恩恵を受ける可能性は低い。タイからの集積回路(IC)の輸出は縮小が継続される見通し。
- 自動車関連は、全体的に縮小している。背景として、(1)購買力が低下していること、(2)電気自動車(EV)の価格競争が激化する見込みが一部消費者の購入時期を遅らせていること、(3)銀行が自動車購入者への貸し付けに慎重になっていること、(4)中古車価格が低下し、消費者が新規購入の頭金として所有する車を下取りするのが難しくなっていることなどが挙げられる。なお、自動車輸出は2024年末に向けて回復見込みだが、2025年にオーストラリアが、新車効率性基準(NVES:New Vehicle Efficiency Standard、注)の導入を実施すれば、タイで生産される自動車モデルの約半数がNVES基準を満たさない可能性もある。
(注)NVESについては、2024年6月19日付地域・分析レポートを参照。
(藤田豊)
(タイ)
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