米CFS、初の商業用核融合発電所をバージニア州に建設へ
(米国)
ニューヨーク発
2024年12月23日
核融合のスタートアップ企業である米国コモンウェルス・フュージョン・システムズ(CFS、注1)は12月17日、世界初の商業用核融合発電所「ARC」をバージニア州チェスターフィールド郡に建設する計画を発表した。2030年代前半の運転開始を目指し、約15万世帯分に当たる400メガワットの発電能力を持つ施設を同州の送電網に接続したい考えだ。
建設予定地は、世界100カ所以上の候補地から2年かけて選定された。(1)バージニア州は近年データセンターの集積が進んでおり、クリーンで安定したエネルギーへの需要が大きい地域であること、(2)バージニア州には大手原子力関連企業や原子工学科を有する大学が存在するなど、原子力関連の労働力が確保できること、(3)廃止された石炭火力発電所の送電網接続設備を利用できること、などが選定の理由だ。
同プロジェクトに対する地元の期待は大きく、グレン・ヤンキン知事(共和党)は今回の発表に際し、「エネルギーと電力の未来を変えるこの取り組みの拠点であることを誇りに思う」と歓迎する声明を出している。また、州が創設したバージニア・クリーンエネルギー・イノベーション・バンク(VCEIB)も100万ドルを投資するなど、地域を挙げてプログラムを支援していく方針だ。
しかし、核融合技術はいまだ実証段階の技術(注2)で、商業化は依然としてハードルが高いとの指摘もある(CNN2024年12月18日)。米国でも、ロッキード・マーチンが商業用核融合炉の開発を試みてきたものの現在は棚上げされている状態だ(「サイエンティフィック・アメリカン」誌2024年12月18日)。CFSは現在、2027年の実証実験を目指して、マサチューセッツ州で独自の超電導磁石を用いたトカマク型(注3)核融合実証炉「SPARC」の建設を進めている状態で、まずはこれが予定どおり実施できるか注目される。
(注1)CFSは、マサチューセッツ工科大学(MIT)から2018年にスピンアウトして設立されたスタートアップ企業。これまでに20億ドル以上の資金を調達し、米国エネルギー省からも1,650万ドルの助成金を獲得している。
(注2)核融合発電は、(1)燃料として海水から採取できる重水素を活用できる、(2)核分裂のような連鎖反応を伴わないため安全性が高い、(3)高レベル放射性廃棄物が生じない、(4)温室効果ガスを排出しない、といったさまざまな利点があることから各国で研究開発が進んでいる。米国では2022年12月、エネルギー省が、核融合反応において投入量以上のエネルギー生成に成功したと発表している(関連ブラック ジャック ストラテジー)。
(注3)トカマク型とは、環状の電流を有する磁場を閉じ込める方式の1つ。プラズマを閉じ込め、核融合プラズマを生成する。
(加藤翔一、藤田ゆり)
(米国)
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